第一次覚醒
篝火に照らされた戦場、ジークエンドの戦いの場。
「……貴様、ブチ殺してやるぞ。好きか八つ裂き!!」
「されてみたい。……やさしくしてね」
ざんっ!!
太陽剣から伝わる熱。大気すら焦げるような熱が。地底墳墓入り口前、第一の戦場の闇を燃やす。
「……すごおーい。速いねジークエンド」
太陽剣を迎撃する巨大なカミソリ、ウエストはそれを容易く振るう。生きている大地を練成して作り上げた、生きている剣を。
「カミソリ溶けちゃう……。凄いねサウフラウ。凄い魔剣だね。……けど、」
「黙れッッ!!」
「……けど、そんなの持ってたら誰でも強いよねえ。……ねえねえ真似していい? ……好きか『針地獄』」
ウエストが空いた手を掲げると、地面が槍のように突き立った。魔術により作られた生きた槍は、そのままジークエンドの体を襲う。
己の身に迫り来る大地の棘を見て、ジークエンドは乱暴にそれを殴りつけた。
「邪魔だっっ!!」
「うわっ、すごおーい。は、あはははは……」
後退したウエストに向け、飛んでゆく大地の棘。飛散した石の塊は、ウエストに当たる寸前、サラサラと砂になり散った。
「すごいねジークエンド。さすが護衛騎士だね。……多分、私の半分くらい強いよ」
「抜かせ小娘ッッ!!」
流れるようなジークエンドの連撃が始まる。
上段から斜め、フェイントの一撃からそのまま横に向け、ウエストの足を薙ぐ。
躱されるのを気にせずそのまま体を回し、蹴りを見舞う。受け止められた足を踏み込み宙に浮く。……空高く飛翔、振りかぶる剣。
月を背景に赤い髪が燃える。
自分の命を刈り取る剣が迫るのを見て、ウエストは空っぽの口調で言った。
「やっぱり、半分だね……」
「『蝕剣赤燈』ッッ!!」
太陽の剣は眩い光を放つ。刃から立ち昇る炎と熱と光の渦。
第一の戦場を明るく照らし、地底墳墓に舞い降りる朝のような光。その一拍後、爆発的なその光は夜の中で破裂した。
——闇。光が破裂した後、順応も出来ず何も見えない濃厚な闇。その場の人間の視界の端で、ゆらゆらと篝火だけが揺れる。
外に放出していた力の全てを刀身に収め、太陽剣はそのまま全速で振り下ろされた。
全魔力を一瞬に集約させた斬撃。暗闇の中で見えない剣の一撃。ジークエンドの渾身、全霊を。
「あはははは。……ペラッペラだね。ジークエンド」
ウエストは、カミソリで容易く受け止めた。
「なっ……」
「……お返し」
宙から切りつけたジークエンドの体の下には闇色のドレスを着たウエストが。
カミソリを持ったまま、ドレスの下から足を蹴り上げる。
「……ッッ!! キサマッ」
「真似していい? ……飛べッ!!」
闇色の中から白い足が伸びる。
魔力により強化された足は、光を纏わせて、天に向けて突き上げられる。
「ぐっ!! 」
痛み。ジークエンドの体を貫く重み。
体が持ち上がる感覚。宙に飛ばされる体。少女の細い体から放たれたと思えない膂力。
(……クーロン並だとっ!?)
ジークエンドの視界の全てに満天の星が映る。
星が近付いたような錯覚の中で地上を見下ろすと、篝火に照らされて白い足を突き上げたまま己を見ている女。そして、その女の空っぽの目。
「強い。信じられん……!!」
空っぽの目で自分を見上げている少女が想像以上の使い手だった事は、ジークエンドの頭の中に、興奮よりも冷静を取り戻させた。
殴りつけた大地の棘は、ウエストの体に当たる前に砂となった。——瞬時に自分の魔術を制動する力。ウエストの、歳に似つかわしくない戦闘経験。
そして、ジークエンドは冷静の中で気付く。
ウエストの意外な強さに対比され浮かび上がる、自分の強さ。あるいは弱さ。
ジークエンドは『イクリプス』を怒りのまま全力で放った。それを、ウエストは呆気なく払って見せた。
(……今の俺の全力は、こんなものかっ)
剣は飾りだ。
そう思ってから短くもない時が経った。
それでも変わっていないと思っていた。いざ剣を振るえば、自分に勝てる奴はいない。そう思っていた。
「あははははッ!! ……ねえジークエンド。あなた、ペラッペラだから、そのまま飛ばされていっちゃうかもね。あははははっ」
「……ッッ」
地上から聞こえてくる声に苛立ちながら、ジークエンドの思考は続く。
地上から十メートル以上、天に向けてジークエンドは飛ばされた。コートの下に着込んだ鎧も併せて、その体重は百キロ近い。
「強すぎる……!! これが転生者ッ!!」
重力に従い、体は落ちてゆく。少しずつ迫ってくる大地を見ながらジークエンドは考える。
戦い続ける利益、そこから弾き出される損害。
離れた場所ではコルテを抱きしめ、泣いているシズの姿が見えた。
——ズドッ。再び感じる地面の感触。地に降り立ったジークエンドはすぐに退く。シズとコルテの元へ。
(コイツらを死なせる訳にはいかんっ!!)
戦場でそれぞれの命が散るのはそれぞれの責任だ。それでも死なせる訳にはいかない。
自分が愛した女が残した、義弟を。自分が愛した女が守った少女、アゼルに初めて出来た友達を。
「……死なせる訳にはいかんっ!!」
「……ねえジークエンド、いま、つまんない事考えてたでしょ?」
走り出したジークエンドの前に、シズとコルテが迫る。あと一歩、手を伸ばせば届く。
二人を掴み、離脱しようとしたその時、足の下の地面が抜けた。
「なっっ!! ……穴っ!?」
がくんっ!! 揺れる体と落ちる視界、コルテを抱きしめているシズと目が合うと、ジークエンドの体はその位置で止まった。
「ぐっっ!! これはっ……貴様!!」
腹まで地面に埋まっている。
魔術により作り出された穴。そこにジークエンドの体は沈んだ。目の前で驚愕に歪むシズの顔を見ながら、ジークエンドがそこから這い出ようとした時、その声は響いた。
「ねえ……。あなた、今つまんないこと考えてたでしょ? 私に勝てないから、逃げる言い訳を探したでしょ。……あはははは」
ざり。埋まっているジークエンドの体の後ろから、その足音は響く。
「別に逃げるのはいいの。 ……けどね、理由を探しちゃ、ダメだよ」
ざり。
「……けどねジークエンド。人間って、そうなんだぁ……。知ってるよわたし。だからね、気にしないでいいんだよ。弱い自分を、気にしないでいいの……」
——ざがんっ! ジークエンドの後ろから地面をえぐる音が鳴る。
目の前にはシズの顔がある。
その目。恐怖に歪んだ目。
ジークエンドは振り向けないが、わかる。
(武器を、作られた……)
ざりっ。
「……けどね。別に殺さないでもいいんだけど……。言い訳する男は嫌いだから、死んでね」
「……シズッ。逃げろっっ!!」
迫り来る死の足音。
……ざり、ざり。……ずずっ、ずずっ。
後ろから、何か大きな物を引きずり歩いてくる足音が。
じわじわと近付いてくる音の中で、ジークエンドは己の下半身を飲み込んでいる地面を殴りつけた。
「オオオオオオオオオオオッッ!!」
地面を穿ち、体を引きずり出す。
「ひっ……!」
すぐそばで身を丸めるシズが漏らす悲鳴。それに構っている暇もない。ジークエンドはすぐに振り返り、迫る敵に構えた。その数メートル先、目の前で。
「な」
「……ねーむれ。ねーむれ」
ウエストは腰だめに自分の体を回していた。
闇色のドレスの割れた背中、白い肌がジークエンドに向けられている。
華奢な背中、細い腕。
ぐるりと後ろに体を回したウエストが構えている物。
「貴様、なんだそれは……!」
「……見たことあるでしょ。包丁」
その超巨大な刃物。
魔術によって大地から錬成された、数メートルを越える武器。
肉厚の刃は先に行くほどに薄くなる。その先端は暗闇の中でギラリと光を反射した。
……反射した次の瞬間に、その刃は全力で振るわれる。
「あははははっ」
「……テェエエメエエエエッッ!!」
ざんっ!!
風を切る音にジークエンドは身を竦ませる。足元に転がる自分の武器、サンフラウ。
(間に合わんっ!!)
全ての力を。
この後の事を考えずに右の拳に力を込める。
避けられない。
避ける訳にはいかない。
……自分のすぐ後ろには、守るべき者がいる!!
「おおおおおおっっ!!『殴る』っ!!」
唸りをあげて迫る巨大な肉切り包丁に向け、単純に殴りつける。
強化された肉体は刃に向けられても打ち負けない。それが、相手の魔力を上回ってさえいれば。
「無理無理無理無理……。あははははっ」
交錯する瞬間、爆発するような音が響き、辺りは粉塵に包まれた。
砕け散った肉切り包丁の破片、それがジークエンドの体を打つ。
(……腕がっ)
右腕、途轍もない痛み。
暗闇を照らす篝火、それを隠す噴煙。
痛みに構わずジークエンドは後ろのシズを振り返る。……かすかに見える、アゼルの友達。その怯えた目。
「早く逃げろシズッッ!!」
「……他の女の事なんて見ないで。あははははっ」
噴煙の中、見えない場所からジークエンドに向けて拳は撃ち込まれる。
白い手。華奢な拳が。
その細腕は、鋼鉄のように撃ち込まれる。
「ぐっ、がっ!!」
「強い。さっきよりちょっとだけ強くなってるよジークエンド。……けど、やっぱ半分くらいだね」
「オオオオオオオオオオオッッ!!」
拳が出てきた場所に、全力で蹴りを見舞う。
噴煙を撒き散らす回し蹴りの先で、何かが後ろに飛び、着地する音が聞こえた。
「……やっぱり、腐っても騎士なんだね。守る人がいると強くなる。……けど勘違いしちゃダメだよ。所詮、腐ってるんだからね」
ジークエンドは己の足に力を込めると、距離をとったウエストを見ながら、己の状態を確かめた。
(……右手が、握れない)
視線を下げると、そこには二つに割れた手のひらがあった。中指と薬指の間から、汚く引き裂かれた手。
(利き腕をやられた……!!)
戦闘は継続出来ない。
すると再び、ざがんっ!
武器を錬成する音が。
ウエストの手元で、再び巨大なカミソリは形作られる。
「ジークエンド。おしまいだね」
「はっ! ……はっ!!」
脳裏によぎる『死』。
それをねじ伏せる。
そして、その反動で、浮かび上がる。
心の底の深い深い場所にある澱。『負けた記憶』が。
「フォルテ……」
「……だれそれ? ほかの女の名前なんて呼ばないで」
「お前の弟を、お前が守ったアゼルに出来た『友達』を、死なせる訳にはいかん……!」
「……だから、なに言ってるのジークエンド。あはははは。……けどね、そういうの好きだよ。ちょっと、私達って似てるかもね」
カミソリは唐突に振るわれる。
ざばんっ!! ジークエンドの残った左の腕に、それは深く入り込む。
「ぐっ!! ……シズ、何をしているっ。早く逃げろっ!!」
いつまで経ってもジークエンドの後ろから気配はいなくならない。しかし、それも無理ない事だとジークエンドは考えた。
シズは、可愛らしい少女だった。
いつもアゼルやコルテの後ろを付いて回っているシズは、虫も殺せない優しい少女だ。
しかし、彼女が逃げなければ、自分もこの場から離脱できない。全員死ぬ危険が。
「シズ、立て!! コルテを連れて逃げろ!!」
ジークエンドは己の前に立つ女、ウエストから視線を外せない。
しかし、そのウエストの目。
今まで自分を見ていた空っぽの目が、横に動いた。
……目の前の女への警戒を怠る事なく、ジークエンドもちらりと横を見た。そこには、人が立っていた。
篝火の遠い明かりを受けて、その少女の瞳がきらめいている。桃色のコート。美しい少女。
涙の跡でぐしゃぐしゃにさせた顔。コルテの血を受けて、赤く染まり汚れた顔。
それでも、その少女は美しい。
《・・・・・・・・・》
《・・・・・・・・・・・・?》
シズがウエストに向けて口を開くと、ジークエンドが聞いた事のない言葉が聞こえた。——意味不明の言葉の羅列、理解出来ない言語。
篝火の炎で揺れる地底墳墓の夜。
星の下で言葉を交わす少女達。
「なにを、喋っている……?」
戦闘中に始まったその光景に、ジークエンドは目を奪われた。
美しい韻律で紡がれる言葉。内容は理解できないが、なぜか耳を奪われるような天上の美しい言葉。
(そういえば、こいつらは転生者同士……)
自分には理解できない話。
しかし、その美しい言葉に耳を奪われる。
そして、少女達の話し合いの途中で、彼の目の前で変化は起こった。
————————————————
「あんたなにしてんの。……このブス」
「……まさか、わたしに言ったの?」
ウエストの目の前に立つジークエンドの横に、少女の姿が並んだ。
ジークエンドの腹の位置に頭がある、可愛らしい少女。その少女は日本語で喋り出す。
「さっきから、人が黙ってれば調子に乗って……!! なんでこんな事するの!?」
「あははははっ。転生者なんだね。わたしと同じ位の歳なんだぁ……。ところで」
ウエストは尋ねる。
「……誰に向かってブスって言ったの?」
「ここにブスはあんたしかいないでしょ」
「……ねえ。鏡見たことある? わたしとあなた、どう見ても」
「あんたがブスよ」
「……ねえ、やめましょコレ。レベルが低いよ」
「あんたのレベルには合ってるわ。合わせたの」
「……あなた、言葉遣いひどいね。どんな教育受けてきたの?」
「人の家庭の問題に口出しする方がよっぽどレベル低いよ。私はあんたに文句言ったのに、あんたは私以外の部分に文句つけるんだもんね」
「……やめて。本当にイライラしちゃうかも。黙って……」
「私とっくにイライラしてるから。ドブスのせいで」
「……あなた、こっちの世界に来て日が浅いでしょ。わかる、わかるよ……。そういう口を利くと死んじゃう相手がいるって知らないんだね」
「死んじゃう? 脅してるの? ……ひょっとして、暴力自慢? 不良なの? うわっ……」
「ねえ、本当にやめて……イライラする」
「だからこっちはとっくにイライラしてるの。あんた、人の師匠に何してくれてんの」
「……それはわたしじゃないでしょ。イーストが、」
「イーストって、なんか小汚い奴の事? 遠目に見ても小汚い男だった。うわっ」
「な……」
「あんた、さっきから師匠の事を私の恋人だと思ってるみたいだけど、違うから。……けどその、あんたの恋人? イーストよりも、コルテの方がかっこいいよ」
「……恋人じゃないっ。イーストの方がかっこいいよっ!」
「あんた正気? んじゃジークエンドの方がかっこいいもん」
「こんなのよりイーストの方が優しいもんっ!!」
「かっこいいから離れてるし……。やっぱ不良? ひょっとして、成績悪い?」
「別に成績は関係ないでしょ。このドブスッ!!」
「あれあれえ? レベル低くなっちゃったねー。喋り方ぁ」
「……殺すっ!!」
「こっちのセリフだってのっ……!!」
口汚い言葉の応酬の末、少女達の間の空気が歪む。
言葉が理解できないジークエンドは、なぜか目を奪われるようにそれを見ていた。そして、彼の目の前で変化は起こった。
シズの涙の跡。そこから真っ直ぐ下に、黒線が。
「あははははっ!! ねえねえ、魔法少女に憧れた事あるでしょ? ……死ぬ前に見れて良かったなあああ!! ついでに食らってみろオオオオオオッッ!!」
「西方より来れエエエッッ!!」
ウエストの周りで高まり、唸りをあげる魔力。
それと対比するように、シズの体の周りに静かな青い光が。
ウエストが遥か後方に跳ぶ。
空中で見下ろす空っぽの目。
そこに、静かに感情が。
「死ねよっ!!『血の池地獄』!!」
「其が名は蝉騒、叫喚の奏者よ……!!」
ジークエンドの目の前で、地面が深く抉られた。巨人の一振りで抉られたような大地の窪み。
そこが一瞬で魔術により出された液体で満たされる。——真紅の池、鮮血で満たされた地獄。
その地獄に敵を引きずり込もうと、岩石で出来た腕が伸びる。
「なっ!!」
目の前で、突然に繰り出された広範囲大魔術。それを目の前にして、ジークエンドの頭の中を空白が襲った。
「一人で、これを……!!」
生きている大地に影響させる、高等土魔術。それをこれだけの範囲に、そして同時に純粋な魔術による液体も出している。
(ここまでの術師を見たことがない……!!)
離脱が遅れた体、そこを岩石が襲う。
我を取り戻したジークエンドのすぐ目の前。
死を覚悟した瞬間に、自分の横から声は響いた。
「冥府よりの風に乗り、怨嗟の渦の声響くっ!! ……千切れ飛べっ!!」
ぶぉんっ!! 旋風が。
不可視の力が岩石の腕に襲いかかる。
ざんっ、ざざんっ!!
細切れになり落ちる岩石の腕。
しかし不可視の力は衰える事なく、そのままウエストの元まで飛ぶ。
「……!? あなた、魔術師なの!?」
「食卓の、ですっ!!」
叩きつけられた風は、ウエストの体を木の葉のように吹き飛ばす。遥か上空数十メートル、闇色のドレスは星の輝きに照らされる。
「なに、これ……!!」
ウエストの体は落下を始める。
迫り来る地上——そこに当たれば、ビルの高層階から飛び降りたのと同じ衝撃がウエストを襲う。
「……『変性・軟化』ッ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目の前で、突然起きた事態。
それを見ていたジークエンドは吐く息を荒くした。
「真魔……!!」
自分の横で、両手を突き出したままのシズを見る。涙の跡に真っ直ぐ引かれた黒線、そして、体を覆う青い光。
「ジンの妹。なんだこいつらは……!?」
空高く飛ばされたウエストが、落下して地面に叩きつけられた時、ジークエンドの想像とは違う音がした。ぞぶんっ!! ……深く沈むような音。
「……ジークエンド、です!」
自分の服の袖を引くシズを見る。
いつの間にか、ジークエンドにも理解できるこの世界の言語に戻ったシズは、ウエストの方を指差す。
「……は、……ふむ。落ち着いた」
「あいつムカつく、です!!」
「師匠の口調がうつっているぞ。嘆かわしい」
「やっちまう、ですっ!!」
「考えるのは後か……。本当は逃げたい所だが、そうだな。……あいつムカつくな。やっちまうか」
ジークエンドは左手にサンフラウを握る。戦闘力は落ちるが、扱える事は扱える。それに。
(真魔……。二人なら勝てるか?)
ジークエンドとシズが、二人でコルテを守るように立ち塞がると、離れた場所に土が盛り上がった。
彫像。土で作られた人間の姿。
「……あははははっ、あははははっっ!!」
彫像の中から響く笑い声。それと同時に彫像は砕け、中から闇色のドレスの少女が現れた。
「……あはははは。久しぶりに感情を揺さぶられた。殺すのもったいなくなってきちゃった。……ねえ。あなた、わたしと友達になる?」
「ふざけんなっ、です!」
「……そっかぁ。ざんねん。けど、ムカついてもいるからどっちでもいいかな」
ざがんっ!!
ウエストの背後に何本ものカミソリが突き立つ。
その中の一本を握り、巨大なそれを手の中でくるくると回した。
「ジークエンド。わたしを八つ裂きにするって言ってたね。……じゃあわたしはその倍にするね。あなた達、二人いるから」
「やってみろ、ですっ!」
「あなたに言ってないから……」
攻略組最凶デッドエンドウエスト。
対するは太陽のジークエンド。そして迅八の妹、シズ。
師匠を背中に守った弟子は、ここで第一次覚醒を迎えた。
————————————————
体に浮かび上がる傷、幾つもの傷。
迅八から伝わるそれらを手で押さえながら、千年の大悪魔は向かう。
「いひっ! いひっっ!!
いっっだああああああああい!! あんのクソガキがあああああああ!!」
超絶不調。
その顔は青い。後から後から汗は吹き出る。
「ゔゔううううう……。
クソッ!クソッ!! なんだってええええ、ぅ俺様ぐああああっっ!!」
周りには誰もいない。思う存分悪態をつく。
いや、いる事にはいた。
————ィィィイイイイイイイ
歩き回る死体、苦悶をあげる苦しみの象徴。その一体がずるりずるりと歩いている。
……ぽん。
その腐乱した手がクロウの肩にかけられた。
——だあああああ……いじょおおおおお……ぶううううううううぅぅぅぅ……?
「テメエに心配される程じゃねえわっっ!! ……あひっ!いだいっ、いっだあああああああい!!」
クロウは向かう。
第三階層大広間へと。




