イースト&ウエスト
「……頭が痛い」
その男はブツブツと呟く。
意味不明の言葉の羅列。誰にも分からない独り言を。
(コイツはなんだ!?)
迅八が撃ち込んだ刀。
その男、デッドエンドイーストは己の左肩に入り込んだそれを、無造作に握り引き抜いた。その手からも流れる血。
「……痛くないんだ。痛みを感じなくなった」
イーストはぼんやりと刀を見ている。己の鎖骨を叩き割り、身体を抉ったその刀を。
「……だから、わからない。おまえの痛みもわからない。……痛いか?」
とすっ。
もう片方の手。まっすぐに伸びる白剣が、迅八の身体の真ん中をぐりぐりと穿つ。
「………頭が、……」
イーストは迅九郎を離すと、右手で己の胸を押さえた。左手の白剣は変わらず迅八の腹に伸びている。
ぐりぐりと、ぐりぐりと。深く抉り、刻みつける。
「会いにいく。絶対に、おまえに会いにいく。……待っててね。かならず、必ず会いに行くから…」
「おっ……、おまえ、なにを」
迅八の体に走る震え。
意味不明の男。
『痛みを感じない』
『頭が痛い』
『胸を押さえながら』
意味不明の男。
「……ウッ、オオオオオオオオアアアアッッ!!」
迅八はイーストの腹を蹴りつけ距離を取ったが、その時もイーストは表情を変えなかった。
内心の怯えを悟られぬよう、強い言葉で威嚇する。
「誰だテメエは!!」
その時、イーストの後ろに冒険者の一人が迫っていた。イーストは迅八の言葉に答えずゆらりと動く。
迅八の目の前で、イーストと冒険者の体が重なるように見えた後、短い言葉を残して冒険者は倒れた。
切り裂かれた頸動脈。どくどくと流れてゆく生命。
「……邪魔をする奴は、全員だ」
他の冒険者たちもすぐに動き出した。
突然の乱入者、イーストを標的として隊列が組み直される。
「ジン、下がりなさいっ。そいつと話しちゃいけない。汚染されるわ!!」
近寄ってきたティーに肩を掴まれる。その振動だけで、迅八の体を痛みが貫いた。
(痛ッッ!)
迅八が吐く荒い息と同期して、規則正しく腹から流れる血。ついさっきまで、感触を確かめるように己の腹に敵の剣が刺さっていた。傷跡から広がる痛みを初めて意識する。
「……痛ってえ。なんなんだよ。コイツは!?」
「ジン、 話は後よ。下がりなさい!!」
イーストが動く。
両手に下げた二本の剣をまっすぐ前に突き出すと、マントの男はそのまま走り出した。無造作に走り、隊列を組んだ冒険者達の真ん中にただ突っ込む。
「うおっ、コイツ……ッッ!!」
最前列に居た重装鎧の冒険者。
分厚い鉄板で覆われた腹の真ん中に、イーストの剣は突き刺さった。
突き刺さり、抉りこみ、体を貫く二本の剣をそのままに、後ろにいる冒険者を巻き込みイーストは走り続ける。
「あ……っ!? うお、いだ、いだああああっ!!」
漆黒の剣で二人。
無垢な白剣で二人。
————バガンッ!
広間の壁が揺れるような炸裂音が響いた後、鎧を着込んだ人間四人は壁に縫い付けられた。
イーストは、冒険者たちを壁に縫いつけた自分の双剣から手を離し、冒険者の腰の剣を抜いた。
「あっ、やめ……!!」
ざんっ。
その剣もやはり無造作に振るわれる。重なるように壁に縫いつけられた四人——その首を目掛けて剣が走る。
ばずんっ。
綺麗に二つの放物線。
松明の明かりに照らされて、丸い物体が宙に飛ぶ。
「……や」
壁に縫い付けられた四人の内、二人は首を飛ばされた。残る二人の内の一人は、すでに心臓を貫かれて絶命していた。
「や、やめて……。たすけてっ!!」
若い女の声。
革鎧の女。
日本人の女。
黒髪の、ショートヘアの女。
イーストはそこで動きを止めた。
「お願い、やめてっ!!」
「…………あ」
「迅九郎オッッ!!」
翼を広げた迅八が、宙を滑りイーストの元へ。
迅九郎を一閃し、イーストが振り上げた剣を叩き落とす。
武器を落とされたイーストは、四人の人間を縫いつけていた己の双剣を引き抜いた。
「迅八……」
「テメエ、俺が相手してやるぞ……!!」
「……ダメだ。お前は後だ」
迅八は震えそうになる足を踏み込む。心の中で声がする。——目の前のこの男は、相手にしない方がいい。
(……それでも、逃げる訳にはいかねえっ!)
「うおおおおっ、らああああッッ!!」
迅八は足に力を込め、再びイーストを蹴りつけた。吹き飛んだイーストに向けて、大上段から真っ直ぐに迅九郎を打ち込む。
殺す。そんな事を考えてもいない。
とにかく恐怖に負けない為、なにも考えずに撃ちかかる。
その迅八の全力の一撃を、イーストは双剣で受け止めた。
「……言ったぞ。おまえは後だ」
迅九郎を受け止めるため、交差するようにイーストが掲げた双剣から片方が消える。
イーストが振り上げた白剣は、迅八の体を袈裟懸けに切りつけた。
「がっ!?」
「……ベイビーソング」
白剣は、迅八の皮膚の表面を、なぞるように軽く走った。迅八の体から血が流れると、それと同時に力が抜けてゆく。
「あ、かっ……、なん、なにしやがったッ!?」
「……寝てろ」
膝をつく迅八から目を外し、イーストはティー達に向き直る。
「……まず、お前らだな。おまえが『ティー』か? 出来ればおまえを殺したくない。……どうするんだ? どかないのか?」
イーストはゆっくりと、無造作に歩く。
残る冒険者はそれでも四十人以上。
そこに向かいまっすぐに歩く。
冒険者の一人が震える声を出した。
「……ティー、なんだコイツ。なんなんだコイツは!? どうするんだっ!!」
「ちょ、ちょっと待ってッ!」
冒険者たちは、この時、二種類の人間に分かれていた。
デッドエンドイーストを知っている人間と、噂しか知らない人間。
知らない人間達の中、一つのグループがすぐさま行動を開始した。
——頼りにならないリーダーの指示を待ってはいられない!!
「行くぞ。……援護を頼む!!」
長い槍を構えた男が走る。
威嚇するように大きく構えた槍——その切っ先は、下を向く。
「『ディレイ リゾルブ』!!」
流れるように槍が繰り出されると、残像を残して槍使いの体が消えた。
イーストはその槍を撃ち落そうと漆黒の剣を振るう。しかしそこから一拍遅れ、残像の後ろから衝撃が襲った。
「『ダブルドミナント』!!」
槍使いの後ろにいた細剣使い。握る美しいレイピアが残像を貫く。
槍使いの本体は宙に飛んでいた。
空中から落ちてくる槍使いの一閃。
真っ正面からイーストを貫こうとする細剣使いの一撃。
「好き放題暴れやがって。……死ねッッ!」
空中と地上、両方から襲う突きがイーストの体に迫る。それでもイーストは、ぼんやりとそれを見ていた。
ざすっ……ざすっ!
イーストの肩を貫通し、地面に突き刺さる槍。機動力を削ぐ為に、足に放たれた細剣。
確かな手応えを感じた二人がすぐにその場を離れると、広間が明るい光に包まれた。
巨大な火球。
魔術師の上に浮かんだそれは、放物線を描きイーストに迫る。そして、その火球の中心にある、『丸い玉』。魔術で作られた水の玉は、火球の熱で爆発した。
「吹っ飛べ……『スプリット ポリリズマ』!!」
爆発した火球は炎を撒き散らし、イーストの全身に絡みつく。迅八が切り裂いたマントの隙間から、槍とレイピアが貫いた穴から——マントに覆われていない顔を、その全てに炎は襲いかかる。
揺れる炎の中で、槍に体を貫かれたイーストは何度か身動きしたが、それもすぐに終わった。
炎に包まれて、宙をさまようように浮いていた手。
それがゆっくりと下げられると、ぶすぶすと、ぶすぶすと。……こげ臭い匂いが辺りに立ち込めた。
「……なんだよ。弱いじゃねえか。ビビらせやがって」
弛緩した空気がその場に流れる。
しかし、本当に一瞬でそれは終わった。
「……え?」
炎が、消えた。
「な、なんで……」
槍に縫い付けられたイーストの体から、煙が上がる。ぶすぶすと肌を焼いていた炎が消えると、その体がゆっくりと動き出した。
触れるだけで痛みを伝えるはずの、肩を貫き地面に突き刺さった槍。それをイーストは途中から叩き折った。
ぎざぎざとした断面、その欠片が体内に残る事など恐れず、無造作に槍を引き抜く。
次の瞬間。
槍使いの目の前に、イーストの白い剣があった。
「おッ……!」
「ベイビーソング」
力を入れずにその剣を。
サスッ……撫でるように触れるだけの優しい剣。それに触れられた槍使いの体は膝から崩れ落ちた。
「寝てろ」
無防備な背中に向かい、漆黒の剣が振り上げられると、それもまた大した力を入れずに下ろされた。
ガッ……槍使いの背中を貫通した漆黒の剣が地面に当たると、イーストは息絶えた槍使いを見もせずに動き出した。
呆然とそれを見ていた細剣使い。その首に漆黒の剣が振るわれる。——ざん。また、首が飛ぶ。
「ティー、逃げるぞ……!!」
仲間の一人がティーに声を掛けた。
デッドエンドイーストは、無頓着すぎる。元の世界の仲間を、こんなに簡単に殺す奴が。
イーストの噂は聞いていた。自分の目的以外にはなんの価値も見出さない。
そしてその目的は、『時を遡る』。
「……なに考えてんだ? そんな事を考えてる奴に付き合ってられるかっ!! ティー、早く逃げよう!!」
自殺してからこの世界に来たという人間。ありもしない、出来もしない事をこの世界で求めている。その邪魔をすれば、無意味に死ぬ。
ティーは仲間の声を聞きながら、二つの事を考えていた。一つは意味のある思考。
『ベイビーソング』。
切りつけただけで相手を眠らせる魔剣。
(なによそれ。……そんなの)
商人ギルドが魔弾で『睡眠』を開発したという事は知っている。
ただ、魔弾は高価だ。しかも超希少な『睡眠』の魔術。一発撃つだけで幾らかかるのか、想像もつかない。
(戦闘中に『寝る』って、死ぬって事じゃない……)
そしてもう一つの、今は意味のない思考。
跪き、顔をうなだれている迅八を見る。
(……『睡眠』が、効いてる!? 魔術無効じゃないの!? )
しかしティーは思い出す。自分の友人である『絶対強者』の片割れ、キリエから聞いた大草原での戦いを。
(その時も確か、魔弾で一回眠らせたって……。ジンには、効く魔術もあるの?)
ティーが意味のない思考に気を取られていると、うなだれた迅八の顔が起き上がり、咆哮をあげた。
「……うっっっ、がああああああ!!」
黒いコートの左肩に下げられたナイフケース、そこからちっぽけなナイフを抜く。
迅八は迷う事なく、そのナイフを己の太ももに突き刺した。
「クソッタレ……。おおおおおあああ!! ……いっっ、だああああああっっ!!」
迅八は飛び跳ねる。
地面に降り立った時に太ももから血が噴出した。
「いってえええええ!! ……ふっざけやがって。なんだその剣。そんなのアリか!?」
「……同じ事を思ってる。おまえ、なんだそのデタラメな回復は」
イーストが突き刺した迅八の腹。そこからの血は、すでに止まっていた。
「サグラダに聞いていたが、想像の斜め上だ。 ……痛めつけてもすぐには死なないって事か」
「やってみろ……!! いつまでもビビってると思ってんじゃねえぞ。気持ち悪いんだよテメエは!!」
迅八は再び魔剣を握ると、ゆっくりと立ち上がった。
「ティー、お前らはどうすんだ!! この場から先には誰も通さねえ……!!」
迅八は叫ぶ。
守らなくてはいけない。
この道の先にあるものを、守らなくてはいけない。
「ティー。早く決めろ。巻き添え食らっても泣くんじゃねえぞっ!!」
「……おまえ、凄いな。少しだけ遊ぼうか。千年の大悪魔が来るまで……」
イーストの言葉が終わる前に、迅八の体は飛ぶ。宙から撃ち下ろす斬撃、イーストはその全てを双剣でさばく。
「……おまえ、こっちに来たばっかりか? ……ひどいもんだな。千年の大悪魔が来る前に殺してしまう」
「おおあああっ、らああああッッ!」
迅八が力任せに叩きつける刀をイーストは無造作に払う。払った剣は、返す刃で迅八に迫る。——白い剣。
(……ヤバい、これに当たるとッッ!!)
迅八の意識が白剣に逸れた時、反対側から迫った漆黒の剣が、迅八の腕を削ぐように切りつけた。
漆黒の剣の上に乗る肉片。イーストはそれをチラリと見てから振り払った。……びたり。床に貼りつく肉。
「痛ゥッ!!」
「死ぬなよ。……おまえが死んだら千年の大悪魔も死ぬんだろう?」
「俺は死なねえ!!」
「……俺と似ている。俺は、死ねない」
大広間では戦いが続く。
いつの間にか傍観者となっている冒険者達。その中の一人がティーの肩を掴む。
「ティー、どうするんだ……?『切り裂き』は? イーストは? オズワルドの転生者は!? ……誰を倒せばいいんだ!! 」
「待って。……リョウマは、地上に残ってるみんなは。イーストがここにいるって事は……!!」
『死にたがり』の片割れは。
「デッドエンドウエストは、どこにいるの……!!」
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「……ふむ。コイツは強い。シズ、コルテを運べるか」
「ししょーっ。ししょー!!」
シズの目から涙がぽたりと。
コルテの薄いくちびる。ひんやりとしていそうなそれに。色を失い始めたそれに、涙は吸い込まれるように消える。
「……あれえ。その人あなたの恋人? ごめんね。……けどね、イーストの邪魔したらダメなんだよ」
ポケットに手を突っ込んだまま、ジークエンドは少女と向かい合う。
……目の前に立つその女は、幼さを残す少女だった。金色の髪を二つに束ね、それをリボンで留めている。
全身を包む闇色のドレスは夜に溶け込み、顔だけが浮かび上がって見えた。
そして、そこからジークエンドの事を見ている空っぽの瞳。……その瞳には、光が無い。
「……これは、全部おまえがやったのか」
「ほとんど。……おまえって呼ばれるの嫌いなの。ウエストって呼んでね。ジークエンド」
死にかけているコルテの周りには、十を超える数の無残な死体がある。
そして、この場とは違うもう一つの戦場。——クーロン達が居るだろうそこからも、ざわめきと怒号が聞こえた。
「……サグラダは向こうに行ったんだね。放っておいていいの? 多分、あなたの仲間じゃサグラダには勝てないよ」
「ふむ。見くびられたものだ。まあいい。ところで……」
「……なあに?」
闇色のドレスから浮かび上がる顔。ウエストの細い顎が横に傾く。
「好きか? 突然死」
————ボッ!!
目にも止まらぬジークエンドの蹴りが真っ直ぐに飛ぶ。
周囲の術師は、みな息絶えた。光球がなくなったここでは篝火だけが夜を照らす。
ジークエンドの体は宙を滑る。前に突き出した蹴り足が、地面から突然現れた物に遮られた。
「……なんだコレは」
巨大なカミソリ。
ウエストの目の前で、地面から突然伸びたそれが、ジークエンドの蹴りを遮った。
「……突然死、嫌だなあ。遺書とかね、書きたいでしょ? 言いたい事っていっぱいあるじゃない。……恨み、ねたみ、そねみ、告白……。どろどろしたの、いっぱいあるでしょ? ……だって、人間だもん」
「ふむ。業が深い」
地面から伸びたカミソリを見て、ジークエンドは内心では驚いていた。——土魔術。
生きている大地に働きかける、超高等魔術。しかも変性させている。
「おまえ、ずいぶんとその刃物の形に思い入れがあるみたいだな。大地から錬成して武器を作れるのか」
「『おまえ』ってやめて。……思い入れ? あはははは……。思い入れ。……そうなのかなあ」
ウエストが、地面から生えたカミソリを握る。
「そうかもしれないね。……なんだって良かったのにこれを選んだの。……流れてる最中は、安心したの」
意味不明の女。
闇色のドレスを着た美しい少女は、リボンで二つに分けられた髪の先を笑いながらいじった。
「けどね、一番怖かったのはね。怖くなかったの。……最後の最後は、後悔するって思ってたんだ。本当の最後の最後、死にたくないって。……けどね。……安心しかなかった……」
「耳が腐る。飛べ」
ジークエンドは、ウエストの腹をめがけて踵を突き上げた。
ウエストの足元。——地面から新しく伸びたカミソリがそれを遮る。しかし、そのカミソリを突破したジークエンドの蹴りは、ウエストの体を宙に飛ばした。
「あ…………」
ウエストの薄い体が枯葉のように飛んでゆく。
しかしその目。
宙を飛びながらジークエンドの事を見ている、ウエストの空っぽの目。
「……まずい。嫌な奴だな 。……負けるとは思わんが、コルテが」
「ししょー……。もうっ! ししょーっ!」
ジークエンドが後ろを見やると、シズがコルテの体を揺さぶっていた。
(やばいぞ。あの傷は……)
どうみても片肺、もしかしたら両方貫通している。
血を吐き出すコルテの顔は、どす黒く変色している。酸素を取り込めていない。
「……まずい。どうする……」
ジークエンドは回復術が得意ではない。そして、術で傷口が塞がるとしても、肺の中に溜まる血がある。
ジークエンドの額に珍しいもの——汗が流れたその時、視界の端でそれは起こった。
「ししょう……。コルテッッ!」
桃色のコートを着たシズが、コルテの唇に自分の唇を重ねた。涙を流しながら血まみれの接吻を交わす。
「……ふっ、ふっ! ……べっ!!」
シズは、コルテの内部に溜まる血を何度も何度も吸い出した。すると、吸い出す代わりのように、重なる唇から光が流れ込む。
ジークエンドはそれを視界の中心に収めた。
「……傷が」
コルテの傷が塞がってゆく。
回復術のスピードを超えて、胸の出血が収まってゆく。シズは何度も繰り返す。唇から血を吸い出し、吐き出し、生命を注ぎ込むように吐息を吹き込む。
ぽたりぽたりとシズの瞳から涙が落ち、それの何回目、何十回目かに。
「……ヒッ、ガッ、……ガハッ!」
「ししょーっ!」
大きく地を吐き出してから、コルテのまぶたが動いた。
(……真魔。コレか)
コルテから聞いていた。
瀕死のクロウを救った回復。
自分の家を壊した現象。
(……アゼルの力に似ている)
「やっぱり恋人なの? ごめんね……」
「『太陽剣』」
ジークエンドは己の背後に立つ影に向かい、振り向きざまに剣を抜く。
灼熱の剣。オレンジ色の光を放つそれは闇を切り裂く。受け止めようとした巨大カミソリは、それに当たるとじりじりと溶け出した。
「……凄い。『太陽』のジークエンドのサンフラウ。凄いなあ……。あなた、この世界で一番強いって言われた剣士だったんでしょ?」
「一番強い? そんなはずないだろう」
「そうだよねえ。堕ちた騎士なんてそんなものだよね。……けどね、わかるよ。人間って、そんなに強くはいられないの。……可哀想にねジークエンド。お姫さまを守れず愛する人も守れず。……怯えながら生きてるのね。ずっと逃げ続けてるのね。……大丈夫。みんなそうなの……」
「死ね」
爆発するような光が。
ジークエンドが掲げた太陽の剣から光は迸る。渾身。全霊。
全ての力を乗せたその剣は、闇色の少女のカミソリに迎撃された。
「……こんなもんなんだね。護衛騎士ジークエンド。……知ってるよ、全部知ってるの。私とイーストはこの世界の事をなんでも調べてるから。……辿り着く為にはなんでもしてる。あなたとは、違うの」
「黙れッッ!!」
その男の顔に浮かんだ激情が夜を震わせる。本気の剣。
「……あはははは。ダメダメ。飾りの剣じゃ私に届かないの。だってあなた、自分の命を選んだんでしょ? ……私は捨てられるよ。イーストの為なら」
大地を変性させて作られたカミソリは篝火のゆらぎの中で光る。撃ちかかるオレンジ——灼熱の太陽剣が乱れ飛ぶ。その斬撃を、ウエストは全て弾き返した。
「あははははっ。……やっぱり、こんなもんなんだね」
「……この俺に、よくもそこまで。覚悟は出来てるだろうな……!!」
「覚悟? ……ふふ。ふふふっ。……あははははははっ!! …… か く ご ? 自分に言ってね」
「……てぇえめええええっ!!」
「あははははっ!! ……ジークエンド、吠えてる方が似合ってるねっ。似合ってる……吠えるのが。……かわいそう、かわいそうにね」
「ブチ殺してやるぞキサマッッ…… 好きかッ。八つ裂きッッ!!」
星空の下で激情が吠える。
向かい合う太陽と形を持った地獄。
篝火に照らされたそこでも戦いは始まった。




