第37話 魔王討伐からは逃げられない?
第37話を公開させてもらいました。
魔王軍襲来を前に、考え込む与人。
「うーーーん」
ブラッド・アライアンスのターヘイ支部から船に戻って来てから与人は自分の部屋でずっと悩んでいた。
悩みの原因は勿論、支部から聞いたこのターヘイに魔王の軍勢が来る。という事に関してである。
与人は支部の受付であるペルの話を頭の中で思い出す。
「ここ最近、『オーシェン』にモンスターが集まって来ていてターヘイに攻めて来るという情報が一週間前に入ったんです。当然『オーシェン』の王は軍を動かしていますが、ブラッド・アライアンスにも協力要請が入りました。皆さんも腕に自信があるのでしたら是非依頼を受けてみては? 魔王軍が来るまであと二日ほどですので決断はお早めに」
与人はすぐには答えを出さずにひたすら悩んでいた。
「本当にどうしたものかな……」
どんな軍勢が来るにせよ一般人が巻き込まれるような戦いが起こるのであれば参加したいという気持ちはある。
リントたちの力であればどんな相手であろうと力になれるはずだという自信はある。
「だけどな~」
だが同時に相手が魔王軍というところが与人の思考に大きい異物のように邪魔をする。
元々与人が、いや与人含めたクラスメイトたちが『ルーンベル』に呼ばれたのは魔王討伐のためである。
この戦いに参加する事で『グリムガル』の願った通りになるのが与人にとっては引っかかっていた。
参加しないのであればいるだけ邪魔なのだからさっさと『マキナス』へと向かうのが正しいが与人の良心か何かがこのまま素通りするのを咎めていた。
「……ま、結局自分一人で考えてもな」
与人はそう言うと皆に相談するために部屋を出るため扉を開ける。
「痛っ!」
ちょうど誰かが訪ねて来たタイミングだったらしくノックのための手が与人の頭にヒットする。
「失礼。マスター、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だセラ」
訪ねて来たのはセラであった。
セラは自身の手がヒットした与人の頭の様子を見て怪我の確認をする。
「安心。腫れてはいないようですね」
「この程度で心配していたらストレスで痩せるぞ」
「平気。そもそも私は大部分が機械です。痩せすぎる事はありません」
「……。何か話でもある?」
「正解。その通りですマスター。お時間を頂けますか?」
「もちろん」
与人はセラを部屋に入れると端に寄せてあった椅子を引っ張り出して座らせる。
与人がもう一つの椅子に座るの確認するとセラは早速話題を切り出す。
「確認。マスター、今回の件で悩んでいらっしゃいますか?」
「……やっぱり分かる?」
「当然。悩んでいる事もその理由も皆が察しています。リント氏とストラ氏はマスターが自分から相談するのをを待つように、と言ってましたがどうしても進言したい事があり訪ねました」
「……皆が俺を理解してくれてるようで何よりだよ」
与人がそう言いながら取り置きしていた菓子をセラに渡す。
セラは菓子を受け取ったが食べずにジッと与人を見つめていた。
「認識。マスターは我々を仲間として受け入れてくれますが本来は主従……いえ、武器とその担い手といった関係です。」
「まぁ、『スキル』の能力からすればそうなるのかな?」
セラの直球な言い方に与人は苦笑いしながら答える。
その与人の様子にセラは表情を変えずに与人に言う。
「肯定。ええ、ですから本来は私を含めたパーティー全員が提案はしてもその考えを誘導、または固定するような言動はするべきでは無いと思っています」
「……それで? それを曲げてまで何を言いたいんだセラ」
「進言。私はこの戦いに参加すべきだと思います」
「その心は?」
与人がそう聞くとセラは何かを口に出そうとしては口を閉じた。
どうやらセラ自身もどう言葉にすればいいか悩んでいる様子であった。
「セラ、大丈夫。思ったまま口にすればいい」
「感謝。……マスターは私の博士の事を憶えていますか?」
「もちろん」
セラの博士、つまりは元々のセラのマスターである与人と同じこの世界に転移してきた先輩とも言える人物である。
与人にとっては同じくこの世界での異端児であり、自分の目的を追求した先達である。
「回想。博士は自分の可能性を求め、『グリムガル』に追われる身となりました。……本音。ハッキリ言えば私は『グリムガル』という国に対して不信感、及び反感を持っています。そのためマスターが『グリムガル』の意に沿って行動するというのであれば、止めます」
「……そうか」
「肯定。ですがその可能性は低いため私が止める事も無いでしょうが」
セラはそこまで言うとようやく菓子を口に含む。
美味しかったのか僅かに表情を緩ませる。
だがそれも短い時間の事で、すぐに引き締め続きを語り始める。
「推測。ですが相手が魔王であれば全て『グリムガル』の意に沿う事になる訳では無いでしょう。それ加えてここで逃げても得る物はありません、ただ『マキナス』に早く着く。というだけです。総合的に見ればこの戦いに参加した方が得るものが多く、また参加する事によってマスター自身の目的からずれる事は無いでしょう」
「だから参加した方がいい。と?」
「肯定。無論、マスターが皆の怪我や生命の危機を考慮し避けると言うのであれば、何も言う事はありません」
「……正直に言えば今まで魔王関係からは逃げて来た。理由は今更言うまでもないだろう?」
「……」
セラは何も言わなかったが沈黙は肯定と受け取り与人は続ける。
「けどセラの言う通りだ。少しぐらい関わったからと言って『グリムガル』の思う通りになる訳じゃ無い。それにこの先で魔王関係を躱し切れるとは思えないしな」
「マスター。では」
「ああ参加する事にしよう。まあ皆と相談してからになるけど」
「承諾。では全員を一か所に集めておきます」
セラは与人の決定を受けて部屋を出る。
「ふぅ」
与人は一呼吸入れてからセラに差し出した同じ菓子を口に入れる。
しばらく口に出来なかった甘いモノの幸福感に満たされながら与人はある事について考える。
「魔王討伐か……。この『スキル』じゃなかったらどうなってたかな今頃」
力に溺れて傲慢になっていただろうか?
それとも真面目に魔王を倒すために努力していただろうか?
与人は色々な予想図を立てたが、やがて首を横に振って椅子から立ち上がった。
「ま、どうでも良いか」
与人は考えるのを止めて皆のところに行くのであった。
いま以上の幸せな結果などあり得ない、そう思いながら。
その後、戦いの事は皆が与人の意見を汲み参加を支持した。
その翌日のブラッド・アライアンス支部には参加を伝える与人たちの姿があった。
今回はここまでとなります。
次回は魔王軍との戦いとなります、ご期待ください!




