六章プロローグ デッドエンドブレイクビーツ
「……やっぱり、来なけりゃ良かった」
「サグラダ。なんか言った?」
「いいやなにも……。ちゃっちゃとやってくれよウエスト」
暗い、暗い部屋。
真夜中——外からの静かな月の光もなく、室内の明かりも小さい。
本当に、この部屋は、暗い。
(……あー。だからこいつらには会いたくねえんだ。気が滅入る)
ウエスト。
目の前の少女。
サグラダはウエストの年齢を知らないが、一目で分かる事がある。
まだ、子供だ。
中学生か、高校生か。元の世界ならそのくらいの歳。
サグラダには子供がいない。元の世界でもいなかった。ウエストの年頃の少女達の、細かな違いまでは目で見抜けない。
(こぉの雰囲気。……嫌だ嫌だ)
太陽の匂いがしない。明るいものが見えない。
ウエストは闇色のドレスを着ていた。
暗い部屋の中に顔だけが浮かび上がっているような錯覚。美しい。
可愛いのではなく、美しい。
子供なのに。
「ウエスト。早く腕を治してくれよ」
「イーストが良いって言うなら。……イースト、治してあげる?」
『死にたがり』
そう呼ばれている二人。
かつては二人ではなく、もっと大勢いた。けれども彼ら、彼女らは、死にたがりだ。
数を増やし、数を減らし、そんなのを繰り返して、今はウエストとイーストの二人しかいない。
攻略組最凶。冒険者として動く転生者なら誰でも知っている二人。
誰も二人には近寄りたがらない。
汚染されるのを肌で感じるから。
「イースト。……どうするのー?」
その男は、ずっと酒を飲んでいた。
部屋の中なのにマントで身体中を覆っている。そこから手だけを出して酒を飲む。
ベッドに腰掛け、酒を飲み続けるその男は、生きている匂いがしない。
年齢不詳の男。
マントから出ている顔はヒゲで覆われている。そこから繋がるようにくすんだ赤——錆色の髪の毛が、あちこちに跳ねている。
その男の目。それを、サグラダはちらりと見てすぐに目をそらした。
別に気圧されている訳ではない。
ただ、目をそらした。
「……サグラダ。誰にやられた。おまえ、確か強かったんじゃないのか?」
「うほほ。強いぜ。……けどま、相手も強かったし、強さだけが勝敗を決める訳でもないだろ」
「サグラダなんて強くないよっ。イーストの方が強いんだよっ」
「ウエスト。……サグラダの方が強い」
「イーストの方が強いよっ」
子供。確かにウエストは子供だが、それよりも幼い言葉遣い。
その言葉に、サグラダは苛立つ事もない。その通りだと思う部分があるからだ。
『デッドエンド』イースト
こんな奴と、絶対に戦いたくない。
負ける気はしない。
おそらく自分の方が強い。
だが、やりたくない。
気持ち悪い。
勝敗を決めるのは、強さだけではないからだ。
「……ウエスト。治したいなら治してやれ」
「私、なんでもいい。イーストがどうでもいいんだったらなんでもいい」
「…………俺はどうでもいいな」
「おいおいお前ら。……治してくれよ。金ならあるぜ」
「俺たちだってある。欲しがると思うのか?」
「わーかったわーかった。 ……イースト、お前、探してる奴がいるよな。……来てるぞ。千年の大悪魔がロンダルシアに」
「……お前、戦ったのか?」
「少しな。……ま、ほとんど大悪魔の連れのガキにやられた。ちまたで噂の転生者の方だ」
「どんな能力を持っていた。千年の大悪魔は」
「分からねえよ。大悪魔とは少ししかやってないって言っただろうが」
「…………ウエスト。治してやれ」
黒いドレスの少女——ウエストが呟き始めると、サグラダの両腕が光に包まれる。ぶちぶちと水を出していた火傷が、少しずつ癒されてゆく。
「もっと聞かせろサグラダ」
「うほほっ! ……おまえ、そんな顔も出来るのか。まあ聞かせてやってもいいが」
それよりも。
「……なあ。一緒に確かめにいこうぜ。おまえもどうせ、あいつらと遊ぶつもりなんだろ?」
その言葉には答えず、イーストは頭を押さえた。
「……頭が痛い」
(……気持ち悪ぃな。ホントにこいつらは)
デッドエンド。
自殺した後、この世界で目覚めた人間。
誰も彼らには近寄らない。
汚染されるのが分かるからだ。
イーストと呼ばれたその男は、頭を押さえながら。
マントの下、残った片手で、首にかかるネックレスを静かに静かに触った。




