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第二十二話 悪女の演技

第二十二話です。よろしくお願いいたします。

「上様。お連れいたしました」


しばらくして、襖が静かに開いた。

二人の家臣に腕をつかまれ、一人の女性が乱暴に広間へ連れて来られる。


「っ……!」


思わず息を呑んだ。


ベルフルール様……。


頬はやつれ、美しかった髪さえも艶を失っている。

両手は縄で縛られ、そのまま床へ投げ出されるように倒れ込んだ。


胸が締め付けられる。

こんな姿になるまで、一年間も……。


「ほう」


梅之助は私とベルフルール様を見比べ、愉快そうに笑った。


「どうやら、確かにお前はスリジエではなく、ベルフルールだったようだな」


その声に、ベルフルール様がゆっくりと顔を上げる。


そして――


「っ……!」


目が合った。


間違いない。

ベルフルール様も私だと気付いている。


会いたかった。


ずっと。


この五年間、どれだけこの日を夢見たことか。


「ベルフルール様……!」


そう叫びたかった。


駆け寄って抱き締めたかった。


「ご無事で良かった」と涙を流したかった。


けれど――。


ここで知り合いだと知られれば、私たちまで捕らえられる。

ベルフルール様を助けるどころか、全員が終わってしまう。


私は震えそうになる拳をぎゅっと握り締めた。


どうか……。


今だけは。

耐えてください。


私は何事もなかったかのように梅之助へ向き直る。


「これほどまでに私と似ているとは」


静かに頭を下げる。


「梅之助様がお疑いになられたのも、無理はございません」


「刀を向けられたことを恨んではおらぬのか?」


「もちろんでございます」


私は穏やかに微笑む。


「疑いが晴れたのですから、それで十分でございます


梅之助は興味深そうに顎へ手を当てた。


「では、この女とは知り合いではないのだな?」


私はもう一度ベルフルール様を見る。


ベルフルール様も、何も言わず私を見つめていた。


助けたい。

今すぐに。


それでも──

私は笑みを崩さなかった。


「いいえ」


小さく首を振る。


「まったく存じ上げません」


「ほう……」


梅之助の目が細くなる。


「ですが」


私は一歩前へ出た。


「思い当たることはございます」


その一言に、ミュゲ王子と楓が同時にこちらを見た。


――何を言うつもりなのですか。


そんな視線だった。


大丈夫。

私には考えがある。


「フィザリス王国では、新兵器の開発と並行して、ある研究を進めておりました」


「研究?」


「人体実験でございます」


広間がざわついた。

梅之助の眉が動く。


「ある薬を使い、人の顔を変える研究です」


「顔を変えるだと?」


梅之助は鼻で笑った。


「そんな馬鹿げた話を、誰が信じる」


「信じられないのも当然です」


私は冷静に続ける。


「私も、この顔になるまでは信じておりませんでした」


広間の全員が耳を傾ける。


「ですが、その薬は未完成でした」


私はベルフルール様へ視線を向ける。


「薬を投与された者は、皆、同じ顔になってしまったのです」


梅之助の目がわずかに見開く。


「つまり……」


「この女も、その被験者の一人なのでしょう」


私は淡々と続けた。


「私は王国の命に従い、今も働いております」


「しかし、中には自分の顔を失ったことに耐えられず、逃げ出した者もおりました」


私は冷たくベルフルール様を見下ろす。


「この女も、その一人かと」


そして私は静かに言い切る。


「ですので、私には関係のない者でございます」


胸が痛い。

ごめんなさい、ベルフルール様。


私はあなたを守るために、今だけは悪女になります。


広間は静まり返っていた。


やがて──


「……ふっ」


梅之助が笑う。

その笑いは次第に大きくなり――


「ふははははは!」


豪快な笑い声が広間中へ響き渡った。


「なるほど!」


梅之助は満足そうに頷く。


「そういうことか!」


食いついた。

私は心の中で安堵する。


「その薬にも興味が湧いたぞ」


梅之助は目を輝かせた。


「新兵器と共に、その薬も取引してもらえるのだな?」


――成功した。


そう思った。


だが同時に、胸の奥がざわつく。

あまりにも簡単に信じすぎている。


何かある。

何か、見落としている。


そんな拭えない不安を抱えたまま、私たちは別室へ案内されるのだった。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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