第36話 我慢も酒もほどほどに
36話、公開です!
レーナによって、順調に旅は進む。
だが、アイナはある不満を抱えていた。
多くの島々が海によって繋がっている国、『オーシェン』。
その中でも最も面積が大きく、そして王都がある島であるターヘイ。
そこに向かう船の上で聖剣の擬人化少女であるアイナは非常にイライラしていた。
その視線の先には…。
「ちょっ! レーナ! 近い! そして酒臭い!!」
「いいじゃんか頭。仲間同士交流を深めようぜ」
この船の持ち主、というよりそのものであるレーナが彼女やアイナだけで無く皆のリーダーである与人に抱きつき絡んでいる画である。
それを止める訳では無く、かといって無視する訳でも無く。
ただただその様子を見てはアイナはイライラしていた。
ちなみにだがレーナは身体、及び精神年齢も十分大人であるため酒を飲んでいるがリルやランといった身体年齢が18歳未満と思われるグループは与人の提案で飲酒は禁止されていた。
誕生年齢や製造年で言えば与人以外は全員が未成年では無いはずであるがその辺り与人は慎重であった。
「随分と苛立っているな聖剣」
そんな様子のアイナにレーナと同じく飲酒可能組のリントがグラスを片手に話しかける。
「リント。……いえ、そんな事は無いですよ」
アイナは咄嗟にそう言うがそれが嘘である事は誰の目から見ても明らかであった。
そんなアイナの様子を見てリントは深々とため息を吐く。
「はぁ」
「な、なんですか。そのため息は」
「別に。ただ船女と主の距離が近いのが気に入らないくせに、移動に一役買っているからとそれを気にして文句も言えないとはな」
「何で知って! ご、ゴホン! そ、そんな事な、無いですよ?」
「はぁ」
リントはアイナの丸わかりな態度に呆れつつグラスの酒を口に運ぶ。
詳しい事は分からないが何でも果実酒らしく、まろやかな口当たりが目の前のめんどくさい言い訳を繰り返す聖剣少女から目を背けさせてくれる。
実際、レーナは今回の移動において大活躍をみせていると言えるであろう。
船を召喚出来るだけでは無くカピの町で航海に必要な物を格安で揃えて、更には酒などといった嗜好品を安く集めるだけでなく船の操縦までしているのだから。
(まあその酒のせいで悲惨な目に合っている者もいるがな)
リントの頭の中では酒癖の悪かったユニに付き合わされ酔い潰され恐らく目覚めたら気分が最悪であろうストラに黙とうしていた。
酔い潰された原因の一端は一緒に飲んでいたティアがいつの間にか消えており、リントもさっさとその場を去った為に絡み酒であるユニの相手がストラしか居なくなったからでもあるが。
ちなみにこの海賊船(海賊の印などは取り除かれている)のサイズ、全長35mほどの船は港町であるカピでは珍しいが『オーシェン』全体ではそう珍しい訳では無い。
実際『オーシェン』の軍艦たちは同じ程かこれより大きいモノもあり、個人またはパーティーで所有している者も多い。
――閑話休題
リントは未だグダグダと言い訳を重ねるアイナを見て昨日の夜の事を思い出す。
「そう言えば聖剣、主からお前に伝言を預かっているぞ」
「主様から? 一体何を?」
「《無理する必要はない》とな」
「そ、そんなに無理してるように見えるでしょうか?」
「まあな。実際、言いたい事も我慢してるだろ」
リントが呆れたように言うとアイナは気を落としつつポツポツと話し出す。
「ええ。心身共に主様の一番の人でありたいと思っています。ですがこの程度でイライラしていては程遠いですよね」
「……一番が云々《うんぬん》は置いておくとしてだ。主が言いたいのは正にそこだと思うぞ」
「? どう言う意味です?」
心底分からないといった顔をするアイナにリントは果実酒を飲み干してから語る。
「飽くまで主から話を聞いた印象だが。これから先、様々な女が主の元に集うだろう」
「言い方が引っかかりますが、まあそうなるでしょうね」
「で、だ。その中には気の合わない奴も出て来るだろう。だから一々気を使うより言いたい事は発散した方がいい。と考えてるのではないか?」
「……主様ならそう思われるかも知れませんね」
「これを聞いてどうするかはお前の自由だが聖槍の時のような面倒をもう起こすなよ?」
「分かっています。ですが、我慢しなくていいのでしたら!」
アイナはそう言うと未だレーナに抱きつかれながら絡まれている与人の救出に向かうのであった。
「はぁ。……全く、面倒な奴らばかりだ」
何度目か分からないため息を吐くリントであるが、空いたグラスに映されたその顔はどこか楽しげであった。
それから数日後、与人たちは無事にターヘイに到着しブラッド・アライアンス支部を目指して都市に繰り出していた。
「当たり前だけど随分と賑わっているな」
「ええ。『オーシェン』の物流の中心ですからね」
与人の呟きをストラが素早く拾い上げる。
その横にはリント、そしてセラが二人を守れるように動いていた。
「けど良かったのかな。こんなに少人数で」
「仕方ないだろう。船を守るの奴も必要だ」
「肯定。そして酔い潰れたユニ氏も守らねばなりません」
「ええ。……ですがもう二度と、もう二度とユニ殿とは一緒にはアルコールは取りませんが」
「めっちゃ固く誓ってるし」
酔い潰された日を思い出したのか顔を青くするストラを心配しつつ与人は店に並んだ魚介類を見る。
「生の魚も売ってるのか。……ここでなら寿司も行けるかな」
「主、何だそれは? 食べ物か?」
「検索。マスターの世界での料理の一つ。主に生の魚を酢を混ぜたライスの上に乗せたモノ、と記録されています」
「生の食材をですか? 危険が伴いませんか?」
「まあ衛生面には特に気を付けないといけない料理だけど、コレが美味しいんだ」
「ほう? まあ私は食べれるなら生だろうが何でもいいがな」
リントらしいとも言える意見に皆に笑みが出る中でストラが今まで皆が避けてた話題に踏み込む。
「さて、いい加減に切り込みますが。都市全体が殺気立ってますね」
「ああ。だが主に向けてでは無い」
ストラとリントの言う通りターヘイの都市全体が妙に殺気立つのを与人までが感じていた。
与人たちに構う暇など無いといったように全体が慌ただしく急いでいる。
「祭り……じゃないよなどう見ても」
「肯定。事態の把握のためにも支部に急ぎましょう。事情を把握しているはずです」
「ですね。どうやら話している内に目と鼻の先になったようですよ」
ストラが指を指した方向に皆が視線を送るとそこには確かにブラッド・アライアンス支部があった。
リントを先頭に中に入ると外と負けず劣らず人が慌ただしく動いていた。
とりあえず与人は代表として受付に声を掛ける。
「あの」
「はいはいはい。残念ながら現在通常の依頼の受付は休止していますので」
「いや依頼をしに来たわけでは無くて。よそから来たブラッド・アライアンスの一員のスローンなんだけど」
「こ、これはまた失礼を。何せここのところ忙しくて」
「疑問。何故『オーシェン』全体がここまで騒がしいのでしょうか」
セラがそう問うと受付(後にペルという名前だと判明)は深刻な顔で言うのであった。
「来るんです。このターヘイに、魔王の軍勢が」
今回はここまでとなります。
お酒は成人になってから!
次回もお楽しみに!




