第七話 結婚式の前に?
第七話です。遅くなりすみません。
「ほら、スリジエ。動いちゃだめだよ」
「そうですよ。せっかくの結婚式なんですから、ボサボサの髪で出るなんて恥ずかしいでしょう?」
「分かってるってば!」
私は椅子に座ったまま、リラとイリスに髪を結ってもらっていた。
鏡の前に映るのは、キラキラと輝く純白のウェディングドレス。
そして――。
今日は、私とミュゲ王子の結婚式。
ついに、この日が来たのだ。
「よーし!できた!」
リラが満足そうな声を上げる。
「なかなか綺麗に仕上がりましたね」
イリスも頷き、私の前に鏡を差し出した。
「わあ……!」
鏡を覗き込んだ瞬間、思わず声が漏れる。
そこに映っていたのは、まるで別人のように綺麗な私だった。
「えっ、ちょっと待って!誰これ!?すっごく美人!」
「スリジエ、それ自分で言う?」
リラが呆れたように笑う。
「ベルだった頃のスリジエなら、そんなこと絶対に言わなかったでしょうね」
イリスも楽しそうに笑った。
「だって、もう私はスリジエだからね」
私は鏡の中の自分を見ながら笑う。
「もう丁寧な言葉遣いだってしなくていいんだし」
その言葉を聞いた二人は、ふっと穏やかな表情になった。
そして――。
「どんな言葉遣いでも、私はスリジエが大好きだよ」
「私もです。どんな身分になっても、私たちはずっと友人ですよ」
二人が私を抱きしめる。
「「結婚おめでとう、スリジエ」」
「っ……二人とも……!」
胸がいっぱいになって、私も二人を強く抱きしめ返した。
その時だった。
コンコン。
「スリジエ、少しいいですか?」
扉の向こうから、聞き慣れた声がした。
「はい、どうぞ!」
私が返事をすると、リラとイリスは顔を見合わせる。
そして、ニヤニヤしながら立ち上がった。
「では、私たちはこれで」
「うんうん。ごゆっくり」
「ちょ、二人とも!」
私が止める間もなく、二人は部屋から出ていってしまった。
入れ替わるように、ミュゲ王子が部屋へ入ってくる。
「スリジエ、準備はどうです――」
そこまで言ったところで、ミュゲ王子の動きが止まった。
「…………」
「ミュゲ王子?」
顔を見ると――。
みるみるうちに、頬が赤くなっていく。
「ス、スリジエ……」
「ど、どうでしょうか……?」
私も急に恥ずかしくなり、視線を逸らしながら尋ねる。
「へ、変……ですか?」
「と、とても……綺麗です……」
消え入りそうな声だった。
思った通りの反応をしてくれて、私は思わず嬉しくなる。
「ふふっ。ありがとうございます」
「……本当に綺麗です」
ミュゲ王子はそう呟いたあと、少しだけ寂しそうな顔をした。
「……母上にも見せてあげたかった」
「え?」
私は首を傾げる。
「お母様は、結婚式にいらっしゃらないのですか?」
「はい……」
ミュゲ王子は俯いた。
「母上は王宮を出てから、ほとんど人と会わなくなってしまって……」
「…………」
「今回も、自分のことを悪く言う人がたくさんいるのではないかと、不安に思っているようです」
「そんな……」
私は胸が痛くなった。
せっかくの息子の結婚式なのに。
それなのに、自分が傷つくことを恐れて、息子の晴れ姿を見ることさえ諦めてしまっている。
「そろそろ、母上にも信頼できる人ができればいいのですが……」
ミュゲ王子は寂しそうに笑った。
「何度手紙を送って説得しても、来てくれませんでした」
「……そうですか」
私は少し考える。
そして――。
ふと窓の外へ目を向けた。
「ミュゲ王子」
「はい?」
「式まで、まだ時間がありますよね?」
「ええ……まあ」
私はミュゲ王子の方へ向き直る。
「では――」
私は静かに微笑んだ。
「お母様のところへ行きましょう」
「……え?」
ミュゲ王子が目を丸くする。
「今からですか?」
「はい」
私は頷いた。
「せっかくの結婚式なんですから」
そして、ミュゲ王子へ手を差し出す。
「お母様にも、私たちの晴れ姿を見てもらいましょう」
ミュゲ王子は差し出された私の手を見つめる。
しばらく何も言わなかった。
やがて――。
「……本当に、あなたには敵いませんね」
そう言って、ミュゲ王子は優しく笑った。
今回もお読みいただきありがとうございました。色々とすみません。




