第95話:旅立ち
1人で戦えるカレンとレオはそれぞれが自身の部屋に戻って準備を始める中、荷物鞄を背負うだけで準備が完了するようにあらかじめしてあった俺はさっさと荷物鞄を背負い、ポーラの護衛のためにポーラについて彼女の部屋へと向かった。
何気にカローンナの屋敷のポーラの部屋には初めて入ったが、この数ヶ月の間に買ったであろう本がかなりの量山積みになっている。
そのどれもが難しそうなものばかりで、本当にポーラが自分よりも年下なのかと疑いたくなる。
まぁ、俺みたいに好きな本を好きに呼んでいるというよりは勉強のために読み漁っているって感じだな。
そりゃ魔法も使えるわけだ。
知らんけど。
ポーラも同じように荷物鞄にある程度荷物をまとめていたようで、「えっと……えっと……」何て言いながらしゃがみ込んで山積みの本たちを漁り、そこから何冊かを選びだして荷物鞄に追加で詰め込んだ。
そして、「よしっ!」とひとりでに頷いて肩紐を肩にかけると、勢い良く立ち上がり、
「行きましょう!」
と、力強くいった。
「ああ」
ポーラに頷きを返して部屋から出ると、すでに荷物をまとめ終えていた2人が俺とポーラを待っていた。
とりあえず屋敷を出て街に出よう。
そうすればカローンナたちもすぐには俺たちを見つけられないだろうし。
という話になり、俺たちは屋敷の玄関に向かってまっすぐに走った。
だが、
「よう。元気そうで何よりだ」
扉を開け、外に飛び出た俺たちを待っていたのは、ガントレットをつけたまま仁王立ちするカローンナだった。
「なっ……!」
「お前ら、そんなに急いでどこに行くつもりなんだ?」
呆れた様子でため息混じりにいうカローンナを、レオが睨みつける。
獰猛に笑うこともなく、ただ、嫌悪の感情のみを含ませ、睨みつける。
「テメェには関係無ぇだろ。殺すぞ」
俺たちを庇うようにレオが一歩前に出るのを見て、カローンナは鼻で笑ってやれやれと首を横に振った。
「お前に私は殺せないよ。お前にだけは……ね」
「あ? それ、どういう意味だ」
「何だ、気づいていなかったのか。今お前たち4人の中で一番弱いのがお前だって」
レオが一番弱い?
バカ言え。
カレンだけじゃなく、俺やポーラもここ数ヶ月で一気に強くなったわけだが、それでもレオほどじゃない。
もしかしたらカレンはレオよりも強くなっているのかもしれないが、俺とポーラはきっと2人がかりでレオとどっこいどっこいだ。
だから、レオが一番弱いなんて話はありえない。
これはあれだな。
レオを揺さぶって戦力を削ごうとしているな。
まったく……厄介な奴だ。
「レオ。カローンナの言葉に耳を傾けるな。動揺させようと煽ってる」
「……ああ。わかってる」
歯を食いしばりながらレオはいうが、その手が腰の疑剣に伸びようとしていたからかなりイラついてたんだろうな。
ただまぁ、不用意にカローンナに突っ込んでいかない程度には冷静でいてくれている。
助かるよ。
「ずいぶんとまぁカナの思考がわかってるじゃねぇかよ」
背後から声がかけられ、振り向く。
そこには後ろ頭をかきながら、イヴァンが気だるげに立っていた。
「誰だよテメェ」
イヴァンをまだ見てはいないレオが、警戒する。
カレンも布袋から刀を取り出した。
「俺はな、勇者の素質があるのに勇者になれなかった人間っていうのを知っているんだ。まぁ、俺自身の話なんだがな」
勇者の素質?
勇者になれなかった?
(コイツ……何を言って……)
「そこで問題だ。俺は勇者の素質がありながらも勇者になれなかったんだが、それはなぜだと思う?」
レオの誰だよテメェという問いをガン無視し、イヴァンは聞いてくる。
誰に向けたものかわからず、俺たちは誰もイヴァンの問いに答えない。
「メイビス。勝手に話をするな」
「メイビスっていうな」
俺たちを挟んで、イヴァンとカローンナが会話をする。
それだけの情報で、レオはイヴァンが敵であると判断して、彷徨わせていた手を突き動かし、疑剣を鞘から抜き取り構えた。
「おいボウズ! ニシゾノケイタ!」
イヴァンは気怠げな調子で声を張り上げ、なぜか俺の名前を呼ぶ。
名乗ってもいない俺の名前を呼ぶ。
それは、イヴァンが俺の名前を知っている人物で、俺が大魔法使いという有名人の親族だと知っている立場の人物だという証明になっていた。
だが、そんな段階の思考はとうの昔に終えている。
どこかで聞いたことのある声を持つその男、イヴァンに、俺は言葉を返す。
「何だよ。イヴァン・メルビス」
「ああ。そっちの名前で呼ぶのな」
少し悲しそうにイヴァンはいった。
決して聞きたくはない言葉だった。
「まぁいいや。俺はお前を気に入ってるから教えておいてやる。勇者の素質があるのに勇者になれない人間ってのは少なからずいるわけで、そういう奴らが素質があるのに勇者になれない理由ってのは、より勇者にふさわしい人間がいるからなんだ」
と、勝手に語りながら、イヴァンのその瞳は……カローンナへと向いている。
(なるほど……少しわかってきたぞ……2人の関係が)
俺はてっきり2人は魔王軍時代の上司と部下という関係だとばかり思っていたけれど、おそらくはそうじゃない。
魔王軍になるよりも前からの関係だったのだろう。
カローンナが勇者と魔王のどっちに先になったのかはわからないが、おそらく、魔王を倒す立場だった時に、イヴァンはカローンナの仲間だった。
2人も候補勇者だったのかはわからないが、とにかく2人は仲間だったはずだ。
で、話を聞く限りだとイヴァンは勇者の適性というものがあったが、結局、勇者になることはなかった。
理由は簡単。
カローンナが魔王を倒して勇者になってしまったから。
素質がある自分よりも、さらに素質のある人間が勇者になってしまったから。
うん。2人の過去についてはちょっとだけだが想像できたぞ。
けど……
「その話をどうして俺にするんだ」
俺を名指しにしたことから、イヴァンの話が俺に宛てられたものだということがよく分かる。
ただ、どうして俺に宛てられたのかはわからないからそれを問う。
「そんなの聞くまでも無ぇよ」
なぜか嬉しそうに、イヴァンは微笑んだ。
「お前に勇者の素質があると思ったからだ」
俺に勇者の素質がある?
何ってんだよ。
勇者の素質があるのはレオだ。
その次に言うならカレンだ。
俺はあるとすれば脇役の素質だけだ。
俺は、勇者になんか成れない。
「冗談だよ。気にするな」
その声は俺のすぐ横から聞こえ、いつの間にか移動していたイヴァンが俺の肩をポンと叩く。
次の瞬間、イヴァンの姿が消えた。
「なっ……!」
イヴァンの姿が消えたのだと認識したその瞬間には、イヴァンはカローンナの隣に既に居た。
「瞬間……移動」
カレンが驚愕を声にする。
その隣で、ポーラが口元を押さえ、目を見開く。
どうやらポーラも気づいたようだ。
「お前、バベルで死んだんじゃなかったのかよ」
と、確認のために意味のない言葉を投げかけてみる。
すると、イヴァンは目を細め、三白眼で俺を見つめながら「ハハハハハハハハ!!」と高笑いをした。
「いやいや。お前、アビゲイルから聞いていただろ。俺が死んでないって」
「あぁ、そうだな。聞いていたよ。お前が元気だってことをな」
知り合いのように会話をする俺とイヴァンを交互に見て、レオが困惑した様子を見せる。
無理もない。
レオはそいつに会ったことはあるが、イヴァンとしての奴に会うのは初めてだからな。
だから、レオからしたら俺が旧友と話しているような、そういう風にしか見えない。
「正直、お前には死んでいて欲しかったよ。ウィーク・ドミネーター」
「わざわざ口に出すなよ。無粋な奴だぜ」
やれやれとアメリカンなジェスチャーで大げさに首を振り、イヴァンは不敵に笑った。
「あんなのはただの役職名だ。雑魚の管理者ってな」
ブルーの瞳が印象的な色白の男、イヴァン・メルビスがウィーク・ドミネーターと同一人物であることが間接的にではあるが……証明されてしまった。
それはつまり、ピースに対する推測の補足もされたということだ。
「小鬼としての体は……生身なのか?」
「企業秘密だ」
ビンゴだ。
小鬼の体に何かの秘密があるのは確かだ。
俺は以前、ピースは武器職人としての力を使って魔物を操っているとだけ思っていた。
けど、今目の前にいる人間の男があの小鬼のウィークと同一人物であることが判明した。
ピースが人間の体と魔物の体を持っているのと同じように、ウィークも2つの体を持っているのだと判明した。
さすがにそこまでフラガラッハの力だとは思えない。
なら、魔物の体か人間の体のどちらかを、ピースが作ったのだと考えるのが妥当だ。
けど、どうやらピースもウィークも元は人間なようだ。
アビゲイル・キャンベルとイヴァン・メルビス。
それぞれがそれぞれの名を持つ人間だった。
結論として、ピースは魔物を操ることができるのではなく、魔物の体を作ることができる人間、魔王軍幹部であるということになる。
もしかしたら限定的に体を作り変えることができるという技術を持っているのかもしれないが、それはありえないだろう。
断言する理由はバベルだ。
あの時、ウィークは確かに初代魔王に飲まれた筈だ。
にもかかわらず、今こうして目の前にウィークが立っている。
イヴァン・メルビスという1人の男として立っている。
もしもピースの持つ何かしらの技術が人の体を魔物に変えるというものだった場合、ウィークの体は残っていないわけで今ここに立っているのはおかしいという話になる。
よって、ピースの持つ武器職人としての技術は魔物の体を作り、それを何かしらの手段によって実際の手足のように動かすというものであることが分かる。
全くもって理屈はわからないが、2人の魔物としての体は偽物だ。
そして、偽物である以上は魔物の状態の2人を倒したところで、人としての2人は倒せないということになる。
(厄介だな……死なない魔王軍幹部)
倒すには生身の状態で倒す必要がある。
「……っ!」
気づいてしまった。
ウィーク・ドミネーターという魔王軍幹部を倒すには、今が絶好の機会なのだと。
「レオ! イヴァ……ウィークを殺すぞ! 倒すには今が一番の好機だ!」
走り気味に叫び、背から腰に移動させておいた支給品の長剣を抜き、構える。
「無駄だよ」
カローンナの宥めるような声が聞こえ、そこでようやく気がついた。
イヴァンの姿がどこにも見当たらないことに。
「逃げられたわね」
鯉口を切るカレンがため息混じりにいう。
そのまま刀を布袋へと仕舞い、カレンは臨戦態勢を解いた。
まだ目の前にカローンナという敵がいるにも関わらず。
という感じで相変わらずカローンナに敵意を向けていると、カローンナはポケットからタバコの箱を取り出し1本を口にくわえて簡易発火機で火をつけた。
「お前たちに話がある」
「俺たちは無ぇ」
レオは気持ちいいぐらいの即答をした。
「まぁ聞け」
「やだね」
イラついた様子で僅かに眉をひくつかせながらも、カローンナは話し始めた。
レオにかまっていてはキリがないと判断し、強引に話を進めようと思ったのだろう。
「魔王軍による人類への総攻撃の日程が繰り上がりになった。あと、ふた月程度しかない」
盗み聞きをしている時に聞こえてきた内容だ。
「そこで、お前たちには今すぐこの街を旅立ってもらう。シロとニコラを護衛につける。ニコラは海沿いの街まで車を運転してくれて、海沿いの街からは船の操縦をしてくれる。シロは太平洋を横断した後、中国から朝鮮連合国までの道案内をしてくれる」
拍子抜けだった。
聞いてはいけない、カローンナが革命を企てているという話を聞いた俺たちを消しにかかってくるのかと思っていたら、カローンナは俺とポーラに話を聞かれていないテイで話を進め始めた。
「朝鮮連合国に入ったら国王の元へ行き、救援要請を出せ。あそこは米国とかなり仲がいいから戦力を貸してくれる筈だ。そこまでをひと月でどうにかしろ。朝鮮連合国で装備を整え、戦力をかき集め、すぐにキノクニへと発て。キノクニに入ったらシロが案内をしてくれる。まっすぐに魔王城に向かい、魔王軍革命派を倒せ」
そう言うと、カローンナは俺の元にまで歩み寄ってきて、パンツの後ろポケットから取り出したナイフのようなものを手渡してきた。
「代わりにはならないだろうが、無いよりは有ったほうがいい。持っていけ」
渡されたのはナイフではなく、短剣の部類でも刃が小さめのものだった。
肉切包丁って感じで戦闘では使えなさそうだな。
「あ、ああ。ありがとう」
生返事を返すと、カローンナは俺にハグをして背を軽く叩いてきた。
「な、なななななななな! Na! 何してるんですか!」
カローンナに突然ハグされて赤くなっていると、なぜかポーラがテンパった。
そんなポーラを見てクスリと笑い、カローンナは次にポーラへと歩み寄った。
同じようにハグをして、軽く背を叩き、ポーラの耳元で何かを囁く。
一連の行動をカレンにもやり、次にレオにやろうとしたところでカローンナはレオに拒絶された。
ただ、カローンナは拒絶されたというのに「お前はそう言うキャラじゃ無いよな」と少し嬉しそうだった。
「誤解をしているようだから弁明しておくが、ケイタとポーラが聞いた話は聞かれたらまずい話というわけじゃあ無い。だから、別に話を盗み聞かれたことを怒るつもりは無い。むしろ、お前たちのこれからに重要な要素を渡すことができてよかったと思っている」
聞かれたらマズイ話というわけじゃ無い?
バカ言え。革命を企てているという話が聞かれて問題ない話なわけがあるか。
「本当はもう少しゆっくりと準備をしてお前たちを送り出したかったが、お前たちは今こうして街から出て行こうとしている。それを止めるつもりは無い」
このまま、私はお前たちを送り出すよ。
カローンナはそう言った。
「手向けは無いが我慢してくれ。門を通って街の外に出たところに、すでにニコラが車とともに待機している。シロは今、街中で緊急で準備をしているが30分以内には準備を終えて街の外に着く筈だ」
次から次へと話を進められ、俺たちはついていけずに呆然とする。
だが、俺たちが呆然としていようとカローンナには関係が無い。
話は……続く。
「お前たちはまだまだ弱い。全くもって魔王軍の幹部に及んでいない。だが、弱いことを自覚してさえいればどこまでも強くなれる」
と、柄にも無くクサい事を言ったところで、カローンナは言葉を止めた。
「辞めだ辞め。こんなのは私の柄じゃない」
よくわかってるじゃねぇかよ。
みたいな感じで野次を飛ばしたかったが、下手にやるとボコされる。
やめておこう。
「当初の予定と違うとはいえ、お前たちはこの国を旅立つことになった。この先、大変なことは沢山ある。そんなのは生きている以上は当たり前だ。だが、挫けることだけは無いようにしろよ。そうすればいつかは報われる。がんばれりょ」
辞めだとか言っておきながらクサい言葉を続けたカローンナ。
挙句には最後の最後で噛むというカッコのつかなさ。
そんなグダグダな調子で、俺たちはカローンナの屋敷に背を向け、歩を進めた。
__________
「やあ皆。久しぶりだね」
街を出ると、本当にニコラウスが待っていた。
ニコラウスは髪の毛がかなり伸びていて、男なのにカレンみたいに髪の毛を後ろで結んでいた。
さらによく見ると……
「目の下のクマが酷いな」
レオの指摘通り、ニコラウスの目の下には異常なほどに濃いクマができていた。
指摘されたニコラウスは頬を指先で掻きながら照れ笑う。
「いやね、少し……考えることが多かったんだ」
「あいつ等のことか?」
不躾な問いを、レオは気にせずにする。
あいつ等というのは、あの街で命を失った、ニコラウスの仲間たちのことだ。
レオは、死んだ仲間たちのことを想っていたのかと聞いている。
随分と酷い問いだ。
だが、ニコラウスは照れながらもレオの言葉に頷きを返した。
「ホノカもバクもキャロルも、皆が僕の前からいなくなってしまったからね。僕はどうするべきかって考えたんだよ」
「それで?」
「3人の復讐をすることにした」
「……そうか」
レオが渋ったような生返事を返したが、その気持ちはよく分かる。
ニコラウスの戦う動機が、明確に復讐になってしまった。
よく物語とかでは復讐の先には何も残らないと表現されることが多い。
それは一種の啓蒙的な意味合いでの表現ではあるのだろうが、あながち間違いでも無い。
復讐は、根拠の薄い弱い動機だ。
復讐相手の事を知れば知るほど、揺らぎ、動機が薄れていく。
そうなると、必然的にニコラウスは戦う意味を見失い、弱くなる。
弱くなると、命を落とすことになる。
さすがに、そんな部分の指摘をニコラウスにすることなどできなかった。
「僕は奴らを許さないよ。バクとキャロルを撃ち殺したウィーク・ドミネーターも、ホノカを踏みつぶしたピース・ライアーも。皆みんな、許さない」
怨讐の言葉を歪んだ笑みで吐き出すニコラウスに、俺たちは圧倒され、ただ無言を返すことしかできない。
「……ん」
気づけばいつも通りのローブ姿でシロが居た。
俺の横にぴったりくっつくように立つシロは、何かが沢山入った布袋を肩にかけていて、少し重そうだ。
「持とうか?」
聞くと、
「い……や」
拒絶された。
それにしても嫌って……もう少し言い方あっただろ。
「じゃあメンバーも揃ったことだし、すぐに出発しようか」
ミニバンほどのサイズの白い車に、俺たちは乗り込む。
運転席にニコラウス。
助手席にシロ。
中部席にレオとカレン。
最後列に俺とポーラって配置だ。
ちらりと荷台を見ると、段ボールがものすごく沢山積み込まれていた。
中身が気になって、テープも貼られていない手近な段ボールを少しだけ開けてみると、そこには水やら保存食やらが沢山詰め込まれていた。
別の箱を見てみると、砥石や短剣、ローブなどの備品類も詰め込まれていて、そんな段ボールが全部で14個ほどあった。
「何が手向けは無ぇだよ。十分すぎるだろ」
きっと、カローンナは恥ずかしかったんだろうな。
アイツ、なんだかんだでしっかりといい奴だったじゃねぇかよ。
「何か言いました?」
隣に座るポーラが俺を見上げながら聞いてくる。
相変わらず、目のやりどころに困る。
「何も言ってない」
ポーラから目を逸らしてそう返すと、ちょうどのタイミングでミニバンが唸りを上げた。
「じゃあ、行くよ」
ニコラウスがアクセルを力一杯に踏み、エンジンが回転数を上げて小刻みの振動と重い音がミニバンに伝う。
車に乗っているぞっていう慣れない感覚だ。
景色が流れ出す。
もう秋も中ほどとはいえ、未だに日中は暑い。
太陽の光を遮ることはできないが、代わりにとニコラウスが冷房を入れる。
車内に、冷たい空気が回り出した。
少しずつ、楔国が遠くなってゆく
本当に少しずつ、少しずつ、暮らし慣れ始めた街並みが遠くなってゆく。
やがて、どこか故郷と似た様相を持つ街並みは、はるか後方に融けるように消えて行き、見えなくなった。
こうして、俺たちは楔国を後にした。




