第28話 力は人を溺れさせる
第28話、更新です!
目の前の惨状を見て、嗤う少女の正体は
「アハ! アハハハハハ!!」
吹き飛ばされた大地。
ゴウゴウと燃え落ちる建物たち。
そんな凄惨な光景を前に、その少女はただ笑っていた。
一見すれば目の前の惨状に、気でも狂ったと考えるであろう。
しかし、少女は
「たっのし~い!!」
手にした杖を支えにしながら。
少女は確かに、笑顔で。
目の前の惨状に悦びを感じ、ただ嗤っていた。
「綿貫様!! 何故このような事を!?」
その少女、綿貫 紗良に声を掛けるのは一見すればただの一般人に見える男。
だがその正体は『グリムガル』が誇る最強の暗殺部隊の隊員である。
男は驚きを隠そうともせず紗良に言い寄る。
その周りには隠れてはいるが男と同じ暗殺部隊の人間が周りを囲んでいる。
紗良は心底不思議そうにしながら逆に男に質問を返す。
「え~? だって明日まで待つの面倒でしょう? いる場所分かってるならこうした方が早いし」
「なっ!?」
本来の計画では明日与人がパラケスを出た段階で襲うという段取りであった。
その為に与人の周りをつけて情報を集め、最後の作戦を詰める段階で紗良は勝手に一帯を吹き飛ばしたのだ。
「大体さ、一々やり方がめんどくさいのよね」
「そ、それは『ソーサラス』との間に問題が起こらぬよう」
「そんなの私に関係無いし。大体あんた達が生きようと死のうと関係無いし」
「っ……!!」
紗良のあまりの言葉に男は怒りに肩を震わせる。
その様子を見て紗良は不機嫌そうにしながら問いかける。
「何? 文句でもあるの? いいよ別に魔王が倒せなくても」
「……いえ、何も。申し訳ありません」
男は悔しさを噛みしめながら表面上は謝罪する。
こういった態度を取っているのは何も紗良だけでは無かった。
現在与人のクラスメイトたちは勇者としての修業という名で王都に滞在している。
だがその実態は裏切らないように、そして言う事を聞かせる為のご機嫌取りであった。
誰が何しようと何も咎められない状況に不平を漏らす者たちも多い。
だが魔王を倒す可能性があるのは彼ら彼女らのみのため誰も何も言えなかったのである。
(クソッ!! 命令が無ければこんな奴!!)
今回の作戦の件にしても本来は暗殺に向いた者に同行してもらう予定であったが他の国を見たいと紗良が無理やりついてきたのだ。
勇者の命令には従うよう上から言いつけられている為に断る事も出来ずにここまで連れてきたが、その途中も我儘放題であった紗良に部隊は疲弊していた。
「……そ、じゃあもう帰ろうよ。こうして吹き飛ばしたんだし」
「……目標がいるのはここではありませんが」
「え? そうなの? 何だ勘違いしちゃった。ま、いいか予行練習にはなったし」
紗良はそこらに転がっていた死体を踏みつけにしながら歩くと思い出したように立ち止まる。
「あ、そうそう」
「何か?」
その瞬間、男は炎に包まれる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あたしに意見しないでよモブ」
炎に包まれる男を助けるために部隊の仲間が駆け寄り炎を消すがかなりの重傷なのは間違いなかった。
その様子に紗良は満足したのか一人に声を掛ける。
「ねぇねぇ。それで葉山がいるのはどこなの?」
声を掛けられた隊員は恐れながらも紗良に与人が滞在している宿屋の場所を教える。
「そ、じゃあ片づけておくから早くそれもどっか捨ておいてよね」
そう言って歩く紗良を見ながら隊員たちは不信感を露わにするのであった。
「な、何があったんだ!?」
突然の爆発音に与人はリルとセラと共に隣部屋のリントたちに合流した。
目線で落ち着くように言うとリントは外の様子を見つつ分析する。
「何かの事故にしても規模が大きすぎる。……人為的と考えた方がいいな」
「疑問。だとしても誰が一体何のために?」
「悲鳴が多すぎて状況が把握できません。逃げ惑ってるのは確かなようですが」
「とにかく巻き込まれる訳にはいきません。動かない方がいいですね」
カナデがそう情報を伝えるとアイナがそう結論付けるのを与人たちが肯定しようとするがまた爆発音が鳴り響く。
再び外を見てみれば先ほどより近い位置で爆炎が上がっていた。
そして一つ、また一つと爆発が聞こえるたびにこっちに近づいて来るのが分かる。
「どうやら目的は私たちのようだね」
ティアの言葉を否定する者は誰もいなかった。
中でも与人が辛そうな顔をするのに対しアイナが剣を手に取りつつ外に向かおうとする。
「待て聖剣」
「何故止めるのですかリント。敵と思われる以上は迎撃しないと」
「まだ確定じゃないよ。それにここは複数人で動いた方がいい」
ティアの言葉に冷静さを取り戻したのかアイナは剣をしまう。
「じゃあ誰が行くの?」
「……頑張る」
ランとリルが準備運動しつつ声が掛かるのを待つが与人は考えつつストラを見る。
「どう思うストラ」
「爆発の規模から見て相手は恐らく魔法の使い手。ここは耐えられるだけの防御力を持ったリント様、一撃離脱が出来るティア様、そして対抗出来るだけの魔力を持ったユニ様の三人が適切だと思います。最終判断は与人様、お願いします」
「分かった。……行けるか三人共」
与人はストラの提案を受け入れると三人を見る。
「問題ないよ主くん。吉報を待っててくれ」
ティアは普段通りに与人にそう言ってのける。
「はい。与人さんも気を付けて」
ユニは与人を心配しつつも被害者が気になるのかしきりに外を見ている。
「こっちは主の命令に従うのみだ。だからお前もそう心配するな」
リントはそう言い与人を安心させる。
三者三葉の言葉で三人は与人の判断を受け入れると外へと向う。
「……行ったね」
「そうですね。私たちは私たちに出来る事をしましょう」
三人を見送ると皆はそれぞれ動き出す。
「……」
「暗い顔だねお兄ちゃん」
与人が一人でいるとランが声を掛ける。
「ランは動かなくてもいいのか」
「今はお兄ちゃんの心を守るのが仕事。アイナ先輩も私の方が適任だろうって」
ランはそう言うと与人に近づき手を握る。
「ラン?」
「大丈夫、お兄ちゃんの所為じゃないよ。今回はただ向こうが異常だっただけ」
「……そうだとしても」
ランの言葉に与人は悲痛な顔をするが彼女は一層握る手を強め、与人の顔を見る。
「お兄ちゃんは優しいね。どんな人間だろうと物に対しても思いやる事が出来る。そんなお兄ちゃんだからその【スキル】が宿ったのかもしれないね」
「……」
「ねぇおにいちゃん? これから先に何が待っていてもその優しさを忘れないでね。それだけで私たちは戦えるから」
「……優しいかどうかはともかく、性格を変えるつもりはないよ」
そう言うとランは優しい笑顔で与人を見るのであった。
その姿は妹というより姉のようであったと後にのぞき見していたアイナは後に語った。
クラスメイトとの戦いがまた始まろうとしていた。
今回はここまでとなります
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