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頬を打った音が会場に広がる。来客たちはあ然とするしかなかった。ミーティアは殴ったあともしばらくその場を離れず、相手の胸ぐらを掴んだままだった。ロンの力は彼女が思っていたよりも強い。つい先程まで余裕だったセーラから笑顔が消えた。
「こいつを引き剥がせェ!」
雄叫びを上げて男を剥がそうと体をねじる。兵たちも再び取り押さえようと挑んできた。当然ミーティアは暴れる。腕を振り、足を蹴り上げ、羽交い締めにされてもなお頭突きを繰り出す。
彼女に初めての肉体的な喧嘩で加減がわからない。ましてきちんと鍛えているロンの肉体だ。兵たちは複数人で束になっているのに恐怖を覚えるほどである。だが果敢にも一人抱きつき、二人抱きつき、男の動きが鈍った瞬間に一斉に飛びかかって倒れ込むようにして床に押さえつけた。
だがミーティアはなおも起き上がろうと爪を立てて床の木板に指を食い込ませる。這ってでも近付こうとするこの男をそうはさせまいと後ろに引きずる兵士たち。爪がかけ、指先が割れ、それでもミーティアは夢中で前へと進もうとしてした。
「はあ…」
ほぼ無力化した男を見て安心したのか、セーラに余裕が戻ってくる。腫れた頬をなで、ブッと口に溜まった血をロンに目がけて吐いた。
「魔女ミーティアと何があったかは知らないけど、
こんなに頭のおかしい人が出てくるとはね、同気相求むというものね。あの小娘にはふさわしい男かも」
そう言って冷ややかに笑った。コツコツと靴を鳴らして見上げるロンの鼻先までやってきた。手足は押さえつけられ体には兵士たちが何人も乗っかっている。
邪悪な笑みを浮かべた次の瞬間、会場から歓声が上がる。
セーラがロンの鼻頭を蹴り上げた。
その衝撃でミーティアはロンの体から離れてしまう。
「…しまった!」
ミーティアは急いでロンの体に戻ろうとするが、肝心のつむじをセーラが踏みつけて侵入することができない。
「ずいぶん思い切り殴ってくれたじゃない。ねェ!」
グリグリとつま先とかかとを押し付けて屈辱を与えた。
「何をしたかったのかわからないけど、魔女の品を売っている私に文句でもあったのかしら?」
殴られたことが相当頭にきていたらしくガンガンと頭を何度も踏みつける。
「皆さん、この悪漢はここで成敗いたします!」
もう会場の人々は見世物でも見ているような気分だ、拍手で彼女を煽る。セーラの言うとおり、話していたことの意味も、突然現れた意図もわからない。ただこれだけは言えるのは自分たちのマーケットを潰しに来ているということだ。ロンに味方をするものは誰もおらず、屈強なセーラが男を足蹴にするのを痛快な面持ちで眺めていた。
「くっ!足どかしなさい!ロン!大丈夫!平気?!」
すり抜けてしまうミーティアが無駄なあがきを繰り返す。繰り返されるスタンピングによって、彼の頭の周りには血が飛び散り始めた。
「ロン!ロン!何か言って!返事をして!」
ミーティアは焦る。自分が飛び出したせいで返り討ちにあっている。痛めつけられるのはロンの方だ。
(わかってなかったわけじゃない…)
ただ意識が希薄だった。ロンはちょっとやそっとじゃ倒れない。身代わりになってもらっても文句の一つや二つを言うだけで、自分のことは一切拒絶しない。
「やめて!ロンは悪くないんだから!」
誰にもその言葉は届かない。
暴漢返り討ちショーは続く。




