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第二話 まだ終わっていない

第二話です。よろしくお願いします。

宿へ戻ってから、一日が経った。


しかし――ベルフルール様は、未だに目を覚まさない。


「……大丈夫でしょうか」


眠り続けるベルフルール様を見つめながら、私は不安を口にした。


「きっと大丈夫です」


隣にいたミュゲ王子が、優しく頷く。


「今は身体が休息を必要としているだけですよ」


「そう……ですよね」


そう言われても、不安な気持ちは消えなかった。


ようやく再会できたのだ。

五年もの間、ずっと探し続けていたベルフルール様。


もう二度と会えないかもしれないと思っていた。

だからこそ、こうして目の前にいることが、今でも夢のように感じられる。


その時だった。


「ん……」


「……!」


微かに声が聞こえた。

ベルフルール様の指が動く。


「ベルフルール様……?」


そして、ゆっくりと瞼が開いた。


「っ……!」


「ベルフルール様!」


私たちは一斉に駆け寄った。

ベルフルール様はまだぼんやりとした様子で、ゆっくりと私を見る。


「……スリジエ?」


「はい!」


私は思わず笑顔になる。


「私です!スリジエです!」


「……本当に?」


「はい!」


声が震えそうになる。


「ベルフルール様を探して、ここまで来たんです」


「そう……」


ベルフルール様はしばらく私を見つめたあと、ふっと微笑んだ。


「……よく来てくれたわね」


「ベルフルール様……!」


胸の奥が熱くなる。


ようやく――

ようやく、いつものベルフルール様と話すことができた。


しかし、彼女はふと何かを思い出したように尋ねる。


「……梅之助は?」


「ご安心ください」


私はすぐに答えた。


「今は安全な場所にいます。もう追ってくることもないはずです」


「そう……」


ベルフルール様は小さく息を吐いた。


「よかった……」


「……」


「スリジエ。色々と……ごめんなさいね」


「そんな!」


私は首を横に振る。


「謝らなくていいんです」


「でも……」


「今はご自分のお身体のことだけを考えてください」


私は優しく笑った。


「こうして生きていてくださった。それだけで十分です」


「……ありがとう、スリジエ」


ベルフルール様がそう言った時だった。

ミュゲ王子が、私の肩をそっと叩いた。


「……?」


何だろうと思って彼を見る。

するとミュゲ王子は、ベルフルール様の向こう側にいる椿へ視線を向けた。


「……あ」


ようやく意味を理解した。


ベルフルール様と椿。

二人は一年もの間、離れ離れになっていた。


今はきっと、二人だけで話したいことがたくさんあるのだろう。


「ベルフルール様。私たちは少し外へ出ていますね」


「え……?」


「ごゆっくりお話しください」


私はそう言って、ミュゲ王子と共に部屋を出た。


ふすまを閉める直前――

椿がベルフルール様の手を、そっと握るのが見えた。


その光景に、私は思わず微笑んだ。


「ミュゲ王子」


「はい?」


「流石です。気が利くお方ですね」


「ははは。何しろ、一年越しに再会した恋人ですから」


「……私は五年ぶりなのですが」


「……」


「何か?」


「い、いえ。何でもありません」


ミュゲ王子が微妙な顔をする。

私は少しだけ頬を膨らませた。


「恋人というものは、時には友人よりも大切になるものですからねー」


「いや、スリジエ。それは……」


「何です?」


「いえ、確かに…………そう言うときもあるのですが」


「まあ」


私は笑いながら言う。


「その言葉、ジャスマン様に聞かれたら悲しみますよ?」


「え?」


その瞬間――

上から何かが落ちてきた。


「ぐすん……」


「……」


私たちが顔を上げる。

すると、屋根裏から逆さまにぶら下がったジャスマンが、悲しそうな顔でこちらを見ていた。


「ミュゲ王子……」


「ジャスマン!?」


「私のことなど……どうでもいいと?」


「ち、違う!ジャスマン、そういう意味じゃ――」


ジャスマンはハンカチで涙を拭う。


「……ぐすん」


そして次の瞬間。



シュッ。



「え?」


まるで忍者のように、あっという間に屋根裏へ消えてしまった。


「ジャスマン!?」


ミュゲ王子が天井を見上げる。


「ち、違う!これは違うんだ!」


しかし返事はない。

ミュゲ王子はしばらく天井を見つめたあと、冷や汗を浮かべながら私を見る。


「……怒ってしまったでしょうか」


「ふふふっ」


私は思わず笑ってしまった。


「大丈夫ですよ。きっとジャスマン様も分かっています」


「そ、そうですよね……?」


ミュゲ王子は安心したように胸を撫で下ろした。


 ――その時だった。


 私はふと、あることを思い出した。


「……ミュゲ王子」


「はい?」


「実は……まだ一つ、問題が残っているんです」


「問題?」


ミュゲ王子が首を傾げる。


「取り出した魂を、それぞれ元の身体へ戻すことですか?」


「それもあります」


私は少し迷ってから、首を横に振った。


「でも……それだけではありません」


「……?」


「ベルフルール様と私の魂です」


その言葉に、ミュゲ王子の表情が固まった。


「あ……」


「そうなんです」


私は自分の胸元に手を当てる。


「私とベルフルール様の魂は、まだ元に戻っていません」


「……確かに」


ミュゲ王子が額に手を当てる。


「すっかり忘れていました……」


「私もです」


思わず苦笑してしまう。

ここ数日は、あまりにも色々なことが起こりすぎた。


ベルフルール様の発見。

ポンセの人格。

梅之助からの逃走。

椿との再会。


そして、魂を取り出す術。


本来の目的が何だったのか、一瞬分からなくなってしまうほどだった。


「ですが……」


私は不安そうに呟く。


「椿様にお願いしようにも、まだ体力が戻っていません」


「……」


「このまま時間が経ってしまったら……」


私は胸元を握りしめる。


「本当に、私の魂とベルフルール様の魂が、この身体と一体化してしまうのではないでしょうか」


考えれば考えるほど、不安が膨らんでいく。


もしそうなってしまったら――。


私はもう、元の身体へ戻れない。

ベルフルール様も同じだ。


「……そんなことは、させません」


「え……?」


ミュゲ王子が、まっすぐ私を見る。


「絶対に、そんなことはさせません」


その声には、いつもの穏やかさとは違う強い意志が込められていた。


「椿さんが今すぐ術を使えないのなら、別の方法を探します」


「ですが……」


「僕たちはここまで来たんです」


ミュゲ王子は私の手を優しく握った。


「あと少しですよ、スリジエ」


「……」


「だから、心配しないでください」


その言葉を聞いて、私は小さく頷いた。


「……ありがとうございます」


それからしばらくして。


私たちは、ベルフルール様と椿の待つ部屋へ戻った。

ふすまを開ける。


「お待たせしました」


部屋の中には、穏やかな表情で向かい合う二人の姿があった。


ようやく取り戻した、大切な人との時間。

その光景を見て、私は胸を撫で下ろす。


けれど――。


私自身の問題は、まだ何一つ解決していない。


私とベルフルール様の魂が元に戻る日は、果たしていつになるのだろう。

今回もお読みいただきありがとうございました。短編ですが、ホラー&奇妙な作品を書いてみましたので、是非そちらもご機会があればお読みいただけると嬉しいです。

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