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第十話 家族

ついに第十話まで書き進めることが出来ました。ありがとうございます。

「スリジエ……」


勢いよく扉が開く音がした。


と思った次の瞬間。


 

バタン。

 


何故かまた閉まった。


 

「……?」

 


私は首を傾げる。


「今のは……」


「マルグリット公爵のような気がしましたね」


ミュゲ王子も不思議そうな顔をしている。

二人とも、つい先ほどまで抱きしめ合っていたことを思い出し、思わず顔を見合わせた。


 

その時だった。



コンコン。


 

今度は控えめなノックの音が響く。


「スリジエ、起きているのか?」


旦那様の声だ。


「入ってもよいかな」


「は、はい!」


思わず声が裏返った。

ミュゲ王子も慌てて一歩下がる。


 

すると扉がゆっくり開いた。

 

顔を覗かせた旦那様は、何故か少し頬が赤い。


「今度は大丈夫そうだな」


ぼそりと呟く。


「?」


意味が分からず首を傾げると、旦那様はわざとらしく咳払いをした。


「いや、何でもない」


そう言いながら部屋へ入る。

そして椅子に腰を下ろした。


その直後だった。



「スリジエ!」


 

後ろから飛び込んできた人物に、私は目を見開いた。


 

「お、奥様……!」


 

奥様だった。



「スリジエ、大丈夫なの!?」



「はい、私は――」


 

言い終わる前に強く抱きしめられる。


「良かった……」


震える声だった。


「本当に良かった……」


肩に温かい雫が落ちる。


泣いているのだ。


奥様が。

私のために。

 


「奥様……」

 


「ごめんなさいね」



「え?」


 

「あなたが一人で苦しんでいたのに、何も気付いてあげられなかった」


 

胸が締め付けられる。


「そんな……」


「ごめんなさい」


私は首を横に振った。

謝るべきなのは私の方だ。


私はずっと皆を騙していたのだから。


「私はベルフルール様ではないのに」


声が震える。


「皆様を騙していたのに」


「それがどうしたの?」


あまりにもあっさり言われて、私は目を瞬いた。


「え……」


奥様は私の頬を優しく撫でる。


「あなたが誰であろうと関係ないわ」


「ですが……」


「血が繋がっていなくても」


「……」


「身分が低くても」


「……」


「あなたは大切な家族よ」


息が止まった。


「この五年間」


お母様は涙を浮かべながら笑う。


「私はずっとあなたと過ごしてきたわ」


「奥様……」


「一緒にお茶を飲んで」


「はい……」


「お話をして」


「はい……」


「笑い合って」


涙が止まらない。



「私が愛した娘は確かにいたの」


 

「っ……」


 

「それがベルフルールだったのか、スリジエだったのかなんて関係ないわ」


奥様は私を抱き締めた。



「だって私は、ずっとあなたを愛していたんだもの」


 

堪えていた涙が溢れ出した。


「奥様……!」


私は奥様にしがみつく。

そんな私の髪を優しく撫でながら、奥様は微笑んだ。


「奥様ではなくて、お母様でしょ?」


「え…………」


「お母様って呼んで、いつもみたいに」


「お、お母様…………」


「ふふふっ、それでよろしい」


お母様は心から優しい笑顔を向ける。


 

「そういえばね」


急にお母様がうつむいた。



「昔、もう一人娘が生まれるはずだったの」


 

私は顔を上げた。


 

「ベルフルールの妹になるはずだった子よ」



静かな声だった。


「その子に付ける予定だった名前がね」


お母様は優しく笑う。



 

「スリジエだったの」



 

私は目を見開いた。 


「ベルフルールもその話を知っていたわ」


「そうだったんですね……」


「だからかもしれないわね」


お母様が私の頭を撫でる。


「ベルフルールがあなたを大切にしていた理由」


胸が熱くなる。



「きっと最初から家族だと思っていたのよ」


 

私は声を失う──


その時だった。



「私も同じだ」



旦那様が立ち上がった。

ゆっくりとこちらへ歩いてくる。



「旦那様……」


 

「お前がベルフルールではないと知った時」


旦那様は苦しそうに目を伏せた。


「正直、受け入れられなかった」


私は俯く。


当然だ。

そう思った。



だが。



「しかしな」


 

旦那様は私の頭に手を置いた。

大きくて温かい手だった。


「よく考えたんだ」


「……」


「五年間、私を父と呼び」


「……」


「妻を母と呼び」


「……」


「この家を支えてくれたのは誰だったのか」


涙で視界が滲む。



「それはお前だ」

 


「お父様……」


 

思わずそう呼んでいた。


旦那様の目が少しだけ見開かれる。


そして優しく微笑んだ。



「これからも娘でいてくれないか」


 

その言葉で。

私は完全に泣いてしまった。


 

「はい……!」



声が震える。


 


「はい、お父様……!」


 


旦那様は私たちを包み込むように抱き締めた。


お母様も。

お父様も。


温かかった。


ずっと欲しかったものが、ここにあった。


私は声を上げて泣いた。


子供のように。

今まで我慢していた全てを吐き出すように。


 

ふと顔を上げる。


 

少し離れた場所で見守っていたミュゲ王子と目が合った。


彼は優しく微笑んでいた。

その瞳には、かすかな涙が浮かんでいる。


まるで自分のことのように。

私の幸せを喜んでくれているように。



その笑顔を見て、私は改めて思った。


 

私はもう一人じゃない。

 


家族がいる。


 

そして――

 


愛する人も。


今回もお読みいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。

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