表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/50

第34話 ブロック大会団体戦予選

七月の夏の陽気が心地よく感じられる朝。

ブロック大会の予選が行われる弓道場には、特有の張り詰めた静けさが漂っていた。


「力を出し切ろう」

冴子さんが気合いを込めて呟く。

その様子を、オレたち応援組は一歩引いて、固唾を呑んで見守っていた。

三年生たちは気をつかったようで応援には来ていない。今頃、学校の道場で厳しい練習に取り組んでいるのだろう。


予選が始まる。

「よし……いけ、杏子」

初めての練習試合、地区予選、そして県大会。団体戦の杏子は、まさに無敵だ。的前では。

オレの隣で見ていたあかねが「杏子ほど的前で変身するやつも居ないんじゃない?」と改めて感心している。

あいつの頭の中は、いつだって「結果」じゃなく「姿勢」のことだけ。そして、「おばあちゃん」に褒められたいって思ってる。

杏子が足踏みを整え、弓を構え、静かに矢を放った。


スパンッ!


放たれた矢は、文句のつけようのない軌道で的の中心に吸い込まれた。

「よしっ!」

オレが思わず控えめな声を上げる。

杏子が作った完璧な流れに、後ろのメンバーも乗っていく。

二番手の瑠月さんが続くと、沙月さんも弦音を美しく響かせて的を捉える。冴子さんも見事にて、そして最後に落(最後尾)のつぐみが、堂々とした立ち姿で的の中心を貫き、一本目を締めくくった。

「すげえ……! 横皆中(全員的中)じゃん!」

一巡目、五射全中。最高の滑り出しだ。


二巡目。

杏子は相変わらず落ち着き払って、再び中心を射抜いた。

「杏子、すごいね……」

あかねが溜息をつくように小さく呟く。オレも、紬も、そしてまゆも静かに頷いた。

瑠月さんも危なげなく的中させる。だが、続く沙月さんは緊張からか、惜しくも外してしまった。

それでも、そのミスをカバーするように、冴子さんとつぐみが力強い一矢を見事に命中させる。

二巡目は五射中四的中。すごい。


三巡目も、杏子は完全にゾーンに入っていた。美しい射形。放たれた矢はまたしても中心に吸い込まれた。

瑠月さんが惜しくも外すが、今度は沙月さんがカバーする。冴子さんも外してしまうが、つぐみが「大丈夫」とでも言いたげに正確な矢を放ち、場内の空気をビシッと引き締めた。

三巡目も五射中三本的中。


そして、運命の最終四巡目。

予選突破のためには、ここで崩れるわけにはいかない。

大前の杏子は見事な一矢を中心に届け、これで皆中。パーフェクトだ。

続く瑠月さんがここを見事に中心へ沈めるが、沙月さんと冴子さんが惜しくも的を外してしまう。二巡目、三巡目と同じように中たりと外れが交差するヒリヒリした展開だ。

そして最後、つぐみが自信に満ちた力強い一射で締めくくる。


「終わった……!」

結果は二十射中、十七的中。

現時点では、堂々の予選一位。決勝トーナメントへの進出を決めた。


オレたちは急いで五人を迎えに行く。緊張の糸がほぐれたように顔を見合わせる選手たち。「みんな、よくやったね!」と瑠月さんが声をかけ、全員が自然と手を重ねて喜んでいる。



全校の予選が終了し、本部に結果の掲示板が貼り出された。

人だかりを掻き分けて数字を確認したオレは、思わず拳を握り込んで声を上げた。

『光田高校 二十射十七中(一位通過)』


「おおおっ!」

オレが勢いよく声を上げると、後ろから無口な紬が控えめに頷き、あかねが満面の笑顔で喜んでいる。まゆもスケッチブックを胸に抱いてニコニコしている。


オレは真っ先につぐみの肩をバンッと叩いた。

「すごかった! ちゃんと見てたぞ!」

「痛っ……まあな、私に取っては普通だ、普通」つぐみがニヤリと笑う。

次に、オレは得意げに杏子に向き直った。

「杏子、グッジョブ! 四戦全中、みんな注目してたぜ」

「ありがとう、栞代」

そう言いつつも、杏子はあたりを見回している。

「おばあちゃん、ちゃんと見ててくれたかなあ……」


杏子の言葉を聞いて、オレは思わず天を仰いだ。

……こいつの頭ん中、ほんまそれしかないんか。

呆れつつも、オレは手を腰に当ててわざとらしく声を張った。

「もちろん、ちゃんと見てたぜ。相変わらずおじいちゃんは見てて面白かったが」

こう言って杏子の安堵する顔を見るまでがお決まりのルーティンだ。

「それにしても、予選一位なんだから、もっと威張れ威張れ! 紬もそう思うだろ?」

話を振られた紬は、杏子たちをぐるりと見渡すと、いつもの無表情で静かに一言呟いた。

「それは、わたしの、課題では、ありません」


「それそれ!」

この一言を忘れちゃだめだ。

「栞代、今の絶対に狙って振ったでしょっ!」

あかねが笑いながら、かばうように紬の肩を抱く。


「団体の杏子は、ほんま無敵やな。絶対に他校の情報は、こいつには知らせるなよ」

つぐみが呆れたようにまゆに言っている。まゆは全てを心得たように、指でオーケーサインを出している。


「杏子、早くおじいちゃんとおばあちゃんに会いたいんやろ!」

「うんっ」

杏子は照れたように笑いながら、まだ探している。

「……どこで見てたのかなあ」

おばあちゃんを直接探すから分からないんだよ、杏子。

「あそこで、分かりやすく『隠れているフリ』をして目立っている、おじいちゃんの近くだろ」

オレの的確すぎる指摘に、みんなが声を上げて笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ