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アゲイン×2 《クロスツー》  作者: 紺堂 悦文
第六章 地底墳墓のジャック
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分岐点

 



 黒刀の剣先は揺らぐ。

 迷いに揺れて、怯えを乗せて、闇の中に浮かぶ。


 第三階層大広間、松明の明かりに映された影絵の世界。その中心で胸を押さえてうずくまっている男を見る度に、迅八の額から汗が流れる。


 目に入り込む汗が。

 乾いてゆく舌が。


 迅八は気付いていない。

 冒険者達の何割かが、出口に向かい動いている。

 元々ヴァンパイアロードを討伐しに来たのだ。それも依頼ではなくバウンティリストに載っていたもの。中には遊び半分で来た者もいる。

 むしろ、ほとんどの人間は遊び半分だった。命を賭けて戦う理由などどこにもない。


 本来ならリーダーであるティーは、すぐに決断を下さなくてはいけない。冒険者達の逡巡の動き。……それに迅八は気付いていない。



(……やりたくねえ! なんだコイツ……!?)



 誰であろうがこの道を通す訳にはいかない。それは絶対だ。

 自分が血を流すとしても、敵の血を流させたとしても、それは揺るぎない。

 だが、出来るなら、帰って欲しい(・・・・・・)。

 胸を押さえてうずくまる男に、迅八はそんな気持ちを抱いた。


「……迅八」


 その声に。


「来ないのか? ……じゃあ、」

「ヅアアアアアアアアアアッ!!」


 怯えを悟られぬように迅八は飛び出した。

 背中から噴出する翼が大広間の壁に映る。

 影絵の中で踊る少年は、まっすぐ男に撃ちかかる。


「ヅアッ!」


 ぎゃりんっ!!

 イーストの白剣がそれを受け止め、もう片方の剣が振るわれる。

 迅八の翼。

 身を守る盾のように展開された翼は迅八の前に回り込み、漆黒の剣を受け止める。

翼は、更に形を変えて腕となる。鮮血の腕が敵の剣を引く。……目の前に見えるのは敵の首。



(……元の世界の、人間ッ!)



 敵の白剣から滑らせた迅九郎を、迅八は鞘に戻す。

 下を向く。

 半身を引き、右手で柄を握る。

 呼吸を整え、左手で鞘を押さえる。

 そこから放たれるのは神速の剣。

 その為の発射台が。


「……コオオオオオオオオオォ……!!」


 元の世界の人間だろうが、この世界の人間だろうが、生命の価値は等しい。

 それでも、元の世界の人間を殺すという事は、恐らく迅八にとっての分岐点となる。


(ジャック……。ごめん、こいつはまずい!!)


 もう決めた筈だ。

 この世界で生きてゆくのだ。

 仲間の害になる奴は殺す。

 少年の決断は一閃となり、赤い残光を走らせた。



「……果断、迅ッ!!」


 斬(ざん)っ!

 下を向いたままの迅八の手が伸びる。

 触れ合える程の至近距離から放たれた斬撃は、イーストの首に吸い込まれた。


(…………やっちまった)


 この世界に来てから迅八の精神は変わってきている。迅八は確かに元から激情を持っていたが、ベドワウにナイフを振るった時も、ニコルを傷付けた盗賊を襲った時も、迅八の心はほとんど揺れはしなかった。

 それでも、元の世界の人間(・・・・・・・)。

 それを殺すことを。


「おい」

「……なっ」


 突然、上から叩きつけられる衝撃。迅八の頭を硬いものが叩く。何度も何度も振り下ろされるそれが増えた。

漆黒の剣の握り(・・)、更に無垢な白剣の柄頭が、下を向く迅八の後頭部を、しつこくしつこく打ち付ける。


「がっ! いっ……!」


 逃れようとした迅八の体は、そのまま蹴り付けられた。鳩尾(みぞおち)にえぐりこむ爪先、それが腹の傷を開いた。


「アッ! づ……!」


 ガラン。

 イーストが無造作に剣を投げ捨て、伸ばした左手で迅八の髪を掴み引き寄せた。

 漆黒の剣が、何かを確かめるように迅八の肌を削ぐ。


「痛ッ……」

「しー……。よく見せてくれ」


 その目。

そして、迅八は己が切り落としたはずの敵の首を見る。

 イーストの首には薄い切り傷がついていた。完璧に首を落とせる距離だと思った。しかし、そこには一筋の浅い傷があった。


「……迅八。おまえ、凄いな。なんでだ? なんで治るんだ?」

「離せッ!」

「俺もなんだよ。俺も、死ねないんだ」

「てめえ、何を、」

「致命傷になりそうな傷は、なぜか勝手に外れる。魔術もだ」


 迅八は思い出す。先ほどの魔術。

イーストを包み込む炎が自然と消えたのを。


「……なんでだと思う? わからないんだよ」

「俺に分かるはずねえだろっ。……離れろ!!」


 ガッチリと掴まれる髪。抱きしめるように、背中に腕を回された。


「元の世界に居た時からだ。

 ……何回も何回も、やろうと思ったんだ。けど、その度に失敗するんだ。……人に邪魔をされる。……何故かロープが切れる」


「ジンッ! 逃げてっ!」


 迅八の後ろから聞こえてきたティーの叫び。それと同時に体が解放された。

 迅八の耳元、唸りをあげて後ろから伸びてきた棒(・)。当たれば死に至るような強烈な一撃が、迅八の髪をかすり、イーストの眉間へと向かう。

 しかし、その風圧に押されるように、イーストの体は後ろによろめいた。……その致命傷が、なぜか当たらない。


「ジン、こっちに来なさい。そいつと話しちゃいけない!!」


 その言葉の途中で、迅八の体は勝手に後ろに跳んだ。


(こいつの話を聞いちゃダメだっ!)


 さっきまで相対していた少女の横に並び、刀を構える。迅八は、自然と肩の一部をティーの体に寄せていた。

 そしてティーも、同じように迅八に体を寄せた。 迅八の体に、ティーの震えが伝わった。


「……ジン。あなたを死なせる訳にはいかなくなったわ。あなたはやっぱりマコトに会わなくちゃいけない。……ここから離脱するわよッ」

「そんな事は出来ねえ。テメエらは帰れ!!」


 離脱の言葉を聞いたティーの仲間達は、すぐに広間から飛び出した。遊び半分のクエストは、蓋を開けてみれば地獄の入り口だった。

 絶対安全な人数で強敵モンスターと戦えると思っていたのに、待っていたのは攻略組最凶——デッドエンドイースト。


 倒した所で手に入るのは懸賞金だけ。……迷わず広間から飛び出る冒険者の一人が、ティーを振り返る。


「ティー、なにしてんだ!! 早くリョウマと合流するぞっ。……こんな戦い、なんの意味もねえっ!」


「……あなた達は先に行って!!」



 イーストの目はどこも見ず。

 しかし伸びる漆黒の剣。

 どこも見ていないのに、それでも首に振るわれる。


「あ……!」

「オオオオオオオッッ!!」


  振るわれる迅九郎がイーストの漆黒の剣を叩くと、同じ軌道で叩き込まれる白剣。迷わずにティーの首を狙っている。


「テメエは、ティーの事は殺したくねえんじゃねえのかっ!!」

「邪魔をするなら……別だ」


 迅八の周りで敵と味方は離れ合う。

 訳もわからず構図は変わった。

 一対五十の戦いが、いつの間にか迅八は多数の側に入っている。散り散りになり逃げてゆく周りの冒険者は、今は迅八を狙う者はいない。

 しかしそれなのに。


(ヤバい……!! こいつは、本当にやばい!!)


 さっきよりも絶望を感じる。






 ティーの扱う大棒が、イーストに向け繰り出される。

 頭、肩、胴、足、——体の各所を狙う直線的な突きは、イーストの攻撃を寄せ付けない。しかし、無造作にイーストは進んだ。


「邪魔を、するんだな……」


 ごっ!! ティーの手に伝わる骨を砕く音。

 イーストは突きの雨の中を無造作に進む。そしてやはり、無造作に剣を振り上げた。


「……させるかよッ!!」


 迅八の背中から伸びた鮮血の拳。

 回転しながら己に向かってくるそれを、イーストはそのまま受けた。

 ごずんっ。……迅八の体に伝わる砕ける音。


 イーストの体は壁まで飛んだ。埃が立つ床、揺れる松明の炎が。

 炎に映される影絵の中で、ゆらりとその男は立ち、そして進む。ゆっくりと、ゆっくりと。



「……ティー。あいつ、なんなんだっ!? おまえは知ってるのか!!」

「……『死にたがり(デッドエンド)』。自殺組って言われてた人間達の生き残りよ」


 攻略組最凶。——自分から死を求めるように、この世界の謎と危険を追っていた集団。

 彼らは自分の命を本当にゲームの駒のように扱った。そして、他人の命も。


「……幾つも揉め事を起こして賞金がかけられてるの。それでもデッドエンドを狙う奴なんていないわ。……近寄るだけで、汚染されるのがわかるから」


 ティーも過去に数回見た事があるだけだ。デッドエンドは他人と目的が被(かぶ)って衝突した時に、『絶対』に退かない。

 しかし、それを除けば基本的には無害な人間達だった。普段は大人しい人間。優しい顔をした者が多かった。

 ……ただ、爆発した時。

 彼らは、絶対に退かなかった。

 平気で己の命を投げ出した。



「今では二人しか残ってないわ。デッドエンドイーストとウエスト。その集団の中でも話が通じないって言われてた二人。……転生者の中で、一番近寄っちゃいけない奴よ!!」

「……なんだよウエストって。こんなのがもう一人いるのか!?」


 その言葉で、ティーは我に返った。


「リョウマは……地上は、どうなってるの!?」

「…………ああ。あいつか」


 ゆっくりとゆっくりと。

 イーストは迫る。


「……ティーだけは。そう言っていた。だから、出来ればおまえは殺したくない。だが、邪魔を……するんだろ」

「まさか、あなた……!」

「なかなか強かった。……多分、あいつは俺よりも強かったよ」

「よくもッッ!!」


 ——阿(ア)ッッ!!

 ティーが裂帛の気合いと共に、繰り出した大棒。それがイーストの斬撃により、途中から断ち切られる。そのままティーを襲う双剣。


 ティーを狙う双剣を迎え撃つ為に、迅八の黒刀が全力で振るわれる。

 松明の炎よりも明るい火花。

 漆黒の剣と黒刀は重なり、ギリギリとしのぎ(・・・)を削り合う。

 ティーを見ていたイーストの目が、迅八の上で止まった。


「……迅八」

「ティー、下がってろっ!!」

「……千年の大悪魔はまだ来ないのか。早く呼べ。……もう少し、痛めつけるか」

「テメェ……!! クロウになんの用があるんだっ!!」

「……時を遡る。過ちを取り返す。……あいつに、会いにいくんだ」

「誰だよっ、 あいつ(・・・)って!!」

「……会いに行くよ」


 振るわれる双剣の速度が上がってゆく。

 その剣がかする。びしゃりと飛ぶ血が遺跡の床、——乾いた石畳の上で粘(ねば)る。

 その剣は刺さる。どろりと流れる血が足を伝い、埃の上で溜(た)まる。


(ダメだ……。こいつ、マジでやりたくねえ!!)


 話が通じない。

 圧倒される(・・・・・)。

 しかも、明らかに、迅八よりも力量が上。


 双剣は炎を受けて光る。そこに乗せられる重み。

 重たいようでいて、空っぽのようでいて、何故か響く。体の中心まで届く、叫びのような剣撃。


「うおおおおおおあああっ!! ナッッ、メんじゃねえ!!」


 迅八が振るう横薙ぎの一閃が、簡単に払われる。

 とすっ。軽い音。

 それは迅八の太ももから聞こえた。

 ぐりぐりと、ざくざくと、押し込まれる剣。


「アッ……ガァッ!!」

「……便利だな回復。死なないからいいな……。やりやすい」

「づっ!! 迅九郎!!」


 迅九郎の刀身に回る狐火が、イーストの顔を照らす。

 照らされたイーストの目は、じっと迅八の顔を見ている。

 迅八は、湧き上がる震えを押さえこみ、後ろに跳んだ。


「ティー! 逃げろっっ!!」



 ティーは一歩も動く事が出来なかった。目に入る死体。大広間に転がる仲間達の死体。

 今回の討伐で、誰も死なせないつもりだった。物量をもって圧倒的に押し潰すつもりだった。

 それなのに、ヴァンパイアロードには出会えもせずに、こんな所で仲間を何人も死なせた。


 地底墳墓に共に入った仲間達は、ほとんどが離脱した。

 熟練の冒険者たる彼らは、行動を決めてからは素早かった。それはいい。

 ただ、もしもデッドエンドウエストが地上に居るのだとしたら、そこにも地獄が広がっている可能性がある。


「地上のみんなは、どうなってるの……!?」


「……あ、ティー。……たす、けてっ!」



 初めにイーストの突進を受けた四人の生き残り。

 革鎧の女、——気を失っていたショートヘアの女が目を覚ました。


「あなた、生きて、」

「ティー、たす、けて……!」


 咄嗟(とっさ)。

 条件反射のようにティーの体が動く。

 まだ残っていた自分の仲間を助ける為に、ティーは敵に背中を向けて仲間の元に走り寄る。

 そして、イーストもまた条件反射のように体を動かした。


 ティーに向かい手を伸ばす、革鎧の女。ティーがその手に触れる寸前に、その音は聞こえた。

 ——ドンッ! イーストが跳ぶ音。


「……あ、ティーッ!!」


 ティーに向かい手を伸ばす革鎧の女の叫び。

 その目が絶望で歪んだのを確認した時に、やっとティーは自分の愚行に気付いた。

 敵に背を向け、逃げるでもなく。

 戦場を走り回った自分の愚かさを。


(しまった……!!)













「……『爪(クロー)』ッッ!!」


 ざんっ!!

 ティーは自分の後ろで風が巻かれるのを感じた。

 音、そして髪を揺らす風。


「ティーッ!! 早くその子をっ!!」


 迅八の背中から伸びる腕、尖った爪。

 それがイーストの剣を一本ずつ受け止めている。


「……迅八、おまえ、なんでそいつをかばう? ……俺が来るまでは戦ってたんじゃないのか」

「条件反射(・・・・)だよっ……!! 」


 イーストの両手は塞がっている。

 その事に気付いた迅八が迅九郎を振るおうとする前に、イーストは先に動いた。


「……殴り合いでもするか」

「な……!」


 双剣を迷わず放り捨てたイーストの拳は、鋭角的に迅八の腹に突き刺さる。背中の腕が動き出す前に、連続的に繰り出される。


「がっ! てっめえ!」

「本気で殴るぞ。……死なないんだろ?」


 ——フォン。イーストの拳が淡い光に包まれる。

 そして、それは迅八が防御する前に、真っ直ぐ体の中心を貫いた。


「カッ! ……ヒッ」

「ジンッ!?」


 ティーは長襦袢の胸元から短刀を取り出した。

 取り出したそれを腰だめに構え、ティーは一直線に走る。膝をつく迅八を避けるようにイーストに突進する。

 すると、ぱしんっ。……軽い音のあと、その短刀は、イーストの手の中にあった。


「あ」

「やっぱり邪魔をするんだな」


 呆気なく奪われた短刀。

 ティーの目の前で、それはぐるりと回転した。


「あ……」


 びゅおん。


 ティーの膨らんだ胸、長襦袢から見える白い胸元に。それは真っ直ぐに振り下ろされ、『下』から伸びてきた手に止められた。






「痛っ……」


 それは、ティーが呟いた言葉だった。

 自分の体は痛くない。短刀は届いていない。ただ、目の前の映像。


 その手は下から伸びてきた。

 腹を痛打され、膝をつく少年、そいつが伸ばした手。

ティーを守るように差し出された手、——その真ん中に。


 短刀は手のひらの真ん中に穿たれ、手の甲から血に濡れた赤い刃が飛び出す。

 溢れる血が。流れる赤が。震えている手が。

 それでも、その手は、ティーの事を守っている。


 その手には黒い線が走っている。流れ続ける血に、生命のリズムは同期する。黒線の上に青い光が。

 広がる光は少年の体を包み込む。

 うねる髪を逆立たせた少年は、己の手を突き破った短刀を握りしめる。押し返す。

 その危険を、ティーから遠ざけるように。



「……いい加減にしろテメエ。やられっぱなしだと思ってんじゃねえぞ」


 ミチミチと傷口は広がる。手の甲から吹き出す赤い血に構う事なく、握りつぶすように力を込める。


「ティー、下がれっ。その子を守れ!!」

「ジン、あなた、手が、……なんで!?」

「痛くねえよこんなの……!」


 黒い太陽は、青い光に包まれる。


「怖くねえよこんなのは。あぶねえ……ビビるとこだったぞっ!」

「……ほう」

「ニコルが戦ってる。ロココさんが戦ってる。……俺だって、戦えるはずだ!! ……ティー、お前も戦え!! その子を守れ!!」


 ティーの体が後ずさる。

 目の前のイースト。そして、すぐ横の少年に圧(お)されて。


「俺の相棒に会いてえだと? テメエなんかをクロウに会わせる訳にはいかねえ。……通ってみろよデッドエンドイースト。この道には俺がいるぞッッ!!」


 翼が広がる。

 血を撒き散らし四枚の翼が。

 その内の二枚が腕となり、鮮血の拳が撃ち抜かれる。


 イーストはそれを正面から受けた。

 骨を砕く音。

 宙を飛ぶ男はそれでも無表情に迅八を見ていた。

イーストが立ち上がる前に迅八は言う。


「ティー。早くその子を連れて逃げろ。逃げられねえなら隅(すみ)にいろ。……俺があいつとやる」


 振り返らない迅八の背中、——そこから出る圧力。


「……なんで、私たちを?」

「ティー、その言葉に意味はあるのか? お前はその子を、仲間を死なせてえのか? ……俺は死なせたくねえ。死なせねえんだ!!」


 ティーが口を開く前に、イーストは立ち上がった。

 放り投げた剣を拾い上げ、ゆっくりと歩き出すイーストの歩幅が、少しずつ大きく、小走りになった。

イーストが剣を突き出し、疾走しようとした時に、その声は響いた。



「……なあ〜にカッコつけてんだかこのガキは。……あとな、相棒(・・)? テメエは、まさかこの俺様を、対等だとでも思ってんじゃねえだろな」













 広間の奥、——第四階層に続く闇から、突然、火球は打ち出された。広間が明るい光に映される。

 その中で、イーストの顔に初めて、涙以外の表情が浮かんだ。


「……おまえが」

「くかかかかかかッッ!! 誰だか知らねえが燃え尽きろ!! くかかかかかかッッ!!」


 炎に襲われたイーストがくずおれる。

 悲鳴をあげずに、確かめるように、己の右手を見ている。そして、左手は、首のあたりでモゾモゾと動いていた。


「クロウ!! なんでここに!?」

「おいジンパチ。なんだコイツは。……全く、てめえは役に立たねえクソガキ様だぜ……。冒険者の五十人くれえで何を手こずってやがんだ、この間抜けが。……仕方ねえから俺様がちっとだけ……ん? おい、五十人いねえじゃねえか」


「クロウ(・・・)。 ……お前が、千年の、大悪魔……」


 炎は立ち上がる。

 ぶすぶすと肉を焼く匂いと焦げる音。……ゆっくりと、ゆっくりと、炎の塊は歩く。


「待ちわびた……。会いたかった……。探してたんだ、クロウッッ……!!」


 炎の奥から滲み出る歓喜が。

 闇を震わせる……!!













「おいジンパチ。 ……そういえば、俺様は絶不調だった。帰っていいか?」

「…………駄目。助けて。ヤバいんだって! なんか気持ち悪いんだよコイツ!!」







(さっき、ちょっとカッコイイと思ったのに…)


 ティーは色々な思考の波の中で、革鎧の少女を抱きしめながらそんな事を思った。




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