マジックワード
魔剣は紅い残光を残し、大広間の『道』を切りつける。 ……線。ここより後ろに入ろうとする者を全力で押し止める。
線より後ろに入る者が、迅八にとっての敵となる。
「もういい。もう言葉はいらねえ」
「あなた……!」
迅八の目に映るのは、広間の三分の一を埋めそうな冒険者。……元の世界の人間。この世界の人間達とは違う、見慣れた顔立ち。毎日毎日、迅八の横を通り過ぎていた人間達。
そいつらはみんな、スーツではなくジーンズではなく鎧を着ている。
革の鎧を着けた剣士。
板金鎧を身に着けた大斧使い。
ローブを着込んだ魔術師も、槍を持った者もいる。
(……冷静に見てみると、とんでもねえ違和感だな。……なんなんだ。この世界は )
迅八は今まで、ファンタジー世界の住人達ばかりを見ていた。これだけの人数の元の世界の人間たち——それがおかしな格好をしているのなんて、初めて見たのだ。
「ジン、やめなさい。あなたは信じてくれないかもしれないけど、あなたを心配してるの。ロックボトムに騙されてるのよ。……まさか、千年の大悪魔も、何かを狙ってあなたに」
対峙する少女——ティーとの距離は十メートル以上。ティーは、その足を一歩前に踏み出した。
「なんで、不死族の味方なんてしてるの? あなたは何を考えてるの?」
「近寄るな」
迅八は、魔剣の切っ先をティーに向ける。
すると、その少女の目は悲しそうに歪んだ。
「……急いでるのよ。お願いだからどいてちょうだい。話だったら後でいくらでも」
「リーダーもういいよ。俺がどかせる。殺さなけりゃいいんだろ?」
ティーの後ろから出てきた男。
頬に傷跡を刻み付け、ロングソードを握る男。
軽装のその男はリーダーの言葉を待たず、自身の足に力を込めた。
「ソニックレイドッ!!」
解き放たれたバネのように、その体が前に跳ぶ。
特注の片刃のロングソードは刃のない面を前に向けている。転生者達が好んで使う仕様。
戦う前の心構えに言い訳がしやすくなる。当たった結果、死んだら仕方がない。
迅八の体は目の前にある。
突然現れた黒いコートの少年は、なんの反応も出来ずに立っていた。
「大人しく寝てろこのガ……、」
——みきゃ。
骨の軋む音が、自分の中から。
目の前に拳が。
巨大な拳が。
真っ赤な拳が。
「ぶっっ……!」
推進力がそのまま痛みに変わる。
自分の体が宙を飛んでいるのが分かる。
ゆっくりと流れる視界。
目を見開いている周りの仲間。
仲間たちは自分ではなく、青い光に包まれた少年——迅八を見ている。
ほんの僅かな時間のあと、床に叩きつけられる体。体中に走る痛み。立ち上がれない。
一人目はこうして倒された。
「……隊列を組みなさい!」
ティーの行動は素早かった。
その言葉を皮切りに、重装の冒険者達が前に出る。
軽装の前衛は両脇に、後ろでは魔術師達が詠唱を開始した。
「なんだあの『腕』は……。魔術か!?」
重装の前衛達が、横一列に並び、前に出る。
全身鎧を着込んだ彼らは、攻撃には向いていない。魔力でスピードは出せても体の可動域は狭められるからだ。
しかし、彼らには大きな利点があった。魔術無効。
魔術は生者にしか効かない。
魔石を埋め込まれていない全身鎧は、それだけで仲間を守る盾となる。
——あの巨大な拳がオリジナルの変わった魔術だとしても、自分達にはそれは効かない!!
すると、その音は鳴った。
「え?」
——スパアアアアァァン!! 重装戦士の一人が巨大な拳に殴りつけられて、宙を飛んだ。
その鮮血の腕は折りたたまれ、すぐに交互に襲いかかる。叩きつける音を残してその場から一人、また一人と消えてゆく。
「……おいコレ!! 魔術じゃねえっ、」
ズバンッ!! ——魔術じゃない。その言葉を出そうとした男の体に拳は叩きつけられた。質量を持った痛み。
(コレ、物理じゃねえかっっ!!)
重装の戦士達が呆気なく飛んでゆく。
巨大な拳に殴りつけられて。
冒険者達の一人がぼそりと言う。
「……なにコレ」
呟いた男の横に、仲間の体がドサリと落ちた。ピクリとも動かないその体から呻き声が聞こえる。死んではいない。
……松明に照らされた広間は、光と影がゆらゆらと揺れる。その中で暗黒の太陽の体もゆっくりと揺れた。
背中から伸びた鮮血の腕は、真っ直ぐ上に掲げられる。その腕が、割れてゆく。
ぞぶん。
二本だった腕が四本となり、更に増えて六本となる。……その腕は流動する。びしゃりびしゃりと撒き散らしながら、形を変えて翼となる。
翼を生やした迅八が進む。
ゆっくりとゆっくりと、その右手に握る刀に力を込めて。
冒険者たちは声を出す。
「……ティー」
「こいつ……まさか」
知っている。
冒険者達は知っている。
物理的におかしな体を持つ種族。
何度か見た事もある、世界中を飛び回っている十二人に代表されるその種族。マコトのそばにいるティーは、その内の何人かに会った事もある。
ティーは震える声で言った。
「まさか、十三番目……」
翼を生やした少年は進む。
その瞳に意思を湛える。
その意思は黒線を通り、体中に行き渡る。……みなぎる。意思により沸き起こる力が。
迅八は見すえる。
敵はまだ四十人以上。
そいつらに向かって言い放つ。
「……恐怖はねえって言ってたな。気に入らねえよお前ら」
迅八は自分の体の芯にある震えをこらえた。——これから、自分は元の世界の人間達を敵に回す。
「……俺は怖い事ばっかりだ。あっちでも、こっちでも」
それでも決めた。
やらなくてはいけない。
揺るぎない。
「……テメエらにも恐怖を刻み込んでやるよ。通ってみろよ怖いもんなし。この道には俺がいるぞ……!!」
掲げるは魔剣迅九郎。
主人公の戦いは始まる。
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「これが……」
「そうだ。これが原発巣。異世界癌だ」
アゼルの目の前で鳴動する薄紫の物体。おぞましい脈動。不定期に動き続けるその物体を。
そいつは触手を伸ばす。
うぞうぞと蠢きながら、近くの太い動脈に貼りつく。丸い吸盤に形を変えて、そこから血をすすりあげると同時に、ロココの体に何かを流し込む。
「イッ、ひっ、いたああああいいいイイッ!」
じわりと滲む血が。
薄紫の物体はその色を濃くしてゆく。
深い深い紫。その表面に走る葉脈のような血管が、不規則に拍を刻んでいる。
開腹された腹——術野の赤と白と紫。
皆はそこを覗き込む。痛みに苦しむ母親の娘ですら。
……部屋の隅で腕を組む、千年の大悪魔以外は。
「まずい……! 」
本来、医者が言うべきではない言葉がジャックの口からこぼれ出た。
しかしジャックもこんな経験は初めてだった。患者の身内に見られながら手術を進める経験など、今までなかったのだ。
「まずいってなんだよ……。どういう事だ!!」
アゼルの口からその言葉は出た。
目の前の医者の額に汗が浮く。
それと同時にアゼルの胸に湧き上がるもの。……不安が。
「……はあ、はっ。……隠しても仕方がないから言う。いいか? お前さんらには理解できないかもしれん」
ジャックは紫色を触る。
蠢く触手がその手に伸びる。
「……ここは、肝臓と呼ばれる器官だ。解毒、分解、貯蔵……、まあそれはいい。いいか、重要な事だけだ。こいつは、一個しかない」
「だから、なんなんだよ……」
触手がジャックの手に吸い付くと、かすかな音と共にその部分が溶ける。痛みを気にせずジャックは話し続けた。
「肝心要。人体の中でも重要なこいつは、なければ生きていけない。……だが、実はある程度の切除にも耐えうる器官で、極端に言えば半分が残ってれば大丈夫だ。……しかし、」
ジャックがその触手を引っ張ると、肝臓との接合部が見えた。それは、がっちりと中に入り込んでいる。
一体化している。
「……全部だ。全部やられてる」
「だから、なんなんだよ!!」
「もう、たす……」
ジャックの膝を掴む、ニコルの小さな手。……その手に気付いたジャックの体が、ぶるりと一度震えた。
「……ふっざっ、けるな」
誰に言った言葉かは分からない。
だが、ヴァンパイアロードの口から熱は出る。
「クソッ。……クソッ!! ……ふざけるなよ。この日の為にやってきたんだ。もう二度と負けてたまるか!!」
《主。代替臓器はどうでしょうか》
血のプール。そこに浮かび上がる幾つもの臓器。
「あれはまだ実用段階じゃない。……それ以前に、亜人の体の抗体がわからん。血液型だってわからん。亜人の体は臓器も含め、表面はヒトに酷似しているが、中身の働きまで同じかどうかはわからん。……死体の腹しか開けた事がないんだ!!」
《生きていればいいのですか? ……主。再び私に『九泉神農返者』を。私の肝臓を使って下さい》
「そういう問題じゃない。第一、それは成功しないっ。……何よりおまえさんが保たない。こんな短時間で蘇生を二回もやったら、……壊れるぞ!!」
《なんの問題もありません。戦う時です》
「そういう話じゃないんだよ……。医療は気持ちじゃないんだ!!」
《気持ちです。救うのです》
「駄目だ。……移植は出来ないんだよ。患者が耐え切れないっ!!」
ロココの口から、紫色の液体が溢れ出る。
……嗅いだ事のない臭気。金属製の寝台の上でシュワシュワと音を立てる。わずかに散った飛沫が近くの布に穴を開けた。
「……部分的な切除なら、無理をすればいけると思った。だが、肝臓を全部切り取る!? 意識があるのに!? ……そんな事、人間に耐え切れるはずがない!!」
《彼女は耐えます。やりましょう》
「……人体の痛みの上位にアキレス腱の断裂がある。だが、目玉を潰されるのとそれを選べるとしたら、たとえ後で元に戻るとしても、誰でもアキレス腱を選ぶ。……人体の痛みというのはそういうものだ。いま、患者は確かに痛みに強くなっている。だが、精神が恐怖に耐えられん!! ……他の方法を探すぞ!!」
ヴァンパイアロードと骨。
刻一刻と過ぎる貴重な時間を使い、医者と助手の間で応酬は続く。
その脇を通る小さな影。
母を想う影が。
「おかあさん……」
「ニコ……」
「……『——————』」
「……ニコ?」
「あのお店にいこ。 ……コルテさま達から貰ったお小遣い貯めてるから……。ねえ、いこうよっ……!」
「ニコっ、……はっ! はっっ!」
「またあしたね。……があざんっっ!!」
「……やって」
その声は、死にかけの女の口から聞こえた。
「おねがい……。あそこにあるのを、わたしのおなかに……!!」
血のプール。腐りかけの臓物を。
「……違う。やめろ。そうじゃないんだ。そういう話じゃないんだよ!!」
「私は、死なないッッ!!!!」
(……駄目だ)
……絶望は襲う。
ジャックは分かっていた。
この場にいる者たちで、正確に事態を把握できているのは転生者である自分だけだ。
病気を治すのは、手段と技術だ。
気持ちではどうにもならない。
(考えろ。考えろ……!!)
絶望の底で医者は戦う。
この世界で目が覚めたら闇の中にいた。しかし自分は、元の世界でもずっとそこに居たのだ。
命を懸けた戦いの場。
医療という名の光と闇、冥府魔道で戦い続けていたのだ。
(どうすればいい……。どうすればいいんだ!!)
医療に必要なのは手段と技術。
技術はある。意地でもやる。
たとえ設備が不十分でも、手段があれば必ずやってみせる。……だが、手段がない!!
(肝臓が必要だ……)
母親の手を握る娘。
ジャックは、その腹を見る。
(……無理だ。あんな子供が耐え切れるはずがないっ)
しかし、それしか手段はない。
生きたまま
あの幼子の腹を開け
血飛沫をぶちまけ
肝臓を切り取る。
……光が満ちる部屋の中、医者は冥府魔道の中にいる。患者を傷付ける武器を、己を傷付ける武器を、それを振るって救うのだ。生命を明日に繋げるのだ。
(……出来ない。二人とも死ぬ可能性の方が高いっ!)
そこに、嘲笑は響いた。
その場にいる者たち全てを嘲笑う、悪魔の笑い声が。
「く、く、く……」
「……クロウ?」
「……く、く、く、……くかかかかかかか。くきききききくくくくくかかかかか……」
アゼルはそちらを見る。
腕を組み、ずっと地獄を眺めていた悪魔の姿を。
「黙って見てりゃ……。どいつもこいつも、アホらしい」
「なんだと? ……おまえ」
嘲笑う悪魔は進む。
「……きったねえカオしてゲロ撒き散らしやがって。おいロココ、テメエには女の恥じらいがねえのか? ……ま、元から小汚ねえ亜人だと思ってたが」
「おまえ、なにを……」
「どけ。邪魔なんだよ」
クロウはアゼルの体を素通りし、ニコルの体を乱暴に押し退ける。小さな体は呆気なく横に倒れた。
異状を感じ取ったメスカルが、クロウの前に立ちはだかった。
《……なにを考えているのです。下がりなさい》
「……ハァ。テメエ、あの姿のままでいられねえのか? テメエが下がれ」
《…………っ》
大悪魔の本気の目。
メスカルはそれに竦んだ。
いや、竦んだのではない。
メスカルはなぜか、邪魔をしてはいけないと感じた。
《あなたは、なにを……》
「おうロココ」
「ひ、ひ、ひっ……お、おぶっっ!」
腕を組み見下ろす大悪魔に反吐がかかる。紫色のそれは、大悪魔の腕をじゅうじゅうと焼き付けた。
「……お前、ほんとにいいのか? 内蔵ぶった切られても生きてられんのか?」
「いっ、ひっ、いぎっ!」
「答えろよ小汚ねえ亜人。ゲロまみれの汚物女が」
「い、ひ、いぎる……、このごを、のごじでっっ、じねないっっ!!」
「あっそ。……んじゃ対価を貰うぜ」
その悪魔は、吐瀉物でまみれた女の口に、乱暴に唇を押し付けた。
「……ん、んんっ!」
「黙れ」
湯気があがる。
大悪魔の口から。
肌を焼き、舌を溶かし、その吐瀉物はクロウの口に入り込む。
「……おまえ、なにを」
アゼルは呆然とした。
しかし、その気持ちの奥底からなんとか言葉を出した。その場の者たち全てを代表して、その言葉をなんとか口に出した。
「おまえ、な、なにを、してるんだ……?」
「……ううるせえええ。対価だ対価」
「あっ、ひっ、やめ……」
亜人の女の言葉など彼は聞かない。
舌をねじ込む。口をまさぐる。溢れ出してくる汚物、吐瀉物を物ともせず。
「……ふん。汚ねえ女だ」
二人の唇が離れる時、その場には場違いな音が響いた。大悪魔は無言で己の口を手の甲で拭う。……じりじりと。残った吐瀉物が、その手の甲を傷付けた。
「だがまあ、……美しいもんも持ってる。亜人の割りにはな」
「おまえ……、おまえ!! 今が、どんな時だか分かってるのか!?」
「うるっせえんだよ。ビービービービーてめえらは……俺は、辛気臭いのが嫌えなんだよ」
その悪魔は享楽的で楽天家だった。
ウジウジとした空気を好まない。
「……はーーーん? 肝臓がー、おかあさーん。……バッッカじゃねえのか? つまらねえ事で騒ぎやがって」
「……おまえさん。排除されたいようだな」
「ニコル」
殺気を放ち始める吸血鬼を相手にせずに、クロウは幼子の前で腕を組んだ。
「なにがあのお店に行こうねだ。そんな事が特別か? ……はっ。安っちい」
「排除する」
《……主。待ってください》
骨が。
主人の手を強く握る。
「またあしたね?
……明日が来るのはあたりめえだよ。なんの特別でもありゃしねえ。店? あーあー行け行け。明日も明後日も何回でも行け。……そんなもんは、あたりめえなんだよ」
腕を組む大悪魔は部屋を見渡す。
下らない事で悩む吸血鬼と狐人、人と不死族。大悪魔の彼からしてみれば、全く彼らは小さな存在だった。
「……てめえらチンケな人間共とは違うんだよ俺は。……やると決めたらやる。あんまりやりたくねえけどな」
ジャックは感じた。
メスカルの、骨の手から伝わる熱を。
そして自分は、なぜ、この悪魔に好き勝手に言わせておくのか。
「おうニコル」
「え、え……」
「おまえから対価を貰うのは十年後だ。……まあ、そんなのすぐだよ。俺様は千年の大悪魔だからな」
大悪魔は己の体で動き続ける刺青を消すと、彫り込まれた腹筋を指でなぞった。
「あん? この辺か?」
——たった今、あの女の事は読んだ。
クロウは耐えられる。
今まで何度でもこんな事はあった。
死にそうになる事なんて何回でもあった。気になるのは、あの子供の事だけだ。
あいつは、いま戦っているはずだ。
死地の中にいる。
そのあいつに、この傷が伝わる。
「……信じたぞ。クソガキが」
あいつは死なない。
ぞぶりと。
「く、く……くくっ」
尖った爪が、腹を割る。
「くかかかかかか……」
右手が中に入る。
強靭な腹筋を越えて、手に硬い物が当たる。——骨。
「……邪魔だなコレ」
ぼぎん。
その音は部屋に響いた。
それを引き抜く。乱暴に折られたその骨を。がらん。放り投げる。用済みのゴミを。
「う、おおおおおおおおお……」
触った。デカイ。
やったら絶対に痛い。
(……なんで俺は、こんな事をしてんだ!?)
クロウが見渡してみれば、驚愕の目が幾つも自分を見ていた。
アゼルの顔。さっきまで泣いていた少女は、ストールの上からでも分かる位に口を開けている。
「……ガアアアアアアアアアッッ!!」
ぶつん。
致命的な音が。
(イヒッッ!!)
クロウは思った。
——やばい。やっちゃった。
(なんでェっ、俺さまがああああああっっ!!)
開いた腹から溢れそうになる腸、それを必死で抑えて右手を引き抜く。
そこにはまだ、ビクビクと波打つ致命的な物があった。
(……いいいいいでえええてええええ!! コレ、やばいんじゃねえのか? 魂の再生で生えてくるまで、俺は生きてられるのか!?)
周りを見る。
驚愕どころではない。
ジャックに至っては意識が飛んだ顔をしていた。
そして、千年の大悪魔は湧き上がる悲鳴を抑え、ニヒルにこう言った。
「……ほれ。手段。
さっさとやれやチンケなバカ共が。くかかかかかか……。くきききかかかききかか!!くききききかかきかかか……あ痛!」
大悪魔の色々な声が、地底墳墓 最下層に響いた。
————————————————
信じられない事が起こった。
戦闘中だというのに、冒険者達は動きを止めた。
鬼神の如く暴れ狂う、赤い翼を生やした少年が、突然、血を吐きぶっ倒れた。
「な、……誰かの攻撃が当たったか!?」
「待て。誘ってるのかもしれないぞ」
ティーは恐る恐る迅八を見る。
優しそうな顔をした少年は、突然、悪鬼の如くなった。しかし、本当なら彼を救いたいのだ。そして、調べたい。
——本当に、天使なのか?
仲間にしたい。
「ちょ、ちょっと……、あなた。どうしたの? なんでいきなり……」
主人公は立ち上がる。
震える足で、顔を青くして。
「……なんの問題もねえ。戦う時、おぶっお、おうううぉぉぉぉぉゔぉっ……!!」
そして、濁流のように血を吐いた。




