第69話 迫り来る怒涛の変態と、婚約話
第69話を公開しました。
待望の新たな仲間。
だがどうやら一癖あるようで……?
鎧が少女になった。
この事実に『フォルテクス』の王も忠臣たちも驚きを隠せないでいた。
だがそのような中でただ一人、現れた少女ではなく与人に注目しているのはフレイヤであった。
新しい仲間が増えた事に喜ぶ与人をフレイヤはただ見つめていた。
(……あぁ。やはりこの方こそが)
そんなフレイヤの心の声が聞こえるはずも無く、与人は新たな少女に自己紹介する。
「初めまして。知ってるかも知れないけど俺の名前は」
「葉山与人さんと言うんですよね。ウチは使い手さんと呼ばせてもらいますね。ウチの事は好きに名前を付けて下さいね」
そう笑顔を浮かべる少女に対して与人は少し頭を悩ませる。
今までであれば自己申告だったり種族の名から一部を取ったりとしていたが、今回は鎧である。
流石にアーマーから取る事も出来ず、更に使用者の名前だとアイナと被るため与人は頭を悩ませた。
だが、ふと少女の深紅の瞳が目に入り一つの名前が浮かんだのであった。
「……スカーレットじゃ駄目かな?」
「スカーレット……いいですね!」
鎧の少女改めスカーレットは名前を気に入ったようでその後も何度もつぶやいている。
「そんなに気に入ったのですか?」
そこに事態を静観していたユフィがそう聞くとスカーレットは微笑みながら答える。
「ええ。特にスカーと言う言葉が入ってるのが気に入りました」
「? それは傷を意味する言葉でしょう?」
アイナがそう聞き返すとスカーレットは鎧越しでも分かる豊満な自身の胸に手を当て言葉を紡ぐ。
「鎧にとって傷とは主の痛みを減らす事が出来たという誇りです。ですから名前にそれを表しているのはウチにとって喜びでしかありません」
「スカーレットさん……」
サーシャがスカーレットの言葉に感銘を受けたように瞳を潤ましているが、段々とスカーレットの頬が赤らんでいく。
「そう。使い手のために敵からの傷を受けているのであって別に私が痛みに興奮を覚えるとかそういう訳ではなく。で、でも痛みに慣れる為に時々使い手さんに鞭で叩かれるのは有りですよね」
「主殿。もう彼女はここに捨ておきましょう」
ユフィがそう冷めた目でスカーレットを睨みながらサーシャと与人を自身の後ろに下げさせる。
だが、そんな態度にも興奮するのかスカーレットの頬はさらに赤くなる。
そんな彼女に引きつつも、アイナはユフィに頭を下げる。
「せ、戦力にはなるはずですから、多少の癖は見逃がすべきかと」
「俺も同意見。この位で引いていたら『スキル』なんて使ってられないよ」
二人の言葉を受けてスカーレットへの態度を少しだけ和らげるユフィ。
だが警戒はしているようで、未だにサーシャは自分の後ろに避難させたままである。
「んん!! ……こちらの話を進めようか」
「! も、申し訳ありません! フォルテクス王!」
すっかり存在を忘れていた王に対して改めて礼をとる与人たち。
王はスカーレットを深めた全員を見渡すと何かを吐き出すように口を開く。
「なるほど。お主の『スキル』、しかと見させて貰った。この事も含めて我が娘との婚約について臣下と話し合うのでしばし時間を」
「いえお父様。ワタクシの心はもう決まっております」
父であり王である人物の声を遮り、フレイヤは与人の前まで歩いていく。
「初めて知った時から興味が尽きませんでしたわ。その相手がワタクシを負かし、もうこの方しか考えられません」
フレイヤは雰囲気に押されて動けなくなっている与人の頬に手を当てるとその唇を与人の唇に重ねた。
「なっ!?」
思わず大声で叫ぶアイナを無視し、フレイヤは与人に告げるのであった。
「ワタクシの夫となってもらえませんこと? 葉山与人様?」
「……」
その言葉にいち早く反応したのは、突然の展開に言葉を失う与人ではなく怒りの表情を見せるアイナであった。
「ま、待ちなさい! 王女とはいえ勝手にそんな事は許せません!」
「……あなたは彼の恋人なのかしら?」
フレイヤに何でもないように聞かれたアイナは自信満々に答える。
「ええ! 私が主様の恋人なのです!」
(疑似ですけどね)
心の中でユフィがそう突っ込んでいるとフレイヤは笑みを浮かべつつアイナの手を取る。
「そう。だったら第二夫人に興味はないかしら?」
「……はい?」
提示された提案にアイナが固まる中でフレイヤは彼女の耳にささやく。
「優れた人物には好意を寄せる異性も多いわ。ワタクシの提案では確かに一番にはなれないかも知れないけれど。確実に二番手にはなれるわよ?」
「そ、それは……」
フレイヤの言葉はまるで毒のようにアイナの思考を染めていく。
ここぞとばかりにフレイヤは更にささやいていく。
「それに彼も信頼できる人が近くにいるのは安心するでしょ? 彼は女性に囲まれて、あなたは彼の傍にいられて。何も悪い事なんて無いでしょ?」
「……」
フレイヤがアイナから離れるとアイナは与人の方を向いて進言する。
「主様。申し入れを受けるのも手では無いでしょうか」
「アイナ!?」
突然の心変わりに動揺する与人。
だが動揺しているのは与人だけでは無かった。
「ま、待ってくれフレイヤ! 国の大事をそう簡単に決めるのは流石に……!」
王は玉座から立ち上がり、慌てた様子でフレイヤを静止させようとする。
与人とフレイヤと婚約となれば当然、この『フォルテクス』の次の国王となるのは与人となるだろう。
異世界の住民であり、更には大国である『グリムガル』に追われている身である与人と婚約させるのはあまりにリスキーと言えるであろう。
「……お父様」
「な、なんだ」
実の父である王の方を振り向きもせずにドスの効いた声を出すフレイヤに王は押され気味になるが、王も威厳を保とうと気合を入れる。
そんな王に対してフレイヤはただ一言だけ放つのであった。
「『あの事』、お母様にお話ししてもよろしいんですか?」
「与人殿。娘の事をよろしく頼む」
「ちょっ!?」
急激な手のひら返しに与人が驚きの声を上げる中でフレイヤは周りの忠臣たちを見渡す。
何か言いたげな者もいたが、誰もが発言する事なく事態を見守っていた。
その様子に呆れたようにしながらも、与人の方を向くフレイヤ。
「さて。今ここに反対する者は居りませんわ。後はあなたの意思しだいですわよ?」
そう妖艶とも取れる笑みを浮かべるフレイヤに与人は何も言えなかった。
強力な味方であるはずのアイナも完全に乗る気であり、ユフィとサーシャは完全に静観するつもりである。
唯一話について行けずオロオロするスカーレットだけが、与人の癒しであった。
だがいつまでも黙り込む訳にもいかず、与人は口を開く。
「ほ、保留で」
逃げとも先延ばしとも言えるセリフを聞きつつスカーレットは思うのであった。
「何だか分からないけど、大変な時に来ちゃったな。ウチ」
今回はここまでとなります。
次回は視点変わって、マキナスへと戻ります。




