第35話 成功率云々よりも、結局のところ行動する覚悟
第35話を公開しました!
八方塞がりな中で、ストラが提示した作戦とは?
「……駄目ですね。何も反応を示しません」
ストラは一通り調べ終えて皆にそう言った。
与人を始めとして誰もが分かっていた事ではあるので、誰も何も言わなかったが表情は皆暗い。
幽霊船騒ぎの片割れである船を無事に消し去る事が出来たのはいいが問題は帰る手段が無い事である。
最初与人たちが乗っていた船は砲撃により大きな穴が空いた為に使い物にならず。
最後の希望であったこの船も先ほどのストラの報告により希望が潰えてしまった。
「ストラ先輩の魔法も届かないよね、この距離じゃあ」
「ええ。そもそもここがどれ程度離れているかも不明ですから」
「……『瞬間跳躍』でどうにかなる?」
「無理だと思います。あの能力は与人さんの近くに私たちを呼び出す力ですし」
皆がそれぞれ話し合うがこの状況で一発逆転の案などそうそう出る訳も無く最終的に黙り込んでしまう。
「……一晩経てば流石にリント殿たちも救助に来てくれるはずですが」
「それまで何とか凌ごうって? 食料も何もないのに? 難しくない?」
「そもそもこの船が何時まで形を保っていられるかも不明です。それに先ほどから船中のあちこちらで軋む音が」
「……沈むのが早そう」
「八方塞がり……って訳か」
与人が思わず漏らした言葉に皆が黙り込む中でストラはモノクルを弄りつつため息を吐く。
「仕方がないですね。最終手段を使いましょう」
「まだこの状況で打てる手が?」
カナデがそう聞くとストラは見るからに不承不承といった様子で答える。
「ええ。本来ならば作戦を任される者として、運に任せるような立案はしたくは無いのですが」
「でも打てる手が無いならそれしか無くない?」
「うん。……僕もそう思う」
ランとリルの言葉を受けて与人もストラの方を向いてお願いをする。
「教えてくれストラ」
「与人様が覚悟を決められたのでしたら従うまでですが……。いいのですか? そもそも上手く行くかは与人様に掛かっている訳ですが」
「え?」
思わぬ展開に与人が間抜けな声を上げるのを見つつストラは説明する。
「と言っても難しい事をして頂く必要はありません。与人様がやる事はこの船に『スキル』を使って頂くだけですから」
「え? でもそれじゃあ……」
「想像の通りこの船が人となれば私たちはこの海に落ちるでしょう。ですがこれまでの皆さんの力の傾向からすれば、ラン殿のような自らの分身を作り出す事が出来る可能性があります」
「その可能性に賭ける、という事でしょうか?」
カナデの言葉にストラは大きく頷くとまたため息を吐く。
「問題はそこだけではありません。完全に人になるまでは我々を担ぎラン殿とリル殿には大きく跳躍し少しでも滞空時間を延ばしてもらわなければいけません。そしてその者が事態に気づき素早く船を呼び出さなければ我々は海に叩きつけられます」
「そ、それってほぼ無謀なんじゃ?」
与人がストラの表情を探りつつ質問する。
ストラは怒る訳でもなくただ何度目か分からないため息を吐く。
「自分とてこんな作戦とも呼べないものを進めたくはありませんが、残念ながら現状で生き残る可能性が一番高いものです。……後は皆さんのやる気が有るかどうかですが」
「まあこのまま何もやらないよりはマシだと思うけど」
「……うん。いいと思う」
「私は今回お役に立てませんが、皆さんと運命を共にする覚悟はあります」
ラン、リル、カナデが順に覚悟を決め、皆の視線が与人に集まる。
与人はただ黙ってリントから貰ったお守りを握った。
「俺はまだ死ねない。それが一番可能性が高いのなら賭けでも何でも……やる」
「なら、決まりですね」
リントの言葉に皆が頷き一か八かの博打が始まろうとしていた。
「皆! 準備いい!?」
船のデッキにてリルに抱えられながら与人は皆に確認を取る。
横を見れば同じくリルに抱えられたストラとランに抱えられたカナデが見える。
そして皆がそれぞれ返事をすると与人は大きく深呼吸をする。
不思議なほど気持ちが落ち着いている与人はゆっくりとデッキへと手を近づける。
「行くぞ!」
そう言って与人はデッキに触れ『スキル』を使用する。
そして船全体が光輝き出す。
「「!!」」
それと同時にリルとランは全力で跳躍する。
二人とも人を抱えてるとは思えないほどの跳躍を見せグングンと高く昇って行く。
だがやがて重力に引かれ二人は落ちていく。
「っ! どう!? 様子は!?」
空気の抵抗を感じつつそう叫ぶランの言葉にストラは冷静に現状を叫ぶ。
「駄目です! サイズが大きい為なのか時間が掛かっています!」
現在与人たちがいた船は光る巨大な球体となっており中々人の形を取ろうとしない。
「っ! でしたら!」
それを聞いたカナデがヴァイオリンを取り出すと音を大きく響かせる。
すると降下するスピードが少し落ちた感覚を感じられた。
「振動魔法で少しでも落下するスピードを落とします!」
カナデはひたすらにヴァイオリンを弾くがそれでも効果は僅かであった。
海面が近づき皆に諦めの気持ちが入り掛けた時であった。
海面から先ほどの船が浮上してきたのであった。
「「「「「!!」」」」」
皆が驚く中でカナデは衝撃を減らす為に再びヴァイオリンを弾く。
ランとリルはそれぞれ緩和されたといえ、かなりの衝撃を受けてデッキを大きく転がりやがて止まる。
「痛っ! 皆! 大丈夫か!」
転がった衝撃で体が痛むのを感じつつ与人は皆が無事かを確認する。
「え、ええ。無事なようです」
「もう二度とこの様なことはしたくは無いですね」
ストラとカナデがそう返事を返すとリルも手を振り無事を示す。
「ランは? 大丈夫か?」
「う~ん、駄目かも知れない。お兄ちゃんが膝枕してくれたら元気になるかも?」
「よし! もう一回出来るほど元気そうだな!」
「お兄ちゃんのケチ~」
皆がそれぞれ立ち上がるとまずは現状を確認をしだす。
「ここってやっぱり船の甲板だよね。それもさっき乗ってた船の」
「ですね。となるとやはり」
「ああ。賭けはあんた等の勝ちってな!」
聞きなれぬ声に反応して皆が見渡すと船長室から一人、女性が堂々とした足取りで近づいて来る。
そしてその人物は与人の前で立ち止まる。
「で? あんたが頭かい? 中々の色男じゃないか」
「……葉山与人だ、よろしく」
「何だい首でも痛めたのかい? そっぽ向いて」
「……言うのも何ですがあなたがそのような恰好をしてるからでは?」
与人をフォローするようにストラはその女性に苦言とも言える言葉を放つ。
現在彼女の服装は下はショートパンツ、上は何と黒のビキニを思わせる布一枚のみという恰好であった。
「照れてるかい? 思ったより初心じゃないかい」
ストラの言葉にもその女性は気にした様子もなく与人の肩を叩く。
「でだ、そんなあんたに質問があるんだが?」
だが女性は急遽真剣な顔になり与人に問いかける。
与人もその真剣さを感じとり女性の顔を見据える。
「あんたの目的ってもんは触れた時に感じ取ったが、あんたは本当に全員を幸せに出来るのかい?」
その質問を受けた与人は視線を逸らす事無く答えてみせる。
「出来るかどうかじゃない、して見せるんだ。信じてくれる人のために全力で」
与人がそう言い切ると女性はニヤッと笑う。
「へぇ、肝は据わっているようだね。……気に入った! アタイも一口噛ましてもらおうか!」
「! あぁ、よろしく! えぇ~と名前は……レーナでどうだ?」
「ああいいねぇ! これからよろしく頼むよ頭!」
そう言ってじゃれ合いのつもりかレーナは与人に緩くヘッドロックする。
その様子をカナデとリルは笑って見ていたがストラは少し離れ同じく距離を取るランに声を掛ける。
「ん~? ストラ先輩、何か用?」
「いえ。労いに来ただけですよ。警戒のね」
「……バレてたか」
そう言って隠せるほどに小さく再現した槍を消す。
いざという時はその槍を使って助けるつもりだったのは言うまでも無いであろう。
「お兄ちゃんも不用心だよね。まだ安心できるか分からないのに近づかせて」
「ですが与人様がああであるから仲間になりたくなる。そうとも言えるでしょうね」
「思っていたより高評価だねストラ先輩。もしかしてストラ先輩もお兄ちゃん狙ってるとか?」
「イケませんか? それにあなたも人の事は言えないのでは?」
「……わぁ。その返しは予想してなかったな」
「フフ。では、この話は後にしましょう。そろそろ与人様も限界のようですから」
「だね」
二人は笑いあいながら、肩を組まれ顔にレーナの胸が当たり顔を真っ赤にしている与人を助けに行くのであった。
結局、与人たちがカピの港に戻ったのはリントたちが船を調達しようとしていた夕方であった。
今回はここまでとなります。
新たな仲間、海賊船娘のレーナが登場です!
今後の活躍をご期待ください!




