第57話 与人、闘技場に立つ!……何でこうなった
57話を公開しました。
与人は、闘技場の中心で後悔していた。
「何で……こうなった?」
もう何度目になるか分からない言葉を吐く。
与人の耳には多くの人の歓声が聞こえているが、今の与人にとってはそれも憂鬱なサウンドにしか聞こえない。
「では第三回戦を開始いたします!挑戦者の入場です!」
「スローン選手、入場してください」
スタッフに言われるがまま与人は通路を通り外に出る。
すると、歓声が一際大きくなりまるで地響きするかのようであった。
だが与人にはそのような事を気にする余裕すらなく、だだ目の前の屈強な戦士を見ていた。
その手には剣が握られており与人に緊張が走る。
そしてその与人の手にも同じく剣が握られているが、その手は明らかに震えていた。
(本当に……)
「ではこれより! フォルテクス闘技場記念大会、第三回戦の選手を紹介いたします! 西口からは無頼の傭兵! マーズ!!」
「ウオォォォォォォ!!」
マーズが剣を高々と上げて雄たけびを上げると、歓声が一層高まっていく。
「そして東口からはブラッド・アライアンス所属! スローン!!」
紹介されたため与人も剣を高らかに上げると先ほどと同じように歓声が高まっていく。
だが与人の心は冷めきっており、心の中で何度目か分からない言葉を呟くのであった。
(何で……こうなった)
時間は二週間ほど前にさかのぼる。
屋敷で暮らし始めてから一ヵ月ほど経ったある日の事であった。
「フォルテクス闘技場?」
「はい」
与人は情報収集に専念していたユフィからある報告を受けていた。
「『マキナス』に接している大国の一つ『フォルテクス』。戦士の国とも称される『フォルテクス』で最も大きな闘技場がフォルテクス闘技場です与人様。」
一緒にユフィからの報告を受けていたストラが与人に説明をする。
その隣には皆のまとめ役となりつつあるリントと、当然のようにそこにいるアイナの姿があった。
「その闘技場で記念大会が行われ、その大会の優勝賞品が」
「初代勇者が愛用していたと呼ばれる鎧だそうです」
「……」
ユフィの報告を黙って聞いているアイナの表情はどこまでも真剣であった。
初代勇者の鎧となればアイナとしても関係の深い装備である事は言うまでも無かった。
「短剣。記念大会と言うがそもそも何を記念した大会だ?」
「何でも『フォルテクス』の王女の生誕二十年を祝う大会だそうです」
「生誕の祝いに闘技場で大会とは。流石は戦士の国と言うべきでしょうか」
ストラが感心したように感想を述べるとユフィが肯定しつつも補足する。
「それもありますが、その王女が無類の武術好きらしいのです。そして本人の剣の腕も『フォルテクス』随一のようです」
「王女で国で一番の剣士か……」
「それだけでは無く軍略、政治にも精通するほどの頭脳。そしてその美貌もフォルテクスの秘宝と呼ばれるほどだとか」
「まるで本の中の人物のようですね」
アイナがそう言うと全員が頷いた。
ここにいる女性メンバーもそろって美女と美少女ではあるがそこまで完璧に、そしてマルチに活躍できるのはいない。
「ですがその完璧さゆえか、それとも他の理由か。どのような男性に求婚されても断り続けているようですが」
「そこまで完璧だと内面に問題があったりして」
ユフィの言葉に与人が冗談めかして言うとリントが話を戻す。
「それで? その王女の記念大会なのは理解したが、大会というにはルールがあるはずだが」
「申し訳ありません。細かい規定については開催数日前に発表されるようで。剣の大会である事は告知されているようですが」
「それは妙に感じますね。それほどの大会であるにも関わらず規定を事前に知らせないとは」
ストラが顎に手を当てつつそう疑問を口にする。
「それの理由についても調べましたが、なにぶん『マキナス』の領地のみの行動となると……」
「その条件を付けたのは俺だよ。だからユフィには責任は無いよ」
他のメンバーにも徹底している事であったが、『マキナス』から勝手に出ない事が数少ない彼らの取り決めであった。
安全を保障されている『マキナス』を出るのは必ず報告した上で、さらに何人かの集団でというルールも決めていた。
だが、今のところ『マキナス』の王都であるデフスからもそう出るメンバーはいなかったのであるが。
「となると細かいルールはその『フォルテクス』に着いてから、となるかな?」
「そうですね。主様、さっそく皆に声掛けを……」
与人の言葉に頷き、皆を呼び出すためアイナが動こうとするとリントがその肩を掴んだ。
「? 何ですかリント」
「聖剣少し待て。……戦略本、どう思う?」
「メンバーは選出すべきでしょうね。少なくとも三人、多くて五人」
「え? 何で?」
与人が思わず疑問を口に出すとストラは簡単に説明をしだす。
「単純に大人数だと身動きが取りずらい、それとこの屋敷を空にするのは得策では無いからです」
「ここの王に何か依頼されるかも知れんしな。何人かは残るべきだろう」
「ですが安全を考えれば」
ストラとリントの言葉に反論しようとするアイナであったが、それはユフィに両断される。
「大人数であればあるほど警戒されます。『フォルテクス』側に警戒されないためにもここは少数の方が良いかと」
反論もバッサリと切られ何も言えないアイナであったが、それを気にした様子もなくストラは与人に進言をする。
「さて与人様。この『フォルテクス』への旅には与人様も同行してもらいたのです」
「それはいいけど、理由は?」
「まず第一に見分を広げて貰う事、そして未知の土地で選出したメンバーが動揺しないための安定剤代わりです」
「は、はっきり言うな。ストラ」
「役割についてはハッキリとした方がいいので」
ストラが断言する横でリントが笑いつつ与人に声を掛ける。
「やる事はいつもと変わらん。主は問題が起きないように祈ってればいい」
「まあ、他の事やれと言われても困るけど」
「さて、与人様の承諾を得た訳ですが。そうなると同行するのは……」
「はい! はい! はい! はい!!」
アイナがストラの眼前に迫る勢いで参加の意思を示していた。
それをストラは諦めたようにため息を吐く。
「当然アイナ殿には参加頂きます。そもそも剣の大会ですので」
「よし!」
ガッツポーズを取るアイナをよそ目にリントはユフィに参加を依頼する。
「短剣。聖剣が問題を起こす前に止めろ。どんな手を使っても構わん」
「それと『フォルテクス』の情報も無理の無い範囲でお願いします。無論大会についても」
「承知しました」
「さて後のメンツだが……」
その後も続く話し合いに参加する与人であったが、思い返せばこう思うのであった。
何が何でもこの旅に同行するんじゃなかった、と。
今回はここまでとなります。
何故与人が闘技場に立つのか?
その理由は次回にて。




