第五話 婚約解消へ
第五話です。よろしくお願いします。
こちらの都合で、一日に二作を掲載する場合がございますので、ご理解ください。
「それで? 一体どういうつもりなんです?」
「うちのベルに何か御用で?」
ベッドに腰掛ける私の傍らで、リラとイリスが腕を組み、鋭い眼差しで目の前の客人を睨みつけていた。
その客人とは――ミュゲ王子とジャスマンである。
「ふ、二人とも。まずはお茶でも…………」
「「ベルは黙ってて!」」
「は、はい……」
なぜか二人に言い負かされ、小さく肩を縮こまらせる私。
どうしてこんな状況になってしまったのか。
そして、なぜ王子たちがここにいるのか。
話は少し前に遡る。
◇◇◇
お茶会が終わった後、私は二人を見送るため、門の前まで足を運んでいた。
「それじゃあまたね!」
「また呼んでください」
「ええ、もちろんですわ。次はルイボスティーを用意しますわね」
和やかな空気の中、二人が馬車へ乗り込もうとした――その時だった。
「ん? あれは何かしら」
遠くから、一台の豪華な馬車がこちらへ近づいてくるのが見えた。
「ベル、あの紋章って…………」
イリスの言葉に、私は馬車へ視線を向ける。
そこに刻まれていたのは、見覚えのある紋章。
「王家の紋章…………」
その瞬間、嫌な予感が背筋を駆け抜けた。
ま、まさか……昨日の件で王様がお怒りに……!?
一気に心拍数が跳ね上がり、冷や汗が滲む。
「イリス…………まさかとは思うけれど、王子を叩いた罪で牢獄行きとかになったりしないわよね…………?」
「そうですね。牢獄行きにはならないと思いますよ」
「本当!? よかっ――」
「即、死刑でしょう」
「……………………」
「え…………?」
な。
な、な、な――
「何ですってええええええ!?」
全身から一気に力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。
「「ベル!」」
慌てた二人が、倒れかけた私を支えてくれた。
「二人とも…………今までありがとう…………こんな私に付き合ってくださって…………」
「ベル! しっかりして!」
「まだ死ぬと決まった訳じゃありませんから!」
「公開処刑されるくらいなら……いっそのこと、今ここで…………」
遠のく意識の中、私は震える声で言葉を絞り出す。
「迷惑、かけたわね…………でも、とても幸せでしたわ…………」
「ベル…………? ベル!!」
そして私は、そのまま意識を失った。
◇
「ベル! ベル!」
……誰かが私を呼んでいる。
どこか懐かしい声。
「ベル! ベル?」
ぼんやりとした意識の中、声だけが聞こえてくる。
「ベル。ベール。ベルト」
……ん?
「バール。バルーン。バルコニー」
ちょっと待ちなさい。
なんだか変な方向へ進んでいません!?
「バランス。パンプキン。パレード」
「ちょ! ちょっと待ちなさい!」
勢いよく体を起こすと、目の前には驚いた顔のリラとイリス、そしてミュゲ王子の姿があった。
「ベル! ようやく目が覚めたんだね!」
「急に倒れるから驚きましたよ!」
「イリスがベルの名前で遊んでいたのが、相当嫌だったみたいだね」
「寝ている間ならバレないと思ったのですが…………」
「え…………わ、私…………」
状況を理解できずにいる私へ、王子が穏やかに説明してくれる。
「僕たちの馬車を見た途端、あなたは気絶したんです」
「では、あの馬車は私を捕らえに来た訳ではなく…………?」
「と、捕らえる!?」
王子は目を丸くした。
「そ、それは…………私があなたを叩いてしまいましたので…………」
「本来なら、そうなっていたかもしれませんよ」
そう言いながら部屋へ入ってきたのは、水差しを持ったジャスマンだった。
「お水を用意しました。どうぞ」
「ありがとうございます」
差し出された水を一口飲み、私は改めて二人へ向き直る。
「それで、お二方は何故ここに…………」
しかし、私が最後まで言い切る前に――
「それで? 一体どういうつもりなんです?」
「うちのベルに何か御用で?」
再びリラとイリスが二人へ詰め寄った。
「婚約破棄について文句でも? 言っておきますけど、先に破棄しようとしたのはそちらですよ?」
「それとも、ベルがあなたを叩いたから? あなたみたいな弱虫王子には、あのくらいのビンタがちょうどよかったのでは?」
「ちょ、ちょっと! 二人とも落ち着いて!」
だが、二人の勢いは止まらない。
「ベルを傷つけたら、このリラが許しません!」
「私も何をするか分かりませんので、お気を付けください」
「ふ、二人とも。まずはお茶でも…………」
「「ベルは黙ってて!」」
「は、はい……」
私の制止など、まるで意味がなかった。
「一国の王子に向かって、なんという無礼な!」
ついにジャスマンも声を荒げる。
けれど――
「ジャスマン、落ち着きなさい」
王子の低く静かな声に、部屋の空気が張り詰めた。
「っ…………申し訳ありません……」
ジャスマンはすぐに口を閉ざし、肩を落とした。
王子は私たちへ向き直り、深々と頭を下げる。
「まずは、便りもなく突然押しかけてしまったことをお詫びします。申し訳ありませんでした」
あまりにも礼儀正しい態度に、思わずこちらも背筋を伸ばした。
「ベルフルール嬢に、どうしてもお伝えしたいことがあり、参りました」
「お話、でしょうか?」
「はい。本当はあなたにだけお話しするつもりでしたが……こちらのお二人は、先日お話しされていたご友人なのですね」
「ええ。大切な友人ですわ」
「でしたら、お二人にも同席していただいて構いません」
「当然です。私たちはベルの護衛ですから」
「下がれと言われても下がりませんよ」
「お前たち……!」
再びジャスマンが声を上げかけるが、王子に視線で制され、悔しそうに黙り込む。
そして――
王子は真っ直ぐに私を見つめた。
「ベルフルール嬢。この婚約は、一度白紙にさせていただきます」
「…………」
やはり、そうですのね。
予想していたはずなのに――胸の奥が、少しだけ痛んだ。
どうして、残念だと思ってしまうのかしら。
すると王子は、柔らかな微笑みを浮かべる。
「あの時、あなたに叩かれて……初めて気付いたのです」
静かな声が、まっすぐ胸へ届く。
「だからこそ、今度は偽らずに申し込みます」
王子の真摯な眼差しが、私を捉える。
「もう一度――僕と婚約していただけませんか?」
その瞳から、目を逸らすことができなかった。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。




