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第23話 地区予選

地区予選大会の朝は、春の柔らかさを残しながらも、少しずつ初夏の明るさを帯びていた。

学校の集合場所に集まった部員たちを見回し、栞代はふと首を傾げた。

あれ? 拓哉コーチと、瑠月さんがいない……。

二人とも時間に遅れるようなタイプではない。それだけに、何か妙な違和感が胸に広がる。

だが、顧問の滝本先生は二人を待つ素振りは見せず、「二人は先に会場に行っています」とだけ告げた。


「……二人とも先に行ってるみたいね。さあ、行こう」

部長の花音が少し腑に落ちないといった顔をしながらも、出発の号令をかけた。今日は大切な地区予選の日だ。栞代も気持ちを切り替え、バスに乗り込んだ。


ところが、会場に到着した栞代たちは、思いもよらない光景に目を丸くすることになった。

「えっ……なんで三年生が?」

思わず栞代の口から声が漏れる。そこには、すでに引退状態だったはずの三年生たちの姿があったのだ。しかも、そのそばには拓哉コーチと瑠月の姿まである。

状況が理解できず戸惑う栞代や花音たちに対し、滝本顧問が説明を始めた。


「今年の地区予選には、花音さんたちだけでなく、三年生全員が参加します。彼女たちは光田高校Aチームとして団体戦に出場します。そして、そこに瑠月さんも加わります。あなたたちは、Bチームとして出場します」

「えっ!?」

部員たちから驚きの声が上がる。瑠月が団体戦メンバーとして復帰するなんて、まったく想定外の展開だった。しかしすぐに、安堵と喜びの声が広がっていく。

「花音さん、知ってましたか?」と冴子が尋ねた。しかしすぐに、安堵と喜びの声が広がっていく。

「花音さん、知ってましたか?」と冴子が尋ねる。

「いや、全然知らなかったわ」と花音は困惑気味に首を振った。

「でも、瑠月さんが試合に出られるなら、本当に良かったですよね!」

沙月が明るく笑う。栞代も心からそう思った。

思わぬ展開に戸惑いつつも、試合へのカウントダウンはすでに始まっていた。


今年の地区予選は、新しく青竹高校が加わり出場校が七校となった。そのうち、上位三チームに入れば県大会への出場権が与えられる。また、団体で進めなかった場合でも、個人で四射中三射を当てれば、県大会への個人出場権が得られる。


会場には東山、海浜、安政、坂下、川嶋女子、青竹、そして光田の選手たちが集まっていた。

「緊張してるか? 初めての公式戦だからな」

出番を待つ間、つぐみが杏子に声をかけるのが聞こえた。

「ううん、大丈夫。おばあちゃんの胸当てしてるから」

杏子はそういいつつも、足元がおぼつかない。


試合は予想以上の接戦となった。

先に出場したBチームの立ち順は、杏子、沙月、花音、冴子、つぐみ。

応援席から見守る栞代の目の前で、大前の杏子が静かに弓を構えた。その瞬間、会場の空気がスッと変わるのを感じた。

杏子とおちのつぐみは、持ち前の実力を遺憾なく発揮して見事に皆中(全的中)を達成。花音、冴子、沙月もそれぞれ二本ずつという安定した成績を残し、合計十四本の的中を叩き出した。


ライバルである川嶋女子は日比野希の皆中を含め十三本。青竹高校も桑原美香の皆中があったが十二本。

結果、光田高校Bチームは、見事一位で通過を果たした。

「やったっ……!」

栞代は思わずガッツポーズをした。光田高校にとって総体は十年ぶりの予選一位通過。川嶋女子の連続一位記録を止めた瞬間だった。


そして、栞代の視線はもう一つのチームに釘付けになっていた。光田高校Aチームだ。

連休明けから、誰にも見えないところで必死の努力を重ねてきたのだろう。その射型は、適当にやっていた以前とは見違えるほど綺麗になっていた。

しかし、公式戦の異常な緊張感と弓道のシビアさは、一ヶ月の努力で簡単に覆せるものではなかった。三年生たちの矢は、的の枠を掠め、あるいは安土あづちに突き刺さり、無情にも次々と外れていく。

「ああっ……」

的中ゼロが続き、絶望的な空気が漂う中――最後に弓を構えたのは、リーダー格の西門理子だった。

理子は震える腕を必死に抑え込み、的を真っ直ぐに睨みつける。そして、放たれた最後の一本の矢。


パーン!

小気味よい音が響き、矢が見事に的を射抜いた。

「……っ!」

その瞬間、理子の目からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。そして、当てられなかった他の三人の三年生たちも、唇を噛んでいた。

……本気で悔しがってる。


そして、Aチームの中で瑠月は見事に四本中三本を的中させた。チーム全体としては四本的中で予選敗退という結果だったが、瑠月は実力で県大会の個人出場権をもぎ取ったのだ。


試合後。栞代は真っ先に杏子のもとへ駆け寄った。

「やったね、杏子!」

「うん」

優しく微笑む杏子は、続けて、

「おばあちゃん、ちゃんと見ていてくれたかなあ」

と、相変わらずなことを言った。

「ああ、さっき観客席でおじいちゃんがめっちゃ騒いでたから、絶対見てたはず」

栞代の言葉に、杏子も嬉しそうに目を細めた。


「みんな、本当にお疲れ様!」

花音が部員たちを集め、部長として力強く呼びかけた。

「でも、これはまだ通過点。県大会でも、このチームワークを見せましょう!」

部員たちが静かに、しかし熱を帯びて頷く。


「ねえ、杏子ちゃん。初めての公式戦なのにいつも通りなんて、ほんとすごいね」

瑠月が晴れやかな顔で声をかけた。

「いえ、瑠月さんも個人での県大会出場、本当におめでとうございます!」

「ありがとう」

「杏子は全くいつも通りだったよな。逆に驚いたよ」と冴子。

「でも、杏子らしかったわよね。いつもと同じ、あの美しい射形」と沙月。

つぐみは言葉なく、深く頷いていた。


「紬、応援しにきた甲斐があったな」

「それは、わたしの、課題では、ありません」

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