第39話 絶対絶命に咲く花
39話を公開しました!
与人たちに大いなる強敵が襲います。
「何か順調すぎるぐらい楽勝だな」
「ええ、ですが油断は禁物です。相手がどのような手を打って来るか、それを見極めるのも我々の仕事ですよ与人様」
皆が船上で戦っている間、ストラと与人は船内で戦いの状況を確認し指示を出していた。
とは言っても魔法にも限界はあり、あまり広い角度では見れないため簡単な指示であったが。
ふと与人が外を見ると周りに見えていた他の船たちが遠くに離れているように見えた。
「なあストラ。この船、随分前線に来てるんじゃ?」
「……確かに。この船はレーナ殿の魔力によって動いていますからね。恐らく本人も知らぬ内に前線に来てしまったのでしょう」
「うん、まぁそうなる……よな」
「何か不可解な点でも?」
ストラは何かがしっくり来ていないような与人に問いかける。
「いや、前線に来ている割には向こうの攻勢が大した事ないな……と」
「! 少しお待ちください!!」
与人の言葉に何かが考え付いたのかストラは魔法を使い、この船の周囲の状況を確認する。
その顔が段々と曇り始めていたのは与人にも理解出来た。
「不味いかも知れません」
ストラはそう呟くと素早くレーナに通信を繋ぐ。
「レーナ殿、聞こえますか!」
《聞こえてるよ。どうした? 頭が船に酔ったか?》
「残念ですがふざけている場合ではありません。今すぐに船を後退させてください」
《あ? なんだいきなり? 急に下がれって言われても時間が……》
《おい戦略本、リントだ。一応報告だがサハギン共が逃げ始めたぞ。それに何故か海面には死んだ魚が浮いてるぞ》
「……そうですか。レーナ殿、後退はしなくてもいいです。代わりに全員、何があってもすぐに動けるようにしてください」
そう言うとストラは通信を切りブツブツ呟きながら室内をグルグルと回り続ける。
「ストラ? かなり危ない状況なのか?」
与人がそう聞くとストラはピタと足を止めて与人の方を向く。
そして真剣な様子で口を開く。
「かも知れません。前線でも大した事が無い攻勢。そして急いで撤退する敵。この事から考えても何かしらの策、ないし強力な何かを仕掛けてくるはずです」
「そしてそれから逃げる時間はもう残っていない、と」
「ええ。浮かんでいた魚にそのヒントがあるはずなんですが……」
「ああ、あの毒でも飲んだかのように死んでた魚たちの事?」
「毒でも? ……それです! 与人様!」
そう言うとストラは再び魔法で通信を繋ぐ。
「ユニ殿聞こえますか! 急いで対毒のバリアを!」
それを言い切る前に船に大きな衝撃が走る。
揺れる船内でストラは魔法で船の前方を映し出す。
そこには九つの頭を持つ巨大な蛇がこちらを睨みつけていた。
「クッ! 遅かった!」
「随分とデカいのが出て来たな」
目の前の巨大なモンスターを見てリントはそう感想を漏らす。
現在乗っている船もそれなりの大きさであるが、そのモンスターはそれを見下ろしている。
「……動かない?」
「の、ようだね」
リルとティアがそう確認し合っているとアイナが剣を構える。
「どちらにせよ、向こうが動く前に倒すのが最善です。切り込みます!」
その言葉と同時にアイナは跳躍し首の一つを胴体から切り離さんとするが。
《駄目です! 下手に傷を与えないでください!!》
そう悲痛にも聞こえるストラの声に反応しアイナはギリギリのところで傷を与えるのみになる。
「ストラさん? 一体どういう事で……!?」
カナデがそう言い終わる前に船外に出てるメンバーは何故ストラが止めたかを理解した。
モンスターから霧のように溢れる何かを吸い込んだ途端に皆の動きが鈍くなっていった。
「ケホケホ! ……先輩たち大丈夫!?」
ランがそう確認するが何故そうなってるかは聞かなくとも皆が理解していた。
――毒
少し吸っただけで耐性があるであろうドラゴンであったリントですら気分が悪そうにしていた。
もし首を刎ね、今より毒の霧が多かったらこのメンバーでも耐えきれなかったかも知れない。
《そのモンスターはおそらくヒュドラです! かなり強力な毒を持つ上に凄まじい再生力を持ちます!》
そうリントが説明している間にもアイナがヒュドラに与えた傷はみるみる塞がっていった。
それと同時に漏れ出した毒の霧も収まるが既に吸い込んだ皆の動きは思わしくない。
それを見ていたヒュドラの首の一つが大きく息を吸う。
《ユニ殿!!》
その様子を見たストラがそう叫ぶと同時にヒュドラは先ほどとは比べられない量の毒霧を吐き出す。
「皆!!」
船上が毒霧に包まれ思わず与人は叫ぶ。
ストラは何も言わずに見つめていたが、やがて霧が晴れていくと二人とも胸を撫でおろす。
そこにはユニを中心として魔法陣が敷かれており、皆生きていた。
「ハァハァ。……間に合って何よりです、ね」
魔法名、『穢れ無き領域』(ホワイト・ガーデン)。
魔法陣に入っている者を一切の病気や呪い、そして毒などから守る上級魔法である。
だが、デメリットとして使用者は動けず他の魔法との併用も出来ない。
そして何より既になっている毒などは解毒されないのである。
「レーナ……さ、ん。ふ、船、を」
ユニは苦しそうにそうレーナに打診するがレーナは首を横に振る。
「今は、無理だ。上手く、頭が……」
悔しそうに発したレーナのその言葉は当然ストラ、そして与人にも届いていた。
「一体どうしたら……」
ヒュドラの毒にやられて皆は動けず、助けを求めようにも他の船はヒュドラを確認すると後方に下がっていってしまった。
与人の嘆きとも取れる呟きに反応するようにストラは外へと向かいツカツカと歩いていく。
与人は思わずストラの腕を掴む。
「ちょっと待て、ストラ何をする気だ」
「誰かが最低でも足止めをしないと。与人様は論外なので自分が行くしか無いでしょう。初級魔法は一通り使えますしね」
「いやいやいや! それで足止めにならない事ぐらいは分かるぞ!?」
「ではどうなさるおつもりで?」
「そ、れは……」
与人が何も言えずにいるとヒュドラは首を大きく反らす。
船に叩きつける気なのは全員が理解していたが誰もが動けずにいた。
そしてヒュドラの首は轟音を立て船に叩きつけられようとしていた。
「与人様!!」
「クッ……!!」
与人が覚悟を決めたように思わず拳を握り込む。
だが。
「シャァァァーーー!!」
首は叩きつけられる事は無く、逆にヒュドラは弾き飛ばされるように海面に叩きつけられる。
「……え? どういう事?」
与人は理解が追い付かず思わずポカンとしてしまう。
だがストラには見えていたらしく安堵の息を吐く。
「大した事ではありませんよ。ただあそこに戦える者がいた、それだけです」
「けど全員が毒に……って、ああなるほど」
誰か分からなかった与人であるが外の様子を見て納得の声を出す。
「無効。毒の成分の排出に成功。これよりヒュドラとの戦闘に入ります」
そこには髪をたなびかせ、剣をヒュドラに突き付ける少女の姿があった。
恐らく後にも先にも唯一であろう、機械少女であるセラの姿が。
「任務。戦闘開始」
今回はここまでとなります。
果たしてセラはヒュドラに勝てるのでしょうか?
次回をお楽しみに!




