第67話 憑依
第67話を更新しました。
与人とフレイヤとの戦い。
その決着とは?
そこから先の展開は一方的と言えるものであった。
段々としかし苛烈になっていくフレイヤの攻撃に、与人はカウンターを打ち込む隙すら与えられなかった。
「ご、ご主人様……」
不安そうに試合を見つめるサーシャの横で、ユフィはいつの間にか復活した人物に問いかける。
「アイナ様。剣を扱う者として、この試合の行方をどう見ますか?」
「……非常に勝つ手は少ない、とだけしか」
与人第一のアイナにすれば弱気とも取れる言葉に今の状況を察するユフィ。
さらに過激さを増していくフレイヤの剣に会場が盛り上がりを見せる中、三人は冷静に事の行方を見守っていた。
「……ユフィ」
「何ですか?」
「もし私が乱入するつもりでいたら……止めますか?」
そう問いかけるアイナの顔は真剣そのものであり、冗談を言っているようには見えなかった。
寧ろユフィはアイナが聞いて来た事自体に驚いていた。
「正直言って、意外です。何も言わなくても主殿が怪我を負えばすぐに飛び出すものとばかり」
「人を一体何だと。確かに忠義は尽くしますが、そこまで無鉄砲では無いです。それに……」
アイナは未だに防戦一方ながら諦めていない与人から片時も目を離さず答える。
「私が乱入すれば主様の頑張りが無駄になります。それはあってはならない事です」
「……そうですね」
どれだけ与人が努力をしてきたか見ていたユフィとしても、最後まで見守りたいという気持ちは強かった。
アイナと同じく与人から目を離さないでいるユフィはアイナに先ほどの問いかけに答える。
「先ほどの問いかけの答えですが。あくまで死にそうであるという条件ならば止めはしませんよ。まあ、布などで身を隠してほしいところではありますが」
「……てっきり何が何でも止めると思っていました」
「いざ。というときの脱出路です。そもそも最終的な手段なのは変わりありません」
ユフィは軽くため息を吐きながら、戦っている与人を優しく見守る。
「勝てるでしょうか? 我らが主殿は。」
「……ここにいるほぼ全てが主様の勝利は期待してないでしょうし、想像していないでしょう。」
落ち着いた口調でただ事実を述べるアイナ。
だがその目は、ただ一人の勝利を祈っていた。
「ですから。せめて主様の……仲間である我々ぐらいは勝利する事、それが駄目でも無事に戻る事を祈りましょう。人かどうか分からない我々にもそのぐらいの権利はあるはずです」
「……そうですね」
アイナの言葉に頷き、ユフィはただの武器であった自分に人としての生を与えた唯一の人の姿を見つめる。
「少しだけなら毒を送り込んでも」
「止めましょうサーシャ殿。我々がすべき事は、戻って来る主殿を迎える事です」
恐ろしい事を思案していたサーシャを戒め、三人はただ一人の男の勝利を祈るのであった。
「はぁ……はぁ……」
「存外に粘りますのね。予想ではもう勝利していたのですけど」
息も絶え絶えな状態である与人に対し、フレイヤは少し息を荒くしながらもまだ余裕がある様子で与人に話しかける。
額の汗を拭いながら息を整える与人は、せめてもの強がりとして言い返す。
「……ご生憎様。何でも思い通りになると思うなよ、お姫様」
「あら? そのような言葉はワタクシに攻撃してからでもないと説得力がありませんわよ?」
「っ!! ……」
フレイヤの言葉に黙り込んでしまう与人に対しフレイヤはその周りを隙を伺うようにして歩き出す。
警戒する与人の周りを歩きながらフレイヤは与人に声をかける。
「スローン。……本当の名は知りませんが、一つよろしくて?どうしても気になる事がありますの」
「……何だ」
警戒を解かずにそう返す与人に、フレイヤは質問をする。
「何故そこまで頑張りますの? 予想からしてアナタの目的は鎧のはず。ならば痛い思いをしてまでワタクシと戦う理由はないでしょう?」
試合が始まってから粘り続ける与人にフレイヤは疑問を持っていた。
最悪、試合放棄して逃げ出す事も予想していた彼女にとっては、ここまで防戦一方とはいえ戦い続ける事は想像していなかった。
「……はは」
質問された与人は、突然笑い出すと武器を構えたまま視線を僅かに応援席に向ける。
フレイヤも与人と同じ方向に視線を向ける。
見渡す限り人が埋め尽くしている状態で、与人の視線は確かにある三人を見つけていた。
自分の勝利を祈ってくれている、三人の少女の姿を。
「今あそこに仲間がいる。……俺が勝手に引っ張り込んだ仲間が」
与人の『スキル』を知らないフレイヤには分からない事ではあったが、それでも彼は語り続ける。
「今更あいつ達に罪悪感とか抱く事自体、ここまで付いて来てくれたアイツらに申し訳ない事かも知れない。だから口にはしないが心の底ではいつも不安がある、本当は恨んでるんじゃないかと」
与人の真剣な様子にフレイヤは口を挟まず、ただ聞いていた。
「だけど。思い上がりだとしても、何だとしても。今アイツらは俺に期待してくれている。だったら!!」
突如声を張り上げる与人の気迫に、一瞬ではあるがフレイヤは押されてしまう。
「無様でも何だろうと! 例え勝てなくても! 必死な姿を見せなきゃ! こんな俺を期待してくれているアイツらに! 合わせる顔が無いだろうが!!」
与人は改めてフレイヤと向き合う。
その表情は、防戦一方とは思えないほど気迫に満ちたものであった。
「来いよお姫様。弱くて無様な一般人の足搔き、見せてやるよ」
「……どうやら勘違いしているようですから教えてあげますわ。その足掻きは決して無様ではありません」
フレイヤは今まで以上に真剣な様子で剣を与人に向けて構える。
その表情からは油断は一切なく、むしろ警戒に警戒を重ねていた。
「敬意を持って剣を振るわしていただきますわ。そして光栄に思います。あなたのような方と戦えた事を」
そう言った瞬間、与人の視界からフレイヤが消えた。
いや、与人だけではなく多くの観客の目からフレイヤは消えた。
今までとは比べ物にならない高速での移動。
それを与人が理解する頃にはその右側から振るわれたフレイヤの剣が迫っていた。
「!!」
与人も急いで剣を振るうが、間に合いそうにも無かった。
(勝った!)
スピードと威力、そしてタイミング。
それらがかみ合った一撃にフレイヤは勝利を確信をする。
与人自身も負けを覚悟してしまう。
だが、一連の動きを確実に捉えていたにも関わらず祈り続ける三人が視界に入る。
それを見て与人は持てる力を剣に込める。
(最後まで、足掻く!)
そう覚悟を決めた時であった。
《『ぎじんか』がレベルアップしました。これより能力、憑依を得ました》
カキン!!
その声が聞こえたのと金属が重なりあう音が聞こえたのは同時であった。
だが与人が確認できたのは、呆然としているフレイヤ。
そしてその後ろに突き刺さった彼女の剣であった。
「し、勝者!! スローン選手!!」
進行役のその声と会場のどよめきだけが、会場を包むのであった。
今回はここまでとなります。
謎の能力『憑依』とは?
そして与人たちの今後は?
次回をお楽しみに!




