第43話 そして彼らを乗せて船は行く
43話、公開です。
与人たちは無人島へと足を運んでいた。
『オーシェン』の王であるドンとの会談から数日後。
与人たちは王都であるターヘイと目的地である『マキナス』の国境のちょうど中間地点にある小さな無人島にいた。
「シェイさん遅いですね。約束の時間は過ぎているのですが……何かあったのでしょうか?」
その海岸でユニは約束の時間を過ぎても来ない王の妹であるシェイの身を案じていた。
だが隣で同じく海を見渡しているランの返事は軽いものであった。
「心配する事は無いじゃないと思うよユニ先輩。そうそう海の上で『オーシェン』の軍が何かあるとも思えないし」
「そうですね。音を聞いてる限りは問題は無さそうですし、待ちましょう」
「あ、カナデさん。そちらはどうでした?」
話しかけてきたカナデにユニがそう問いかけると彼女は薄く笑いを浮かべる。
「やはり事前に聞いた通りここは完全な無人島のようです。賊に類する方もいませんでした。……出番が無かったとレーナさんは不満げでしたが」
「そ、そうですか」
「でもこれでお兄ちゃんの『スキル』を使っても大丈夫だね」
「ええ。ストラさんの分析では大型の物は人間になるまでに時間が掛かるみたいですからね。こういった無人島でないとヒュドラほどの大きさのモンスターは少し……ん?」
「カナデさん?」
突如カナデが海の一点を見つめ出したのをユニが疑問に思ってるとランも同じ方向を見て笑みを見せる。
「やっと来たね」
「ええ。私は旦那様たちを呼びに行ってきます」
「え? ……ああ、なるほど」
ユニの疑問はようやく視界に入る距離になった『オーシェン』の軍艦を見て氷解するのであった。
「スローン殿、遅れて申し訳ない。念の為にヒュドラの拘束魔法を強めるのに時間が掛かってしまった」
そう謝るシェイの後ろでは軍艦二隻でここまで運ばれて来たヒュドラが横たわっていた。
シェイの言う拘束魔法が効いているいるのかピクリとも動かないヒュドラをリントやティアが確認しているのを見ながら与人はシェイに対応する。
「いえ、お気づかい感謝します。それにわざわざこのような場所にまで運んで頂き申し訳ないです」
「問題があれば我々の責任にもなりますので当然の事です。それに巡回の延長でもあるので」
シェイはそう答えるが見る者が見ればどこか嬉しそうにも……見えなくもない。
(じぃーー)
少なくとそう見えているアイナはシェイをジト目で睨みつつ牽制する。
その視線とその意味に気付いたシェイは咳払いしたのち事務的に対応する。
「では、貴殿との約束に則り。ヒュドラを貴殿たちに渡す。何をするにせよ悪用はしないで欲しい」
「確かに受け取りました。ありがとうございます」
「ん。ではこれにて」
そう言って部下と共に軍艦に乗ろうとするシェイであったが突然足を止め与人たちの方に振り向く。
「個人的な言葉になるが。……貴殿らの目的が果たせるよう、祈っています」
そう言うと返事も聞かずシェイは今度こそ乗り込み、去っていった。
その軍艦の姿が完全に見えなくなるのを確認するとリントが口を開く。
「さて主、一発やるか」
「『スキル』使うのをそんな酒を飲むかみたいに言われても……」
「その前に最終確認です、皆さま」
ストラが全員を見渡して確認を取る。
「これまでの事から確率は低いですが、ヒュドラの凶暴性を考えるに人間になった場合でも抵抗する可能性もあります」
「だね。主くんや我々に危害を加えてくる可能性は十分にある」
ティアの言葉に頷くとストラはユニの方を見る。
「毒はユニ殿が無効化しますが、暴れた場合は各自取り押さえて下さい」
「任せておきな! 今度こそいいとこ見せてやるさ!」
「暴れるの前提……」
レーナの言葉にリルが突っ込むのを横目にストラは真剣な様子で与人を見る。
「そしてもし、ヒュドラが抵抗を止めず最後まで抗う姿勢を見せた場合は。…性質を考えても逃がすわけにはいきません」
「……分かってる」
ストラが何を言いたいか分かっている与人は暗い顔をするのに対し、ストラはモノクルを弄りつつ冷静に、或いは冷徹に付け加える。
「無論これは万が一の場合です。ですが、そうならざる得ない状況になるかも知れない事は憶えておいてください。……これからも、常に」
「……」
それは今まで有耶無耶にしてきた部分でもあった。
与人も皆が皆、付いて来てくれるとは思ってない。
だがもしもの事態を考えると与人の手足に震えが出て来る。
――勝手に人間にしておいて勝手に殺すという、その行為に。
「大丈夫ですよ主様」
するとその手にアイナが手を添える。
日頃から剣を扱ってるとは思えないその手の柔らかさに与人が驚いているとも知らず、アイナは言葉を紡ぐ。
「主様は良き主です。例え最初は暴れても心を尽くせば例えヒュドラであろうと心を開くはずです。……まあだとしても一番は私ですが」
「ん。最後はともかく聖剣の言う通りだぞ主。気をもんでいても仕方ないだろ?」
リントがアイナを肯定し、与人が全員を見渡すと頷くのであった。
それを見て覚悟を決めたのか与人は深く深呼吸をするとヒュドラに近づき、触れる。
そして恒例の如く光輝くヒュドラは段々と人の形を取っていき、終わるころにはリルやランより小さな少女が立っていた。
「ん、ちっこい?」
「リル殿、油断しないでください。小さくともヒュドラはヒュドラです」
「了解。警戒モード継続します」
皆が警戒する中、その少女は状況が理解出来ていないのかキョロキョロと辺りを見渡していた。
だがその視界にセラを捉えるとようやく第一声を発する。
「ひ、ヒィャァァァァァァ!? ご、ごめんなさい!? ごめんなさい!?」
「……はぁ?」
誰かが発したこの言葉が全員の心を代弁していた。
ヒュドラであった少女は砂浜に正座をするとセラに何度も頭を下げる。
「ほ、本当は私、あんな事やりたくなかったんです! でも無理やり連れられて!だ、だからもう切らないでくださいお願いします!?」
「困惑。……マスターどうなされますか?」
「何と言うか、思ってたのと真逆な展開だな」
そう言うと与人は少女に近づき、震えている彼女に声を掛ける。
「落ち着いて。……状況は分かってる?」
「は、はい。あなたが人間にした人、ですよね?」
「そう。出来たら力を貸して欲しいんだ、サーシャ」
「あ、あの、サーシャというのは、名前……ですか?」
「そう。受け取ってくれるかな?」
「は、はい! こんな自分で良ければ! 喜んで! どんな敵でもこの毒でノックダウンです!」
「うん、頼もしいけど味方に被害は出さないでね」
与人がそう笑いながら言うと他のメンバーも近づいて会話に加わる。
その遠巻きに見つめるリントにストラが近づく。
「大した軍師役だったな、戦略本」
「必要な事を言ったまでです。これから仲間を作るうえでも大切な事ですから」
それだけ言うと二人は与人たちの方を見たまま何も言おうとしない。
「……次はいよいよ『マキナス』か」
リントが独り言のように言うのをストラは拾う。
「ええ。ようやく与人様の目標の第一歩が踏み出せます」
「……何をしてもか?」
「それが私の役目ですから」
二人はその後、完全に黙り込み。
未だに震えている新たな仲間に喜ぶ与人を見つめるのであった。
――その後、彼らを乗せた船は『マキナス』に向けて進むのであった。
今回はここまでとなります。
サーシャを仲間に加え、一行は次回ついにマキナスへと辿り着きます。




