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「これ以上好き勝手させない!」
瞳は険しく、歯茎までむき出しにして、ロンがセーラに詰め寄っていく。二人の対格差はほとんどなく、なんならセーラの方が若干横幅が広くてがっしりしているといってもいい。
「…いや、何でしょうね?」
セーラは一歩もその場を動くことなく、その突然の乱入者を蔑んだ。
ロンが口を開いた。だがそのあまりにも見た目とあっていない口調に会場には妙な緊張感が走る。
「…セーラ、これだけは聞かせて」ロンはごつごつした手で自分の服の裾をつかんだ。
「あなたはずっとワタシよりお金が大事だったの…?」
一つでも、何か一つでも彼女とつながりはないか、絆を確かめられることはないか、自分の感じていたことが全て嘘ではなかったと信じたい、そういう目をしていた。
「…いや、あなたどちら様?」
「誤魔化さないで!」
「誤魔化すも何も!あなたのこと一かけらも存じないので!?」
「…この…」爪が食い込むほど拳を握ったが、突然ロンがはたと気づく。
(そうだ、これロンの体じゃない!)
思いが先走りすぎて大事なことを忘れていた。それはそうだ、この状態で自分がミーティアだとわかるはずがない。彼女は身を正して、少し落ち着きを取り戻した。
「驚くかもしれないけど、セーラ。ワタシ、ミーティアよ」
「誰か!この男を引きずり降ろして!!」
ワラワラと警備にあたっていた兵たちが歩いて来る。
「ちょっと…!話はまだ…」
無数の男たちが腕を伸ばし、もみくちゃにされながらもミーティアは体をゆすって抵抗をする。
「待っ…誰!?今ワタシお尻触らなかった!?やめて!」
駆けつけた兵たちもそのくねくね動く男に若干の恐怖を覚えたのか、一瞬攻め手が緩くなった。その気を逃さずミーティアは兵士たちを弾き飛ばし、セーラへととびかかる。だが、捕らえる手の方が早く、またたくまに床に組み伏せられてしまった。
「ぐッ、ゥ…」
気がふれてしまった暴漢が取り押さえられて一安心、といった様子だ。セーラは胸をなでおろしまた、最初のような調子で話始める。
「”ワタシ、ミーティア”ね。とんだ男もいたものだわ。かの魔女の艶っぷりといえば、皆さんもご存じのはずですね。それを、こんな…お前のような正気とは思えない者が騙っていいはずがないでしょう」
会場は拍手を送った。ミーティアは少し大人しくなる。
「なぜ…?」
期待、といえばいいのか。もしかして、という淡い想いがあったのか。上目づかいでセーラを見る。
「…魔女の信者がコレだと広まったら、品物の価値が下がるからやめてくださいますかね」
セーラは腰に手を当て前かがみになり顔を近づけたうえで相手をじっくり見る。そして鼻で笑った。
「せめて、絶世の美女じゃなくちゃ。ブランド力ってのはまず見た目、次にストーリーで決まりますから」
「ブランド?」
「…そ。王宮お抱えの美少女占い師。大罪を犯し魔女として処刑された者の私物。こんな刺激的でキャッチ―なもの他にはないでしょ?」
セーラは大笑した。会場の者もそのことは織り込み済みでニヤニヤ笑う。
「…指輪は?」
「…?」
ミーティアの質問の意図が分からず、セーラは咄嗟に不審な顔をする。
「ワタシがあなたに上げた指輪、おばあさまからいただいたものだから大切にしてねって言った…あれも…価値が高いから…売ったの?」
はて、どの指輪のことか…。顔に手を当ててトントンと人差し指で頬を叩く。だがすぐに、何のことかわかった。
「ああ、あれ!今日、金貨500枚越えで落札されてましたね、最高ではないですか。只の銀の指輪なのに。商売の基本は安く仕入れて高く売る。あの指輪はタダでもらったから丸儲けですよ。」
悪びれもなく、何人もの観客に聞かれているにもかかわらず、堂々と言い放った。彼女にはミーティアの品は金になるかならないか、それ以上の感情は存在しなかった。
大事なものだった。大事なものだとわかってくれていると思っていた。確かに大事にされていた。だがそれは、高値で売るためだった。
気が付いたときには押さえつける男達を弾き飛ばし、セーラの胸ぐらをつかんで、強く、強く、拳で顔を打ち抜いていた。




