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セーラがまだ少しくらくらする頭を振り、目を半分だけ開けて辺りを見渡す。無数の脚が見える。脚。
「はっ!?」
目が一瞬で覚めた。
自分を囲うように鎧姿の騎士たちが見下ろしてきている。セーラは困ったような安心したような表情を作り騎士たちに言った。
「ああ、よかった!死ぬかと思いました!助けてくれてありがとうございます!この怪しげな会の主犯を追いかけていたのですが返り討ちにあってしまい…」
セーラに向けられる無感情な目。相手の話を聞くつもりは全くなさそうであった。
「ちっ…」
舌打ちする。
そこへ騎士の列を分けて、おそらくこの場の指揮を任されている隊長らしき人物がやってきた。
「残りは然るべき場所で問おう。今まで何を売ったとかどうやって手に入れたか、だな」
すべてネタは上がっている。逃げ場もなく、男に襲われそうになっている!と叫んでも助けてくれない。セーラはたくましい女性として周りから評価されているので、今更気娘のような叫び声は出せない。つまりは完全に手詰まりであった。
「ちくしょう…ちくしょう…」
汚い言葉を吐きながらセーラは騎士たちによって連行されていった。連れていかれる途中、燃えガラとなったミーティアの衣類が回収されているのを見た。
セーラは肩を落とし生気を失いうつむいた。
「ああ…」
見晴らし塔地下の通路は一見一本道である。一見、というのは実は、この道は城から伸びる無数の隠し通路とつながっているのだが、それを知っているのは王家の者だけなのだ。衛兵たちと王族の、緊急時の合流ポイントとしての使われ方が想定されている。
暗い、明かりなど何もない道をロンとコスモとミーティア、三人は通っていた。
「…ロンさん、このまま進むのでいいの?」
「ミーティア様が先導してくれてるのでそれを追えば…」
頼りない小さな火一つでコスモはロンの背中を追いかけている。生きている者は苦労していても明かりなどミーティアにはあまり関係が無いらしく、普段と同じように滑っている。
「……」
「ミーティア様?」
前行ってあげる、と一言言ったきり、黙ったままのミーティアをロンは心配する。
返事はなくしばらく、地下通路内のレンガを鳴らす靴の音だけが響いていた。ホコリが多く、誰にも使われることなく、誰もが忘れてしまったような道である。
この場にまとわりつく重苦しい空気に耐えきれず、コスモが気になっていたことを聞く。
「…そういえば、すごい都合よく騎士がやってきてたけど…ロンさん、なにかした?」
「ああ…」ロンはミーティアを見失わないよう振り向かずに答える。
「彼らは俺が呼び寄せたんですよ」
「どうやって?」
コスモの声が通路にこだました。
「…」ロンは首に手を当てる。ミーティアも振り返りロンのことを見つめた。
「ダイン騎士団が夜に警戒に当たってたのは知ってましたからね、利用させてもらったんです」
ロンはオークションが始まるやいなやセーラの後を追ったミーティアを追いかけた。途中で兵士を装い見張り番を交代する名目で入り口を抑えた。セーラが去ったのを確認すると、こっそり内へと入り燭台を傾ける。火が衣装を焦がし始めたのを確認して、見晴らし塔の上へと登る。開放された窓から明かりを持って騎士団に通じるサインを送っていた。疑いなく返事をしたことを確認し、ロンは会場へと戻っていったのである。
「え、ちょっと。なんでロンさんが騎士団のサインを知ってるの?」
最もな疑問である。
「…それは騎士見習いだったからですね」
「ええッ?それ出世コースじゃない、それが今なんでこんなこと…」
コスモは言葉を呑んだ。それを捨ててでもミーティアの手助けをすると決めたのだろう。これ以上聞くのは野暮である。そう判断したコスモは少し笑ってから黙って彼についていった。
「あっ、もうすぐで出口ですよ」
陰っていた月明かりが今は優しく差し込んでくる。城に仕える者たちの墓所の裏に三人は顔を出した。
「なるほど、こんなところにつながってんの…」
咳をして、コスモは少しそわそわしながら独り言を言った。ミーティアは墓を一つ一つ見て回る。ロンは追手が来ても対処できるように出てきた穴の前に立ちふさがっていた。




