第70話 竜と書と手紙
第70話を公開しました。
与人の留守を守る、ある二人のお話。
「……ふむ」
場所は『フォルテクス』から変わり『マキナス』にある与人たちの屋敷の広間。
そこでただ一人、静かに考え込んでいるのはパーティーメンバーの頭脳とも言えるストラであった。
「随分と考え込んでいるな」
そこに一人声を掛けて来たのはリントであった。
先ほどまで寝ていたのであろうか、寝癖がついた髪をそのままにストラに近づいていく。
「リント殿。寝ずの番、お疲れさまでした」
「気にするな。どの様な輩が来るか分からん以上は警戒はしといた方がいい」
リントが近くにあった椅子に座ると、ストラは手にしていた一枚の紙を渡した。
「これは?」
「手紙ですよ。与人様と一緒に行動しているユフィ殿からの」
そう言われてリントが手紙を読んでいくが、読み進むにつれて困惑した表情になっていく。
「おい。いろいろとツッコミ所が多すぎるんだが」
「ですよね」
リントの言葉に思わず苦笑いを返すストラ。
だが次の瞬間には真剣な表情となる。
「ですがこれを書いたのはユフィ殿、彼女がこのような冗談を書くはずがあり得ません。書いてる事は全て事実と判断するべきでしょう」
「……何故か主が武術大会に出て優勝した上に、王女に惚れられた事を現実として受け入れろと?」
「突拍子もない話ではありますが、それが事実である以上は受け入れなければなりません」
「……」
「ですがそれ以上に問題にすべき点があります」
リントから手紙を受け取りつつストラはその手紙を注視する。
「この手紙が無事に届けられた事、それ自体が問題です」
「……どういう意味だ」
真剣な表情でストラを見つめるリント。
手紙を置いて身につけてるモノクルを弄りながらストラはその質問に答える。
「既に読んで理解しているとは思いますが、与人様は現在『フォルテクス』の王城に滞在しています。そうなると共に行動しているアイナ殿、サーシャ殿、そしてユフィ殿も共に城にいるはずです」
「だろうな」
「当然の事ですが、手紙とはいえ他国に届けられる以上は検閲が入るはずです。そして我々は現在、『マキナス』の中核と繋がっている状態です」
ストラはそこで一旦息を整えると手紙を見つめながらリントに一つ問いかける。
「さてリント殿。国の忠臣と繋がっている者が他国に長期間、それも無許可でいる場合。どのような事態を想像しますか?」
「……監禁。そこまでかなくと脱出できない状況を想像するな」
「ええ。この手紙は与人様が無事である事を示す為のものでもあります。ですが内容が軟禁されていると書かれているのに『フォルテクス』、いえ。この場合はフレイヤ王女でしょうが。この手紙をそのままこちらに寄こした」
「なるほどな。つまり『マキナス』と揉める事になろうと主を手放す気は無い。そう言っていると」
リントの推測にストラは大きく頷く。
実際にはこの他にも細かな意図が隠れてはいるのだろうが、それを理解できるのはストラのみであった。
「で? この手紙を受け取ってどう行動するつもりだ?」
リントの問いかけにストラは大きくため息を吐きながら答える。
「特に何も」
「……ここで動くのは得策ではない。そういう事か」
「察しが良くて助かりますリント殿」
ストラは置いてあった水を飲みんで喉を潤すと、説明を開始する。
「まずエクサ王やその周辺に相談するのは得策とは言えません。高度な政治的な問題にもなりかねません」
「そうなれば無理に奪い返す訳にも行かなくなる、か」
リントもストラと同じく水を飲みながら状況を理解する。
当然、暴力的な行為は最終的な作戦ではある。
だが政治的な問題となればそれすら実行できなくなる可能性が高い。
「それは『マキナス』に近しい我々が動いても同じ事。精々出来る事と言えば国境近くに誰かを待たせておく事ぐらいでしょう」
「そうなるか。……この事を知っているのは?」
「我々二人と手紙を受け取ったセラ殿だけです。無論後で口止めはしますが」
そう言いながらストラは用済みとばかりに手紙を破いて火にくべる。
こういった証拠になる物は灰にしてしまうのが一番である。
後で灰を川に流す事を頭に留めておきながら、ストラはボソリと言葉を漏らす。
「それにしても……」
「ん?」
「いえ。追われる身であった与人殿が、王女との婚約話が出るとは。まったく、事実は小説よりも奇なり言うのでしたね。与人殿の世界では」
「……戦略書。一つ聞くが、もし主がこの婚約を。いや、もし王として立つ日が来るのならば。お前はどうする気だ」
リントの質問にストラは振り向く事も、考える素振りも見せずに答える。
「無論決まっているでしょう。与人殿が王として行動するならば、その臣下として動くだけです。それはリント殿、アナタも同じでしょう?」
「……まあな。くだらない質問をしたな」
「ええ。メンバーの誰に聞いても同じでしょうね。与人殿が居るから我々はこうして自分の意思で動けるのですから」
個人によって与人に対する感情はそれぞれであるが、それでもメンバーの中で人間になった事を恨んでいる者はいなかった。
人間になって初めて感じた事や見たもの、それら全ては与人が与えたモノである。
このパーティーが大きな揉め事が少ないのはそれが与人以外の共通認識だからである。
「まあ本人にあまり自覚が無いのは少し問題だがな」
「そう簡単に人間の価値観というのは変わりませんよ。それを変えるだけの何かと出会わなければね」
手紙が完全に灰になったのを確認してストラは灰を取り出し袋に入れる。
そこでようやくリントに振り向くとその表情は困ったようにしていたが、口元は緩んでいた。
「それにソレが与人殿の良い所でもあります。それにあまり調子に乗って無暗に『スキル』を使われても困りますしね」
「……フフ」
リントが笑みを返すと、ストラは灰が入った袋を手にしたまま広間の扉に進んで行く。
「自分はこれを処分してきます。もしセラ殿に会ったら口止めの件、伝えておいてください」
「ああ。了解だ」
返事を返す事も無く広間を出ていくストラの足音を聞きながら、リントは天井を見上げてここにいない与人に向けて言葉を放つ。
「さて、この先どんな選択をするか。期待してるぞ、主」
その表情からは明らかに与人に対する信頼が窺えたのであった。
今回はここまでとなります。
次回の視点は再び悩める与人の元へ!




