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先ほどまで高笑いをしていた侍女が、階段を勢いよく腰の高さほどある鉄の箱と一緒に落ちていく。追いついたのはコスモであった。
「だっ…大丈夫かな?!殺してなんかないよね…?」
ドスンと響いたっきりすっかり無音の階段下を、不安そうにコスモが覗き込む。恐る恐る壁に手を当てながらゆっくり下に降りていった。
コスモは首謀者をここで逃してはならないと、自分の金庫ケースとともにセーラの後をつけていた。だがやはりケースが重く、場内も混乱しているので徐々に距離を離されていた。
「ここで止めなくちゃ!」と決死の思いで、大切な金庫を階段から勢いよく落としたのである。
油断していたところにふいに背中をどつかれたせいでセーラは防御姿勢が取れていなかった。そのまま落っこちて階下で気を失っていた。とりあえず息はしているかどうか口元に手を当てて確認する。
「よかった…死んでない…」
セーラがこれからどうなろうか知ったことではないし、今は自分が殺めてしまったという事実が生まれなかっただけでいい。
「さて、どうしようかな…」
階段上から小さく聞こえてくる騒ぎが、まだ事態が収まっていないことを物語っている。
かといってここからどこかに行くわけにもいかない。まずはミーティアに会わなくては。セーラに目を覚まされるとマズいので、金庫を体の真ん中にずらしておいた。ささやかであるが。
やがてドタドタとこちらへ近づいてくる足音が聞こえる。横たわるセーラの巨体に潜みコスモは身構える。だが心配は不要だった。
「コスモさん!俺です、ロンです!」
呼びかけてくるが壇上での勇ましい声とは違って、何ともしまりのない寝ぼけたような声だ。だがそれ故にかえって安心できるというもの。コスモは身を乗り出して手を振った。
お互いの無事を確認しコスモは早速、 「ミーティア様は?私、とっつかまえたよ。」腕を組んで胸をはり誇らしげであった。
「え、まさか殺…」
「生きてるよ!!」
うつぶせのセーラを強引にめくるように引っ張って顔を見せる。暗くてよくわかないが息はしているようだった。
「ならさっさと縛って上に放り捨てましょう。」
そう言ってロンは手頃な布を寄り合わせて紐を作り、荷造りでもするように手早く、淡々とすませてしまった。呆気ないものである。気を失った"雄牛"のセーラを軽々と肩に乗せて来たときと同じようにドスドス踏み鳴らしながら上がっていった。
その背をコスモ、それとミーティアはじっと見守っていた。




