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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第六章 地底墳墓のジャック
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八番目の王

 



 アルトとの話し合いから一週間程経ち、迅八は王都の噴水広場にある一軒の店で、人と向かい合っていた。


「全く……こんなヤバい話持ってくるなよ。普通だったら引き受けないぞ。トモダチのボクに感謝しろよ」

「いやいや、お前壺見た時すげー悪そうな顔してただろって。しかも安く買い叩きやがって……」

「あれだけ胡散(うさん)臭い壺なんて普通買わないぞ。すぐに金が欲しいっていうからだろ」

「けど、国宝だよ? 欲しがる人はいっぱい……」

「国宝? なんの話してんだ?」


「え、だから、あの壺は国宝級のロンダルシアなんたらって」

「ジン、国宝なんて売買していい訳ないだろ。ボクが買ったのはただの素晴らしい壺だ。滅多な事は言わないでくれ。……声がデカいんだよ」


 迅八の前に座っている男の胸には『萌え魂』と書いてある。その男が手元の水を一気に飲み干すと、丁度注文していたデザートが運ばれてきた。


「お待たせしました。紐育風エンパイアステートパフェです」

「oh! テンキュー!!」

「紐育(ニューヨーク)風って……」

「この店はギルド御用達だ。ボクがアイデアを出して作ってもらった」



 今日も王都の噴水広場には賑わいがある。

 水が作り出す虹のアーチ。行きかう熱砂の国の住人達。その中の何人かが迅八達の座っているテーブルを見て歓声をあげた。


 どどんっ。高さ三十センチはある生クリームが、渦を巻いて屹立(きつりつ)している。

 所々に差し込まれている色々な形に切られたフルーツ。上からたっぷりと掛けられた黒い蜜。


「トムこんなの食えるの…?」


 見ているだけで胸焼けを起こしそうなそれが置かれると、迅八達が座るテーブルの隣からも小さな声があがった。


「うわぁ……!」

「……ん? ニコ、食いたいのか?」

「え? ……ううん。いらない」


 隣のテーブルには、黄色いワンピースを着た可愛らしい少女がちょこんと座っていた。

 いつもボサボサの髪は綺麗に整えられ、おでこを出すように横に流しブローチで留めている。


「ここにしかないらしいぞ。食っとけば?」

「だって、さっきこれ買ってもらったし……」


 そう言った少女は、幸せそうにそのブローチを触った。…可愛らしい子狐の形の、きらきらとしたブローチ。


「今日はお祭りなんだからいいんだよ。……トム、悪いんだけどそれもう一個頼んでよ」

「ん? 食べたいのか? ……実はこれは予約制なんだ。これでよければ食べるといいよ」


 トムは塔のように突き立つパフェを、崩れないように隣のテーブルに置いた。


「お、いいの? 悪いね」

「ボクはいつでも食えるからな。さあ食べたまえレイディ。米国紳士として当然だよ」

「米国紳士…聞いた事ありそうで聞いた事ねえ言葉だな…」


 自分の目の前に置かれた、ふわふわとして色とりどりのデザートに、ニコルは目を輝かせた。

 伏し目がちにトムに向かい問いかける。


「え、ほんとに、いいの……?」

「ああ。小さな女の子に優しくするのは米国紳士の義務だからね」

「にいちゃん……どうしよ」

「ちゃんとトムにありがとうって言ってから食えよ」


「ありがとっ、ですっ!!」


 がばっ! そのスプーンはニコルの横から伸びてくると、一番美味しそうな生クリームの頂点をすくい取っていった。


「おーいしーいっ、ですっ!!」

「ちょ、シズッ!」

「まあまあいいじゃないか。…ほら、キミも早く食べないとシズちゃんさんに全部食べられちゃうぞ」


「あ……。ありがと。トムにいちゃん」



 ズキュウウウウウウンッ!

 トムはその時確かに聞いた。

 自分の胸が何かに撃ち抜かれたのを。



「……おいモンキー。お前な、本当にズルいぞ。なんなんだよお前の周りは……。こんな小さな子までハーレムに加えるつもりなのか? ボクの国だったらソッコーで捕まるぞ。これだからHENTAI国家ジャポンのOTAKUは……」

「ハーレムじゃねえし、お前ズルいって言っちゃってんじゃねえか……。羨ましがってるお前の方が心配だよ……」


 隣のテーブルに座るシズとニコルが、大きなパフェに嬉しそうにスプーンを差し込む。

 姉妹のように仲良く笑っている二人。


「ズルい……。ズルいぞ可愛い子ばっかりっ!!」

「別にキリエだって可愛いだろ。あいつ性格サイテーだけどな」

「ん? キリエは性格悪いか? そうでもないんだぞ」

「俺には悪いのっ!! …そういやキリエは? 今日は一緒じゃないの?」

「トモダチに会いに行ってるよ。 …そういや聞いたぞ。お前、キリエのトモダチと揉めたらしいな」

「なんで知ってんの?」

「知らないはずないだろ……。転生者だったら誰だって知ってるよ。で? ティーはそれでもお前を欲しがってるぞ。どうするんだ?」


 トムは丸眼鏡の奥で人懐っこそうに笑っている。しかし迅八も少しずつ理解出来てきた。

 人は、表に出てくる態度だけが全てではない。


「…もう。俺は普通の高校生なのに」

「普通? ……なに言ってんだ。もう普通の生活なんてとっくに終わっただろ。まだそんな事言ってるのか?」


「俺は、クロウと一緒に行くし、ロックボトムだ。転生者ギルドとは関係ない」

「へえ……」


 迅八の前に置かれている琥珀色の液体を手に取ると、トムは無言でそれを飲んだ。


「別にいいけど、それ俺のだぞ」

「まあまあ、トモダチ(・・・・)だろボク達」

「…………」



 パフェを突つく二人に背中を向けるように、トムは椅子を動かした。迅八に顔を寄せ小さな声で囁く。



「ジン、国王はボク達にも接触してきた。おそらく、この先ボクとキリエがキミ達をサポートする事になる。これからも仲良くしようぜ」

「…っていうか、お前どこまで知ってるんだ?」

「ボクは商人ギルドの先読みキッドだぞ。気になる事は調べるし、仕事の依頼がくれば本人からも色々聞くさ。…王属間者テラダジンパチ」

「アルトから聞いたのか…。サポートってなんだよ?」

「ボク達が言われたのは、色んな物を調達してやったり、色んな人物と渡りをつけてやったりとかだな。……ボク達は破格の報酬を提示されている。国王は相当お前達に入れ込んでるぞ」

「なんでそんな……」

「ジン、見方を変えてみろよ。……クロウは千年の大悪魔だぞ。千年生きてるんだ。 …お前、それって『大賢者』とか言われててもおかしくないだろ。この謎に満ちた世界を解き明かす鍵の一つだ」

「クロウは、けどそんなの憶えてないって……」

「思い出すかもしれないじゃないか。それにな、ここからはトモダチとしての忠告なんだが」

「……なに? なんか怖いのやめてよ」

「国王がお前ら二人を重要視する一番の理由だ。おそらくお前らは聞かされていない」



 王都の喧騒に混じり、一番近くから聞こえてくる笑い声。隣のテーブルのシズとニコルがはしゃぐ声。

 トムは迅八に顔を寄せると、そっと耳元で囁くように喋った。



「……お前らが仲間にならない位だったら消えて欲しいと思った本当の理由だ」

「お前なんでそんな事まで……」


「いいか? …南の大森林には今近隣の亜人が続々と集まっている。おそらく近いうちに万を越える人数になるだろう」

「そうなの? じゃあ国家はうまくいってるのか。良かった……」

「そうだ。うまくいってる。……ヒトよりも強い奴らが団結し始めている。お前とクロウのトモダチが、どんどん増えてるんだ」

「良かった……。あの人達には本当にお世話になったから」

「それでな……」


「あーーーーっっ!! ジンてめーこんにゃろーー!!」






 ドンッ!

 突然大声が響いたかと思うと衝撃が迅八を襲った。思わず椅子から転げ落ちそうになり横を見ると、座っている自分の椅子に、割り込むように座ろうとしている女がいた。


「キリエっ!? …なんだよ、やめろよ鬱陶しいなあ」

「鬱陶しいのはてめーっすこんにゃろー!! ほらほら、こんにゃろこんにゃろっ!」


 ぐい、ぐいぐい。キリエは弾力のある太ももと胸でぐいぐい迅八を押しやろうとする。女らしい柔らかい汗の匂いが、迅八の鼻に届いた。


「あ。……トム、こいつまたエロい顔してるっす。あっしの事女として見てるっす!」

「み、見てねえから!!」



 実は見ていた。



「…お前さあ、なんなんだよ一体! なんかどんどんキャラ変わってない!?」

「クロウ様が教えてくれたっす。あっしみたいなひな壇芸人はキャラを強く打ち出さないと使ってもらえないっす。都合良くポイされんのは嫌っす!!」

「お前、トップアイドル目指す話からひな壇芸人まで落ちてんのかよっ!?」

「えへへ、けどドキドキしてるっすねジンさん。……あたしも女っすから、そういうの悪い気しないっすよ」

「し、してねえから!!」



 当然、実はしていた。



「に、にいちゃん、興奮してるの…?」

「し、してないよニコ!!」

「ヘンタイ、です。………………………………………………………………………アゼルに言う、です。お仕置きしてもらう、です」


「おうこらシズ。お前が俺を脅迫するつもりなら、兄ちゃんは妹にでもやる時はやるよ」

「そんな事言ってないでさっさと椅子からどく、です。ニコルの目に毒、です」

「お、シズちゃんさん掛けたのかい? どくと毒。…いやあ、やっぱシズちゃんさんはウィットに富んでるなあ」

「鬱陶しいわっっ!! ……はぁ、もう行こう。ニコ、トムにお礼言ってな」


「トムにいちゃん…ありがとね」

「……触るな。触るなボク。触ったらおしまいだ。少女は愛でる存在だ、触ったらダメだっ、触ったらダメだッ…………!!」

「ニ、ニコ、シズ、早くこっち来いっ!!」


 ニコルとシズを両脇に抱え、逃げるように迅八が走り出すと、その背中にトムが声を掛けた。


「おいおい、残金どうするんだー?」

「…考えとくから持ってて!!」


 そのまま楽園方面へと迅八は消えた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・




「ん、ジンさん達どこ行ったっすか?」

「今日は楽園で祭りがあるんだ。きっともう始まってるよ」

「あ、なんか最近トムこそこそしてたのそれっすか?」

「こそこそはしてないよ。…千年の大悪魔からの依頼だ。『一億をパーっと使う方法』ってさ」

「一億!? なに考えてんすかあの人……」

「億は越える壺らしいんだけど、二千万くらいで買い叩いてやった。ま、あいつらにはそんなもんで充分だろ」

「トムなに考えてんすか!? あんなちょこざいな高校生には二千円で充分っしょ!!」

「まあそう言うなよ。…あれでも数年後には世界屈指の有名人だぞ」

「むむ、…なんすかそれ。気に入らねっす」



 二人だけになったテーブルで、迅八の飲み残しを横にどけると、キリエはトムに耳を寄せた。



「最近お前がティーから情報集めてる間にボクは亜人国の事を調べてた。

 …大森林では順調に亜人の融和(ゆうわ)が進んでいて、もうすぐ人数は万を越える。魔都ジューダスの国民に匹敵するような、ヒトよりも強い奴らが続々と集まってるんだ」

「ふむふむ」


「ボクの天才的な『先読み』だと、亜人国は遠くない未来にこの世界の八番目の勢力になっている。……その勢力の頭がジンとクロウだ」


「は?」


「あいつらと敵対する奴に襲いかかるかもしれない勢力が出来上がりつつあるんだ。……だから、アルトリウスはあいつらを仲間にしたかったし、無理なら消えて欲しかった。…いずれ敵になる前にな」


「え。あいつが八番目の王になるって事っすか?」


「そうは言ってないが、同じ事かもしれないな。……キリエ、デカい金の匂いがするぞ。ボク達も色々と考えて動く必要がある。

亜人国を放っておかない奴らもいるだろうし、ディアラインの件もあるし……ジンの周りはこれから騒がしくなるな」






 ゆっくりと、王都の太陽は沈んでゆく。熱砂の国の黄色い町並みが、少しずつオレンジに染められてゆく。

 楽園の方角から様々な楽器の音が響きだし、王都の人の流れが楽園に繋がる橋へと向かっていった。



「はぁー…。あのムッツリジンさんがっすかぁ。なんかデッドエンドイーストとまでカチ合ったらしいっすからね」

「それなのに生きてるんだ。……イーストなんかとよくやるよ」

「そろそろ黒のマリアとかから目ぇつけられるかもしれないっすね」

「もう見られてるんじゃないのか? …黒のマリアには距離なんて関係ないらしいからな」

「マコトも興味津々だってティーが言ってたっす。…なんかヤバい事にならないといっすねぇ」

「なに言ってんだお前? ……イーストがなんだ。マコトがなんだ。ボクは先読みキッドだぞ。うまく立ち回ってみせるさ」

「黒のマリアは?」

「…そこだけは嫌だなあ」



 テーブルを片付けに来た給仕に料金を渡すと、トムは椅子から立ち上がった。後ろを追いかけるようにキリエも立ち上がり、二人で人の流れに乗る。



「さ、何はともあれ今日は祭りだ。何を食ってもギルド持ちだからボク達も遊びに行こうか。…劇団も呼んであるぞ!」

「あ、『名無し(ネームレス)』の冒険っすか? 観たいっす!」

「今回は亜人の里の収穫祭だってさ」

「見所どこっすか?」

「さあ……。本人に聞けば良かったな」



 夕焼けの町に少しずつ人工の明かりが灯り始める。渦巻く人の波と歓声の中で、楽園の祭りは始まる。





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