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第八話 結婚式へご招待!

第八話です。よろしくお願いいたします。

私たちは屋敷を抜け出し、ミュゲ王子のお母様が暮らしている屋敷へと向かった。

結婚式を目前に控えているというのに、まさかこんなところへ来ることになるなんて。


けれど――どうしても、お母様にも来てほしかった。


「ここがお母様のお住まいなのですね」


「はい。街からは少し離れていますが、静かで空気も綺麗な場所ですよ」


ミュゲ王子はそう言うと、屋敷の扉を軽く叩いた。


「どちら様でしょうか?」


しばらくすると、中から一人の侍女が顔を出した。

そしてミュゲ王子の姿を見た瞬間、目を大きく見開く。


「ミュゲ王子!?どうしてこちらに……!」


「ははは……突然の訪問で申し訳ありません」


ミュゲ王子は少し困ったように笑った。


「僕の妻が、どうしても母上に会いたいと言うものですから」


「妻……?」


侍女が不思議そうに首を傾げる。

そしてようやく、私の姿に気づいた。


「あら……もしや、このお方が……」


「はい。僕の妻になる、スリジエです」


「……!」


侍女は一瞬驚いたものの、すぐに姿勢を正した。


「失礼いたしました。どうぞ、お入りくださいませ」


「ありがとうございます」


結婚式当日に突然やって来た王子。

しかも、その隣には純白のウェディングドレスを着た私。


侍女が何事かと思うのも無理はない。

私たちは侍女に案内され、屋敷の奥へと進んでいった。


そして、とある部屋の扉が開かれる。

そこには、一人の女性が椅子に腰掛け、窓の外を眺めていた。


ミュゲ王子と同じように、少しふくよかな体つき。

穏やかそうな顔立ちをしているが、その表情にはどこか寂しさがあった。


「母上……」


ミュゲ王子が声をかける。

女性はゆっくりと振り返った。


「……ミュゲ?」


「はい。僕です」


「どうして……ここに?」


お母様は立ち上がりながら、ミュゲ王子の姿をじっと見つめる。

そして、その隣に立つ私へと視線を移した。


「でも今日は……結婚式のはずよね?」


「はい」


「それに、その格好……」


お母様の顔がみるみる青ざめていく。


「ま、まさか……結婚式で何かあったの?」


「え?」


「側室の子だからって、誰かに笑われたのでは……?それとも、スリジエさんが何か酷いことを言われたとか……!」


「違いますよ、母上」


ミュゲ王子が慌てて否定する。


「そんなことはありません。手紙にも書いたでしょう?皆さん、とても良い人たちばかりですよ」


「だったら、どうして……?」


お母様が不安そうに私を見る。

私は一歩前へ出た。


「お母様に、どうしても結婚式に来ていただきたかったんです」


「……私に?」


「はい」


私は笑って頷いた。


「ミュゲ王子のお母様ですから」


「…………」


お母様はしばらく黙り込んだ。

そして、申し訳なさそうに首を横に振る。


「気持ちは嬉しいわ。でも……私が行ったら、きっとご迷惑になるもの」


「そんなことありません!」


「それに……」


お母様は俯いた。


「私は、もうずっと人の目が怖いの」


「…………」


「王宮にいた頃も、ここへ来てからも……私のことを悪く言う人はたくさんいたわ。だから、結婚式なんて華やかな場所へ行ったら、また何か言われるんじゃないかって……」


その声は震えていた。

きっと、お母様はずっと一人で耐えてきたのだ。


自分が傷つくことよりも、息子の大切な日に自分がいることで、ミュゲ王子まで傷つけてしまうことを恐れている。


「大丈夫です」


私は優しく言った。


「誰もお母様を悪く言ったりしません」


「でも……」


「皆さん、お母様が来てくださるのを楽しみにしているんですよ」


「……本当に?」


「はい。私の両親も、ぜひお会いしたいと言っていました」


すると、お母様は少しだけ驚いた顔をした。


「そう……。貧しかったあなたを引き取って、本当の娘のように育ててくださったご両親ね」


「はい」


「きっと、とても優しい方たちなのでしょうね」


「とても優しいです」


私は胸を張って答えた。

すると、お母様は少し寂しそうに微笑んだ。


「……でも、本当はあなたも第一王子や第二王子のような後ろ盾のある王子のほうが良かったんじゃない?」


「お母様……」


「二人には申し訳ないけれど、私は何も持っていないし、あげられるものもないわ」


「そんなことありません!」


思わず声が大きくなった。

お母様が驚いて私を見る。


「ミュゲ王子が選んだのは、私です」


「…………」


「私は貴族ですらありませんでした。何の身分も持っていない、ただの庶民でした」


私は自分の胸元にそっと手を当てる。


「それでも、ミュゲ王子は私を選んでくれました」


「スリジエさん……」


「だから、私もミュゲ王子の大切な人を大切にしたいんです」


お母様は何も言わなかった。

ただ、じっと私を見つめている。


「権力とか、地位とかそう言うものを求めているのではありません!ただ私は、お母様に一度だけでも勇気を出してほしいんです」


私はそっと手を差し出した。


「私を信じて……結婚式に来ていただけませんか?」


「…………」


お母様の視線が、私の手へと落ちる。

その時、ミュゲ王子が優しく口を開いた。


「そうですよ、母上」


「ミュゲ……」


「スリジエは、結婚式を目前にしているというのに、母上に来てほしいという理由だけでここまで来たんですよ」


ミュゲ王子は苦笑する。


「僕ですら、彼女の行動力には驚かされました」


「ふふ……」


「ですから、一度だけ騙されたと思って来てみませんか?」


お母様は困ったようにミュゲ王子を見る。


「あなたまで……」


「僕は、母上にも今日という日を一緒に過ごしてほしいんです」


「…………」


その言葉に、お母様の目が少し潤んだ。

すると、今まで扉の傍で静かに話を聞いていた侍女が、そっと口を開いた。


「……奥様」


「あなたまで何を言うつもり?」


「たまには、お出かけになってはいかがでしょうか」


「でも……」


「奥様は、いつもこの屋敷にいらっしゃるばかりではありませんか」


侍女は優しく微笑んだ。


「今日くらいは、外へ出てもよいと思います」


「…………」


「それに……ミュゲ王子の結婚式ですよ?」


侍女が少しだけいたずらっぽく笑う。


「ここで迷っているうちに、式が終わってしまったらどうなさるのですか?」


「それは……」


「せっかくの晴れの日ですもの。息子様の隣にいて差し上げてください」


「…………」


お母様はしばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと窓の外へ視線を向ける。


青い空。

穏やかな風。

きっと、ここへ来てからずっと眺めてきた景色なのだろう。


やがて、お母様は小さく息を吐いた。


「……そうね」


そして、ほんの少しだけ笑った。


「今回だけよ」


「本当ですか!?」


私は思わず身を乗り出す。


「ありがとうございます!」


「ふふ……そんなに喜ばなくてもいいでしょう?」


「だって……!」


私は嬉しくて、お母様の手をそっと握った。


「ミュゲ王子が、きっと喜びますから」


「…………」


お母様はミュゲ王子を見る。

ミュゲ王子も、嬉しそうに笑っていた。


「ありがとうございます、母上」


「……こちらこそ」


お母様は小さく笑う。


「今日くらいは……あなたの母親らしいことをさせてちょうだい」


「母上……!」


ミュゲ王子が嬉しそうに母親へ駆け寄る。

その光景を見ながら、私は胸が温かくなるのを感じていた。

今日はしっかりと投稿することが出来ました。いつもお読みいただきありがとうございます。

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