第八話 教えて下さいまし、スマート王子!―花言葉編―
第八話です。よろしくお願いいたします!
青く澄んだ空。
広々とした庭園。
穏やかな風。
そして周囲には、誰もいない。
そう――現在、私は王子と二人きり。
初めてのデート中ですわ!
私は両手を前で組みながら、隣を歩く王子をちらりと見た。
王子はどこか落ち着かない様子で、視線をあちこちに泳がせている。
最初は平気だった私も、その緊張が伝染してきたのか、妙にそわそわしてしまう。
「きょ、今日はいい天気ですね……」
「え、ええ。そうですわね」
「風も気持ちよくて……」
「た、確かにそうですわね」
「小鳥のさえずりも、素敵ですよね……」
「ええ……そうですわね……」
「…………」
「…………」
き、気まずい……!
気まずすぎて、このままでは変な汗で溺れそうですわ!
王子も同じ気持ちらしく、ずっと俯いたまま歩いている。
……いえ、自分から誘ったのですから、そこは何とかしてくださいません!?
「は、花! 花はお好きですか?」
「えっ……?」
突然話しかけられ、思わず肩が跳ねた。
「ええ、お花は好きですわ。綺麗ですもの」
私はそう答えながら、近くに咲いていたバラへ歩み寄る。
花びらへそっと触れながら、ぽつりと呟いた。
「ですが、お花には虫が集まるのが困りものですわね」
「それは仕方ありませんよ」
「え?」
気づけば王子も隣へしゃがみ込み、私と同じ高さになっていた。
顔が思ったより近くて、心臓が小さく跳ねる。
「花は、虫を呼ぶために美しく咲くんです」
「虫を呼ぶため?」
「はい。植物が子孫を残すには受粉が必要ですから」
王子は柔らかな声で説明を続けた。
「花粉は風に運ばれる場合もありますが、多くは蜜を吸いに来た虫の体について運ばれるんです。だから花は、虫が見つけやすいよう鮮やかな色や香りを持っているんですよ」
「そんな理由があったのですね……!」
私は思わず目を輝かせた。
「初めて知りましたわ!」
「僕も本で読んだ程度ですけどね。詳しい専門家という訳ではありません」
「それでも、とても博識でいらっしゃいますわ」
――そこで、私はふと思い出した。
そうでしたわ。
この人は“スマートな王子”だったのだ。
……本来の意味で。
「博識だなんて、とんでもないです。ただ、気になったことを調べるのが好きなだけで……」
少し照れたように笑う王子。
その姿は、以前よりずっと自然に見えた。
「他にも、お花の知識をお持ちなのですか?」
「ベルフルール嬢が楽しめるかは分かりませんが……少しくらいなら」
「もしよろしければ、もっと聞かせてくださる?」
「ええ! もちろんです!」
王子の顔が、ぱっと明るくなる。
まるで咲いたばかりのバラのような笑顔だった。
「花言葉はご存じですか?」
「ええ、少しは。花によって意味が違うのでしょう?」
「はい。でも、実は本数によっても意味が変わるんです」
「本数でも!?」
それは初耳だった。
「例えば同じバラでも、色と本数で意味が全く違ってくるんですよ」
「素敵ですけれど……覚えるのが大変そうですわね」
私が少し困った顔をすると、王子はくすりと笑った。
「そこまで難しくありません。よく使われるものは限られていますから」
「例えば?」
「一輪は『ひとめ惚れ』。三輪は『愛しています』」
王子は指を折りながら数えていく。
「六輪は『あなたに夢中』。そして百八輪は――『結婚してください』です」
「ひゃ、百八輪!?」
「プロポーズ用として有名ですね」
「多すぎません!?」
「愛が重いんでしょうね」
真顔で言われ、思わず吹き出しそうになる。
「これだけでも大変なのに、まだ種類があるんですの?」
「もちろんです。黄色は友情、白は尊敬……というように、色でも意味が変わります」
「面白いですわね」
「ですが、やはりバラといえば愛の象徴ですから。恋人同士では赤が定番ですね。他の色は、友人や家族へ贈ることが多いです」
「友人向けもあるのですね!」
私はぱっと顔を上げた。
「それなら、イリスとリラにも贈ってみたいですわ!」
「お二人というと、あのご友人ですね?」
「ええ!」
私が力強く頷くと、王子は少し考え込むように顎へ手を当てた。
そして、すぐに笑顔になる。
「それなら、お二人にぴったりの組み合わせがありますよ」
◇◇◇
数日後。
私は王子と一緒に選んだ花束を、リラとイリスへ手渡していた。
「えっ!? ベルから贈り物!?」
「これは……黄色いバラでしょうか?」
二人は珍しそうに花束を見つめる。
「ただのバラではありませんわ」
私は胸を張った。
「色だけではなく、本数にも意味がありますの!」
「本数?」
「一、二、三……八本?」
「そう! 八輪の黄色いバラですわ!」
「……それって、どんな意味なの?」
その質問を待っていましたわ!
私は得意げに咳払いをした。
「黄色いバラの花言葉は『絆』『信頼』『元気』」
「そして八本の意味は――『感謝』ですわ!」
「つまり、『あなたとの絆を大切に思っているし、いつも支えてくれてありがとう』という意味ですの!」
二人は目を丸くしたあと、どこか照れくさそうに花束を抱きしめた。
「ベル……ありがと」
「直接言われると、少し照れますね」
「ていうか、花言葉って“言葉にできない気持ち”を伝えるためのものでしょ? ベル、自分で全部説明しちゃってるじゃん」
「……うっ」
確かにその通りですわね……!?
「でも、すごく嬉しいよ」
「ええ。私たちのために選んでくださったと思うと、なおさら」
二人の笑顔を見ていると、なんだかこちらまで照れくさくなってくる。
……ですが。
たまには、こうして素直に気持ちを伝えるのも悪くありませんわね。
……まあ、ミュゲ王子には少しくらい感謝してあげてもいいでしょう。
“ぽっちゃり弱虫王子”という呼び名は撤回しますわ。
これからは――
“ぽっちゃり弱虫スマート王子”ですわ!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。今回もラブ要素少なめでごめんなさい。




