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第六話 再会と決別

第六話です。少し表現が難しくて変な文章でしたらごめんなさい。

どれほど歩いただろうか。


気が付けば、私は先ほど逃げ出してきた屋敷の前に立っていた。


高い門。

見慣れた石壁。


まるで最初から帰って来ることが決まっていたかのようだった。



「帰って来たんですね」



聞き慣れた声に顔を上げる。


グリシーヌが門の前に立っていた。


まるで私を待っていたかのように。


 

「……」


 

何も言えない。


「帰ってくると思いましたよ」


穏やかな笑み。

それが今は妙に癪に障った。


「私が逃げ出すことを分かっていて、あえて見逃したのですか」


「どうでしょう」


「ミュゲ王子と会わせるために?」


グリシーヌの笑みが僅かに深くなる。


否定しない。

それだけで十分だった。



ああ、そういうことか。



最初から私を逃がすつもりだったのだ。


そしてミュゲ王子と再会させる。

その上で、私自身に思い知らせるために。



私があの人の元へ行くべきではないのだと。


 

「私の負けです」


 

ぽつりと呟く。


「おや」


グリシーヌが首を傾げた。


「初めから勝負などしていましたっけ?」


「さあ、どうでしょう」


私は彼の言葉をそのまま返した。


グリシーヌは小さく笑う。


「少なくとも、あなたは正しい選択をしました」


「……そうですか」


もう反論する気力もなかった。


肩を抱かれる。


以前なら振り払おうとしただろう。

けれど今は、その気力すら残っていなかった。


私は大人しく彼に連れられ、部屋へ戻った。

 


◇◇◇


その日から私は、まるで抜け殻のようになった。


窓の外を見ることもなくなった。

逃げ出そうと考えることも。


未来を思い描くことも。


何もかも。

ただベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめる。


時折召使が食事を運んでくるが、ほとんど手を付けなかった。

心配そうな顔をされても、何も感じない。


ミュゲ王子のことを思い出すと、胸が締め付けられる。


けれど、これでいいのだ。


あの人の隣に立つべきなのはベルフルール様であって、私ではない。


私は最初からそこにいるはずのない人間だった。


ベルフルール様のことも。

ミュゲ王子のことも。

グリシーヌのことも。


もうどうでもよかった。


何も考えたくない。

何も感じたくない。


ただ眠っていたい。


私はもう十分頑張った。

十分すぎるほど頑張った。


 

だから――


 

少しだけ。

少しだけ休ませて……。



◇◇◇


「それは誠ですか、ミュゲ王子!」


「はい。間違いありません」


ベルフルールの屋敷。

ミュゲ王子はマルグリット公爵へ、ベルフルールと再会したことを話していた。


「それで、娘は……」


公爵が身を乗り出す。

その顔には期待と不安が入り混じっていた。


「私に一つ質問をした後、走り去ってしまいました」


「そんな……」


公爵の肩が落ちる。


「申し訳ございません。あと少しで追いつけそうだったのですが……」


ミュゲ王子は悔しそうに拳を握った。


ベルフルールは確かにそこにいた。

手を伸ばせば届く距離に。


それなのに、捕まえることができなかった。


「ミュゲ王子」


公爵が静かに尋ねる。


「娘は何と?」


ミュゲ王子は一瞬迷った。

だが、隠しても意味はない。



「あなたは今の立場を捨ててでも、私と共に逃げることを選んでくれますか、と」


 

「……」


公爵が眉をひそめる。


「私にも意味が分かりません」


ミュゲ王子は首を振った。


「あの時のベルフルール嬢は、何かに追い詰められているように見えました」


「追い詰められている……」


「はい」


思い出す。


泣き出しそうな顔。

何かを諦めたような笑顔。



そして──



『あなたは何も悪くありません』


 

そう言い残して去っていった姿を。


 

「あれは助けを求める人間の顔でした」


「っ…………!」


公爵が目を見開く。


「助けを……」


「ですが、何から助ければいいのか分からないのです」


部屋に重い沈黙が落ちた。


彼女は生きている。

だが、自ら姿を隠している。


その理由が分からない。


「どうすれば……」


ミュゲ王子が呟いた、その時だった。



「あいつの居場所なら知ってますよ」



「っ!?」


 

突然聞こえた声に、二人は同時に振り返る。


開かれたバルコニーの柵の上に、一人の少年が立っていた。


「誰だ!」


護衛が剣に手を掛ける。


しかし少年は平然としていた。 


「覚えておいででしょうか、旦那様」


そう言うと、少年は柵からバルコニーへ飛び降りる。


軽い音と共に着地した。


「なっ……」


公爵が息を呑む。


「お前は…………」


少年は服の埃を払うと、真っ直ぐ二人を見た。



「はい、お久しぶりです。アドニスです」


今回もお読みいただきありがとうございました!

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