第42話 オーシェン王との会談
42話を公開しました。
無事勝利を収めた与人たちを待っていたのは……。
その日、ターヘイはまさに天をも突かんほどの賑わいとなった。
魔王軍を真っ向から打ち破った事は【オーシェン】に住む民に早急に伝えられ、皆が喜んだ。
その賑わいを遠くに感じつつ、与人たちは自分たちの船にいた。
「街の方は凄い賑わいだな」
「そうだろうな。あれほどの戦いでの勝利だからな」
リントは干し魚をツマミに酒を飲みつつ街の様子を見ていた。
そこにストラが困り顔をしながら近づいて来る。
「賑わう事は良い事ですよ。……彼女のようにバカみたいに飲まなければの話ですが」
と視線を後ろに向けるとそこには酒樽ごと飲み干さんとしているレーナがいた。
そこには何故かユニと不幸にも巻き込まれたのであろうティアもいた。
「どうしたの、あれ?」
「どうやら海戦で活躍出来なかった事が悔しかったらしく……」
「ああ」
「まあ酒で発散出来るならそれでいいだろう」
リントはあまり気にせず酒を飲んでいるが、もう既にそれなりに飲んでいるのか頬がほんのりと赤くなっていた。
「まあリント殿の言う事にも一理ありますが……。それよりも本当に良かったのですか?」
「ん? 何が?」
「依頼とはいえ、カナデ殿に街中で演奏させている事です。自分としては残党がいる可能性がある限りは外に出て欲しくは無かったのですが」
そう現在カナデはブラッド・アライアンスによる依頼で船を離れて演奏であちこちを盛り上げている最中であった。
渋い顔をしているストラに苦笑いをしつつ言葉を返す。
「まあそうだろうけど、カナデ本人がやりたいと言ってきたしな。それにリルとランが護衛してるんだから身の安全は保障されているようなものだろ」
「自分が言っているのは与人様の安全ですが……。まあ誰にでも息抜きは必要、としておきましょうか」
「そういう戦略本も先ほどから休んで無いが?」
「自分はこれでいいのです。頭を少し動かしている方が心が休まりますから」
ストラがそう言ってのけると、与人とリントは顔を合わせ苦笑する。
だが突如リントがツマミと酒を置き船の外を見つめ続ける。
「リント? どうした?」
「非常事態ですか?」
リントの様子に二人がそれぞれの言葉で聞くが、リントは振り返り首を横に振る。
「いや、珍しい人物がこちらに駆けて来るのを感じてな。……まあ内容によっては非常事態かも知れんが」
言い終わると同時に港から大きな声で呼びかけてくる人物がいた。
「スローンさーん!! いらっしゃいますかー!!」
「この声って……ベルさん? 何の用だろう?」
その人物はブラッド・アライアンスのターヘイ支部の受付、ベルであった。
与人を呼びかけるその声はどこか焦りが見え、余裕はあまりなさそうである。
「万が一もありますのでここは自分が対応します。リント殿、与人様を」
「ん。了解だ」
ストラが急いでベルの元に話を聞きに行く。
与人が心配そうに様子を見守るがリントはツマミを食べ続けていた。
だが話はものの数分で終わりストラは与人の元に戻って来た。
「与人様、急いで一番まともな服に着替えてください。自分はアイナ殿とセラ殿に声を掛けてきます」
「え、ちょっ、ストラ? 一体何がどうなって?」
「……失礼。どうやら気が急いていたようで。これから自分と与人様を含めた四人で会いに行くのですよ」
「誰に?」
そう与人が聞くとストラはモノクルの位置を調整しながら、淡々と意外な人物の名を言うのであった。
「この【オーシェン】のトップ。つまりは王にですよ」
「おう! お前らか! ヒュドラを打ち取ったっていうのは!!」
玉座の間を揺るがさん程の大きな声が与人たちの耳に響く。
大声を出しながら玉座に乱暴に座っているこの男こそが海に囲まれた【オーシェン】の王であるドン・オーシェンである。
(近くにいるんだからもうちょっとボリューム下げて欲しいな)
平伏しながら与人がそんな事を思っているとストラからの鋭い視線を感じた。
(分かってるって、変な事は言わないって)
玉座の間に入る前にストラからあまり喋らない事を言い含められているのを思い出しつつドンの大声を黙って聞く事にする。
与人のそばには同じく王からの招待を受けたセラと付き添いとしてやって来たストラとアイナがいる。
ドンは与人たちを見渡しながらやはり大声で叫ぶ。
「で? スローンって言ったけ?」
「はっ! はいっ!」
突然偽名を呼ばれ動揺する与人に三人から落ち着くように視線を送られる。
ドンはその様子を見て大声で笑いだす。
「ハハハ!! そんなに硬くなるなよ! 一緒に戦えば兄弟みたいなもんだろ?」
「は、はぁ」
「まあ、言うべき事はあるがその前に一つ聞きたい事が、ある」
「な、なんでしょうか」
真剣な様子で問いかけるドンに緊張感が高まる与人、そしてドンの口が開かれる。
「どいつがお前の女なんだ?」
あんまりな質問にズッコケたくなる与人たちであったが何とか我慢する。
「頼むよ兄弟。どうやってそんな綺麗どころばかりを集めたんだ? もしかして夜の方がとんでも……グヘェ!!」
このセクハラをどう回避するか悩んでいると突如ドンの頭を何者かが鈍器で叩き気絶させる。
「大変失礼しました。同じ王族としてお詫びを」
「え、えっ~と」
突然の展開にどう反応していいか分からない与人であったが、その人物は優しく微笑みかける。
「申し遅れました。私はこの【オーシェン】にて政治関連を取り扱っているシェイと申します。……残念な事にこのバカの妹に当たります」
そう言うとシェイと名乗った女性は深々と頭を下げる。
周りにいる臣下からどよめきが起こるがシェイは気にせず与人に礼を言う。
「この度はヒュドラの足止め、並びに無力化に尽力して頂き国を代表して感謝します。あなた方がいなければどれほどの被害が出ていたか」
「い、いえ! 頭をお上げくださいシェイ様! やるべき事をやったまでです!」
与人がよく考えず言うがストラからの厳しい視線は飛ばない。
「……フム」
シェイは頭を上げると与人たちを見渡す。
「な、何か?」
「バカのせいで時間もありません。単刀直入に言わせてもらいます。わが軍に入る気はありませんかスローン?」
「……はい?」
突然の展開に与人が言葉を詰まらせるが、シェイは言葉を続ける。
「あなた方の実力は先の一件で証明されました。無論全員軍に入れますし好待遇をお約束します。……いかがでしょう」
「……残念ですがお断りさせて頂きます」
ザワザワと周りが騒がしくなる。
王族自らの誘いをほぼノータイムで断ったのだから無理も無いであろう。
「理由を聞いても?」
シェイは怒る訳でも無くだだ与人に理由を尋ねて来た。
「自分は自分なりの目的があり、皆と旅をしています。我々を評価した頂いたのはありがたいのですが、それを果たすまでは……無理です」
「フム。……仕方がありませんね」
「よ、よろしいのですか!?」
納得する素振りを見せるシェイに臣下の一人が大声を上げるが、彼女は動揺する事はなく言う。
「人はそれぞれやるべき事があります。それを無理やり止めさせるのは我らが愛するべき【自由】に反します」
「だな! 俺も気に入ったぜ!」
いつの間にか復活していたドンも肯定しているため他の者も何も言えず場は静かになる。
「……そちらの誘いを断ったうえで要求するのは心苦しいのですが」
と場を見計らっていたストラがドンに向かって進言する。
「お、いいぜ! 美人のお願いは何でも聞くぜ!」
「何でも無理ですが可能な事なら」
二人の許可を得たところでストラは言葉を切り込む。
「そちらが回収したヒュドラ、我々に頂けませんか?」
そう、ヒュドラはあの後『オーシェン』軍に回収されていたのだ。
どう手に入れるかストラは悩んでいたが、王であるドンから呼び出されたので好機と見たのである。
「あ? 何言ってるんだ?」
急に不機嫌そうになるドンにストラは内心しくじったかと思ったが返ってきたのは意外な言葉であった。
「渡すに決まってるだろ。手柄を横取りする気は無ぇよ」
「い、いいのですか?」
与人が都合のいい展開に不安げな声を出すがそれをシェイが補足する。
「既にヒュドラの毒を取り出し血清を作る準備を行っています。研究成果を渡せ、と言うならともかく本体は既に用済みです。……他に求める物はないのですか?」
「……ありません。お気遣い感謝いたします」
「そうですか。では受け渡しの調整は後日に」
「待て、俺からスローンに頼みがあるんだが」
「な、何でしょうか?」
場が終わりに向かおうとしている中でドンが真剣な顔で与人に視線を向ける。
嫌な予感がしつつも与人がそう聞くと。
「シェイを嫁に貰ってやってくれない、グハァ!」
その言葉を言い切る前にドンはシェイに殴られた。
「いきなり何を言っているのですか? このバカは」
「何だよ! 妹の結婚適齢期を気にして何が悪い! それにお前年下が」
再びシェイが言葉の途中でドンを殴りつける、しかも今度は鈍器をフルスイングで。
頭から血を流しながら気絶するドンを無視しシェイは一連の動きに引いている与人たちに優しく宣言する。
「もし我々が役に立つのであれば遠慮なく言って下さい。ヒュドラの一件はそれほどの価値があるますから」
「あ、ありがとうございます」
そう言って与人たちは足早に玉座の間から出ていくのであった。
目的は達したが、与人の怒らせてはいけないリストに一人追加される事になったのは言うまでもなかった。
今回はここまでとなります。
次回は新たな仲間が増えます。




