第二十三話 天井裏のジャスマン
第二十三話です。今回も是非お読み下さい。
朝を迎えても、私たちは解放されることはなかった。
与えられるのは最低限の食事だけ。
部屋の外へ出ることも許されず、ただ時間だけが過ぎていく。
昼が過ぎ、夕暮れになり、また夜が訪れる。
「参ったでござるな……」
楓が大きくため息をついた。
「まったく身動きが取れませんね」
ミュゲ王子も困ったように微笑む。
けれど、その笑顔にも疲れが見え始めていた。
私も同じだった。
ベルフルール様はどうしているのだろう。
椿様はご無事なのだろうか。
何も分からない。
それが何よりも苦しかった。
そして、また朝が来る。
「もーーう!限界でござる!」
楓が勢いよく立ち上がる。
「拙者たちは客でござるよ!あまりにも扱いが酷すぎるでござる!」
そう叫ぶと、思い切り戸を蹴飛ばした。
ドン!
しばらくすると、戸の向こうから低い男の声が返ってくる。
楓は耳を澄ませ、険しい顔で戻ってきた。
「何と……?」
私が尋ねる。
「『お前たちが武器商人でないことは分かっている。処分を決めている最中だ。死罪にならぬよう祈っていろ』……だそうでござる」
部屋の空気が凍りつく。
「つまり……」
「正体は、すべて見破られていたということですね」
ミュゲ王子が静かに呟いた。
「申し訳ありません……」
私は俯く。
「やはり私のせいで……」
「いいえ」
ミュゲ王子は優しく首を振った。
「誰のせいでもありません。今は自分を責めるより、この状況をどう切り抜けるかを考えましょう。」
「じゃが……」
楓も腕を組む。
「策を立てようにも、この部屋から出られぬのでござる」
誰も言葉を続けられなかった。
それから数時間後。
夕日が沈み、部屋が薄暗くなり始めた頃だった。
コン……コン。
かすかな音が聞こえる。
「……?」
私は顔を上げた。
「今、何か聞こえませんでしたか?」
「いいえ?」
「拙者には聞こえなかったでござる」
気のせいだろうか。
そう思った、その時。
コン、コン。
今度ははっきり聞こえた。
私は天井を見上げる。
「上……?」
すると。
「ミュゲ王子、スリジエ様、楓様」
聞き慣れた落ち着いた声が降ってきた。
「聞こえますか?」
天井板がゆっくりと持ち上がる。
現れた人影を見た瞬間、私は思わず声を上げた。
「ジャスマン様!」
「ジャスマン!」
天井裏から軽やかに飛び降りた彼は、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべていた。
「お待たせいたしました。」
深々と一礼する。
「侵入経路を探すのに少々時間がかかってしまいました」
「助けに来てくれたのだな」
「もちろんです」
ジャスマンは迷いなく答える。
「私はミュゲ王子の執事ですから」
その一言だけで、胸の中の不安が少し消えた。
楓はすぐに戸へ近づき、外の様子を探る。
「大丈夫でござる。見張りに動きはないでござる」
「では、このまま天井裏を進みましょう」
ジャスマンが小声で言う。
「ベルフルール様と椿様のお部屋は、すでに確認しております」
流石ジャスマン。まるで本物の忍者のようだ。
「お二人を救出し、夜明け前に城を出れば気付かれずに済むはずです」
「ありがとう、ジャスマン」
ミュゲ王子が力強く頷く。
「急ぎましょう」
私たちは天井裏を静かに進み始めた。
やがて、一つの部屋の真上で足を止める。
「この真下です」
ジャスマンが小さく囁いた。
「ベルフルール様がおられるお部屋は」
胸が大きく高鳴る。
ミュゲ王子が私を見る。
「スリジエ」
「あなたが行ってあげてください」
「私が……」
「ええ」
王子は優しく微笑んだ。
「僕たちはベルフルール様とは初対面です」
「ですが、あなたならきっと一番安心させてあげられる」
その言葉に、私は静かに頷いた。
五年。
長かった。
本当に、長かった。
ベルフルール様は、今どんな顔をしているのだろう。
私のことを覚えていてくださるだろうか。
それとも……。
いや。
どんな姿になっていても。
どんなにつらい思いをしていても。
私は必ず、この人を救い出す。
そう心に誓い、私は静かに天井板へ手を掛けた。
そして――
意を決して、ベルフルール様の待つ部屋へ飛び降りた。
お読みいただきありがとうございました。第三章は思ったよりも長くなってしまいますが、すみません。




