第二十六話 絶望を焼き尽くせ!
第二十六話です。よろしくお願いします。
「っ……馬鹿なこと言わないで!」
彼女は勢いよく私の手を振り払った。
「この状況でどうやって助かるっていうの?」
「これから私を支えるですって?」
「ここで生き延びられなければ、全部絵空事じゃない」
私は真っ直ぐ彼女を見つめる。
「だったら、一つ約束して」
「約束?」
私は庶民だった頃の自分として、彼女に向き合った。
「ここを生きて出られたら――もうベルフルール様を苦しめないで」
彼女は鼻で笑う。
「つまり、この体に残っている私は消えろってこと?」
「違う」
私はゆっくり首を振った。
「あなたを消したいんじゃない。あなたの魂を、本当の体へ返したいの」
その言葉に、彼女の笑みが消える。
「……何ですって?」
「椿様の術ではうまくいかなかったけど、この国にはもっと優れた術師がいるかもしれない」
そして私は断言した。
「必ず探す。そして、あなたを元の体へ返す」
彼女は呆れたように笑った。
「夢物語ね」
「そうかもしれない」
私は頷く。
「でも私は、諦めない」
しばらく黙っていた彼女は、小さく肩をすくめた。
「……いいわ。もし本当に生き延びたら、その約束、信じてあげる」
あまりにも素直な返事だった。
思わず戸惑う。
「……本当に?」
「ええ」
彼女はくすりと笑う。
「でも」
そう言って周囲へ視線を向けた。
「残念だったわね」
私は振り返る。
兵士たちが、もうすぐそこまで迫っていた。
何十本もの槍が、月明かりを反射して光っている。
逃げ道はない。
「あなたの考えは嫌いじゃないわ。本当に叶うかもしれないって、一瞬だけ思った。でも…………」
彼女の顔が一瞬曇る。
「もう遅い」
私は拳を握る。
本当に?
本当にここで終わる?
そんなはずがない。
ようやく見つけたのだ。
私の帰る場所を。
家族。
友達。
恋人。
もう二度と失いたくない。
私はゆっくりとミュゲ王子を見る。
王子は剣を構え、私たちを守るように立っていた。
その背中を見た瞬間、不思議と恐怖が消えていく。
「……いいえ」
私は一歩前へ出た。
「私たちは、ここでは終わらない」
足元に落ちていた木の棒を拾う。
兵士たちが笑った。
「棒一本で何をする気だ」
「降伏しろ!」
私は答えない。
ただ、棒を強く握る。
――お願い。
間に合って。
私は棒を兵士たちの足元へ思い切り投げつけた。
兵士たちの視線が、一瞬だけそちらへ集まる。
その瞬間だった──
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!」
夜空に響く大きな声。
直後、
ボウッ!!
炎が地面を走り、一瞬で兵士たちを包み込んだ。
「うわあああ!」
「火だ!」
「逃げろ!」
大混乱に陥る兵士たち。
「ミュゲ殿!スリジエ殿!ベルフルール殿!」
「無事でござるか!」
炎の向こうから楓が飛び出してきた。
その後ろには、椿を背負ったジャスマンの姿もある。
「間に合いました」
ジャスマンが静かに微笑む。
「楓様!ジャスマン様!」
思わず駆け寄る。
そしてミュゲ王子が、ジャスマンの背中にいる男性を見ながら聞いた。
「あなたが……椿様」
「そうでござる」
楓が嬉しそうに頷く。
「椿殿の術で火を起こしてもらったのでござるよ!」
すると椿はゆっくり私たちを見回し、最後にベルフルール様へ目を向けた。
「ああ……」
苦しそうに目を細める。
「また、お前か」
ベルフルール様の口元が歪む。
「悪かったわね。愛しのお姫様じゃなくて」
「……いや」
椿は静かに首を振った。
「お前を責める資格は、俺にはない」
彼はどこか苦しそうに答える。
「元はと言えば……全部、俺の――」
言葉の途中で力尽き、そのまま意識を失った。
「椿様!」
ジャスマンが支える。
楓が顔をしかめた。
「長い間、地下牢にいたのでござるかなり体力を消耗しているはずじゃ」
ミュゲ王子は周囲を見渡した。
「ここも長くはもちません。敵はすぐに立て直して追ってくるでしょう」
「ミュゲ王子の言う通りです。椿様は私がしっかり担いでいきますので、急ぎましょう」
全員が頷く。
私たちは炎の中にできたわずかな隙間を駆け抜け、夜の村を目指して走り出した。
もうそろそろこの章も終わりに入ります。




