第七話 デートのお誘い
第七話です!よろしくお願いいたします。
数日後、私はお父様に呼び出された。
「お父様、私にお話とは何ですの?」
「実はな。明日からお前の花嫁修業が始まるのだ」
「花嫁修業?」
「ああ。王子との婚約が決まった以上、お前には王子の妻として相応しい教養と振る舞いを身につけてもらわねばならん。王宮で礼儀作法や社交術を学ぶのだ」
「そんなもの必要ありませんわ。私は十分上品な女性ですもの」
「……上品だと?」
お父様が深々と頭を抱えた。
「先日の件は既に私の耳に入っている。お前が『顔が気に入らない』と王子の頬を叩き、その後、屋敷へ来てくださった王子にも暴言を吐いたとな」
話がかなり誇張されていますわ!
たしかに叩きましたし、少々強い言葉を使ったのは事実ですが……!
「そんなお前に対して、王子は怒るどころか、改めて婚約を申し込んでくださったそうではないか」
そ、それには色々事情がありまして……。
お父様は王子の“本性”をご存じないようですが……。
「お父様……確かに婚約はしましたが、本当に結婚するかどうかは――」
「何だと!?」
お父様の怒声が部屋に響いた。
「お前はあれだけ無礼を働いておきながら、まだ結婚する気になれないと言うのか! 言っておくが、こちらから破談にするなど絶対に許さん! そんな非礼、ベルフルール家の恥だ!」
「そ、そんなあ……!」
「分かったなら、さっさと王宮へ向かう準備をしなさい!」
こうして私は、王宮で花嫁修業を受けることになった。
とはいえ、王宮に住み込むわけではない。
朝に屋敷を出て、夕方には帰宅する。
習い事のようなものだと思えば、そこまで悪くない――
……そう思っていた時期が、私にもありましたわ。
◇◇◇
「右! 左! 右!」
右足、左足、右足!
「右! 右! 左!」
右足、右足、左足!
「下を向かない! もっと軽やかに歩くザマス!」
ではここで問題です。
この高貴なる私が、朝から何をさせられているでしょうか。
答えは――ダンスのお稽古ですわ。
「ベルフルール嬢! そこは右足ザマス!」
何度も同じ動きを繰り返させられ、もうどちらが右なのか分からなくなってきた。
そもそも、右とは何でしたっけ?
「右! 左! 右!」
右足、左足、右足!
「左! 左! 右!」
左足、左足、左――
「違うザマス! そこは右足ザマス!」
右!?
右ってどっちですの!?
「ああもう限界ですわ! 足が動きません!」
私はついに、その場へ崩れ落ちた。
「立つザマス、ベルフルール嬢! 王子の妻がこの程度で倒れていては、国が滅びるザマス!」
ならばいっそ滅ぼして差し上げますわ!
この私の手で!
「おやおや、ベルフルール嬢。そこはベッドではありませんよ?」
聞き覚えのある声に、私は勢いよく顔を上げた。
「ミュ、ミュゲ王子……!」
扉にもたれかかるように立っていたのは、私の婚約者――ミュゲ王子だった。
「稽古は順調ですか?」
「ええ、とても順調ですわ」
「そうですか? そのようには見えませんが」
……ああ。
この感じ、“表向きモード”ですわね。
「あらミュゲ王子。どうしてこちらへ?」
「僕の可愛い婚約者が来ていると聞いてね。顔を見たくて飛んできたんだ」
可愛い婚約者ですって!?
よくもまあ、そんな歯の浮く台詞をスラスラと……!
「まあまあ、なんと仲睦まじいことで」
「だから少し、彼女をお借りしても構いませんか? 話したいことがあるんです」
「王子のお願いならもちろんザマス。ベルフルール嬢も少々お疲れのようですし、お稽古は午後から再開するザマス」
た、助かりましたわ……!
この地獄のようなお稽古から解放です!
「それではベルフルール嬢。こちらへ」
王子はそう言って、私へ手を差し伸べた。
「し、仕方ありませんわね。まだ稽古を続けたかったのですが、王子のお誘いでは断れませんもの」
私はわざとらしくツンとしながら、その手を取った。
……先日の件を思い出して、少し胃が痛い。
王子に案内されて辿り着いたのは、広大な庭園だった。
私の屋敷にも立派な庭はあるが、それに負けないほど美しい。
中央には白いテーブルと椅子が置かれ、その傍にはジャスマンの姿もあった。
「どうぞ、お座りください」
「あ、ありがとうございます」
椅子へ腰掛けた瞬間――王子が深く息を吐いた。
そして次の瞬間、背筋から力が抜ける。
視線が下がり、肩が小さく縮こまった。
……戻りましたわね。
「す、すみませんでした……勝手に連れ出してしまって…………」
完全に“素”の王子である。
「いえ、お気になさらず」
「稽古は大変そうだったので、少しでも休めればと思ったのですが……まさか、まだ続けたかったなんて…………すみません……」
「え…………」
私は思わず目を瞬いた。
手を取る時に言った言葉を、こんなに真に受けていたなんて。
「あ、あの……違うのです」
私は慌てて説明した。
本当は稽古から逃げ出したいくらい嫌だったこと。
助けてもらえて嬉しかったこと。
けれど先日の件を思い出して、つい意地を張ってしまったこと。
王子は真剣に耳を傾け、やがてほっとしたように胸を撫で下ろした。
「そ、そうだったのですね……僕はてっきり、嫌われたのかと……」
「そんなことはありませんわ」
その言葉に、王子の表情がぱっと明るくなる。
……本当に分かりやすい人ですわね。
「それで? お話というのは?」
「……へ?」
「私に何かご用があったのでしょう?」
「あ、ええと…………」
王子は肩を縮め、もじもじと指を絡め始めた。
なんだか小動物のようで、少し可愛い。
……いえ、かなり大きいのですが。
「実は…………」
そう言って、ちらりとジャスマンを見る。
ジャスマンが小さく頷いた。
すると王子は俯きながら、小声で呟く。
「ちょっと……一緒に過ごしたくて…………」
「え?」
「よかったら…………お花を見ながら、お話でも……って…………」
「ええと、それはつまり…………」
「デートのお誘いです」
私が聞き返すより早く、ジャスマンがきっぱりと言い切った。
「……は?」
デート……ですって?
――いえ、まず何故あなたが代わりに答えるのですか!?
ラブよりもコメディーが強くなってしまいました。これから少しずつラブ要素も増やしていけたらと思います。




