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020:どこぞの貴族なのか

 衝撃的な事実を聞かされた一時間後。


 里子たちが作ってくれた昼食を食べ、祖母はすぐに書斎へ向かった。いくら田舎の、それも秘境とはいえ現代化しており、インターネットは使えるらしい。そうでなければスマートフォンも使えないわけだが。パソコンを用いたオンライン会議とやらに参加しなければならないという。当主としての務めらしい。


 対する俺はといえば、特にやることもない。鹿波はまだ帰ってこない。勉強をする意欲もわかない。


 そこで、押し入れの奥を探ってみることにした。


 龍たちによって運ばれた俺の荷物のなかに、封印したいものがあったので段ボール箱に収納し、押し入れの奥へと封印した。その時に別の段ボール箱が置いてあったことに気付いた。


 二日目は荷物の整理で忙しかったので開封できなかった。開けるなら今しかない。


 二段になっている押入れの下の奥。封印したものの手前に仮置きした。それを手にして引っ張り出す。


「………なんだ、これ」


 誰かの悪戯でもされているのではと訝しむも、そんなことはなかった。


 時代を感じさせる段ボール箱に収納されていたのは、子供向けのおもちゃや日記帳、絵本に色鉛筆。今の俺にはまったく必要とされていないものばかりだ。それにしてはすべて新品同然で、おもちゃに至ってはパッケージの封すら開けていない。色鉛筆が詰まった箱はビニールのラッピングを巻いたままだ。


 いったい誰が、なんの目的でこんなところに封印したのか。


 しかし探っている途中で、唯一開封したものを発見した。


 一冊のスケッチブックと、使いかけのクレヨンだ。ページを開く。五歳児が描いた絵そのものだ。


 ひとりは自分。そしてもうひとり。身体的特徴こそ俺を模したイラストの容姿と同じで、読み取れない。服の色だけはわかる。ピンクだ。髪型はセミロング。


 俺の記憶のなかにいる、十年前に一緒に遊んだ少女だろうか。


「………まさか、九九利?」


 龍ヶ棲町で俺を知っている人間は少ない。まだ越して一週間と少しばかり。その期間で会話できたのは総人口の一割弱。さらに十年前という条件も加算すれば、絵のなかにいる少女が誰なのかという推測がより困難となる。


 真っ先に候補に入ったのが鹿波だが、あの凶暴な性格をしている女が本当にこの少女なのかと問われれば、素直に頷き難い。なにより彼女の髪は赤い。絵の少女は黒だ。なにかが切っ掛けとなり染めたというなら納得はできるが。


「それとも、新見?」


 もうひとりの候補が珠乃だ。


 彼女は鹿波よりも確率が高い。今でも天真爛漫で溌剌としていて、俺の手を引っ張ってくれて───なにより登校初日で俺の名を呼び当てた。


 順当に考えれば珠乃が絵のなかの少女で間違いない。が、それにしては反応が薄いというか、久々の再会だとしても、あまり昔話をしない。たまに短時間であるがふたりきりになった時、「ねぇ、覚えてる?」など一言も聞かれたことがない。


 つまり、鹿波でも珠乃でもない、別の誰か?


 いるのか? そんな幼少の頃から渡良瀬家に出入りするような子が。歳は俺とほぼ同じだとすれば、あの学校に通っている。しかしあちらからのアプローチはない。


「………わかんねぇ」


 なにかヒントを得たとしても、この程度。


 それとも、もしかして俺の都合のいい妄想?


「………妄想じゃない。確かに、そう………確かに、いたんだ。それで俺は、なにか約束を………なんだったっけっかな。俺とあの子が、なにかをする。そんな約束を………」


 どれだけ頑張っても思い出せそうにない。


 畳の上に寝っ転がって記憶を探るも、それ以上のヒントはいつまでも浮かんではこなかった。






   ------------






 二日が経過した。


 土曜日の夕方。翌日が休日で、しかし特にやることもない俺は、夕飯を前にスマートフォンを握ってクッションの上に寝そべって画面を睨んでいた。


 東京にいた頃は、自分で夕飯を作るのが日課だった。というのも妹は心に病を抱えていて、両親が付きっ切りで世話をしなければならなかったからだ。


 都内の精神科に通院する必要があった妹は、両親の愛によってこれまで生きてきた。


 ただ有名な病院らしく、待ち時間も長い。そうなると自然に食事をする必要があり、午後に通院をすれば夕飯は三人で外食をするのが通例となっていた。


 昔は寂しくてたまらなかったが、中学生になると部活に入り、仲間とトレーニングに精を出すのがたまらなく楽しくて、寂しさは薄れた。昼食は近所の安い牛丼屋で済ませ、夕飯はスーパーマーケットで材料を購入し、調理して食べる。


 両親は一応、俺のことも見ていた。見ているだけだった。食事代と称してテーブルに千円札を置いていく。


 まぁ、昔はそれで豪勢な外食に味を占めていたのも事実で、千円でどれだけ食べられるのかを調べて腹を満たしていた。しかし中学生となるとなにかと物入りで、どうしても小遣いが必要となる。例えば休日は学校が開いていないので近所の施設を借りる際など。


 すると千円ではとても足りないので、食事代を切り詰めなければならない。そこで俺は中学生ながらに自炊を覚えた。幸い、家にある食材や米は自由に使えた。朝に冷蔵庫を確認し、どうしても必要なものがあればスーパーマーケットの特売品を狙うなど、主婦が命を懸けて取り組むであろう戦いに挑んだ。


 最初はどうにも苦戦した料理だが、中学一年生の夏休み後となれば慣れたもので、家にあった母の調理本などを読み漁っては安い材料で大量生産できて栄養価のあるものを作れるようになった。


 ところは今はどうだ。


 玖頸家から追放され、渡良瀬家の養子となってからというものの、暮らしが一変した。


 その好待遇といったら、どこぞの貴族なのかと疑いたくなるものばかり。


 待っていても食事が出てくる。おかわりが欲しければ自分で取らずとも里子が取ってくれる。むしろ茶碗が空になった瞬間に二杯目が出てくる。食後、食器を片付けようとすれば里子率いるお手伝いさんチームが率先して片付ける。


 これが当主の家に許された特権というものだ。


 慣れない。圧倒的に慣れない。


 掃除、洗濯に至ってもそう。今まで自分でやってきたものを、誰かがやってくれる。俺から返せるものなどひとつもないのに。


 一度、祖母に相談したことがあったが「邦子の粗相の詫びさ。甘えられるのも今のうち。であれば精一杯甘えておきなさい」だとか。


 祖母も鹿波も同じ待遇。大間なんてマッサージ付き。


 ここにいると人間がダメになりそうで、恐怖も覚えた。せめて里子に調理や掃除の手伝いを申し出たところ「これまで苦労された坊ちゃんに、そんなことはさせられません!」と逆に怒られた。なんで怒られたんだろう。


「………小僧」


「大間か?」


 その時だ。床の下から男の低い声がする。何度か悪戯されたので驚いたが、今ではもう慣れた。………慣れって怖いな。


「降りて来い。神音が呼んでいる」


「わかった。すぐ行く」


 夕飯にはまだ早い。いったい、なんの用なのだろうか。


まるで貴族のような生活に憧れを抱く今日この頃。


子供の頃はそうだった。食事は母親が調理し、食べ終えたら放置して、母親が食器を洗う。


まぁそれも今となっては無縁というもの。私は飲食業に務めていましたので、食事の支度はもう慣れました。従事していた頃は味は歪ながら洋中和となんでも作れました。もちろんレシピを見ながらですが。


今はその名残で、記憶を頼りに食事を作っています。


本文ですが、今後は辰が昔に会ったか、それとも妄想なのか、謎の女の子についても語っていきたいですね。


次回の更新は夜に行います!

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