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第四話 揺らぐ心

第四話です。よろしくお願いいたします!

「ん…………」


気が付くと、覚えのない天井が見えた。


「あれ…………ここは…………」


「目が覚めたか」


聞き覚えのある声に、曖昧だった記憶が一瞬にして思い出される。

思わず飛び起きると、ベッドの傍に座っていたグリシーヌと目が合った。


「君が気絶した後、部屋まで送り届けさせてもらった」


「気絶したんじゃなくて、させられたの間違いでは?」


「フッ、相変わらず言葉はキツイな。寝顔は可愛かったのだが」



「…………」



この男に自分の寝顔を見られていたと思うと、ムカムカしてくるが、まあそこは一旦置いておこう。

今はもっと重要な事を話し合わなければならない。



「もう十分では?」


「何がだい?」


「決まっているでしょう。早くここから出して」


私はベッドから立ち上がった。


「私にはやるべきことがあるの」


「ベルフルールを探すことかな」


「そうよ」


グリシーヌは静かに頷いた。


だが次の瞬間。



「だが、その必要は本当にあるのかな」



「え?」


彼の言葉に、思わず足を止める。



「君は何をそんなに恐れている?」



私は言葉に詰まった。


恐れているもの。

そんなの決まっている。


ベルフルールが帰ってきた後のことだ。


「君は本当は分かっているんだろう?」


グリシーヌは立ち上がった。


「五年もの間、ベルフルールとして生きてきた」


一歩。

こちらへ近づく。


「父親も」


一歩。


「母親も」


一歩。


「友人も」


一歩。



「ミュゲも」



そして私の目の前で止まった。


「みんな君をベルフルールだと思っている」


「だから何よ」


「もし真実が明らかになったら?」


胸がチクリと痛む。

言われなくても分かっている。


毎日考えていることだ。


「君は捨てられると思っている」


「っ……」


「違うかい?」


反論できない。


「ベルフルールが帰ってきたら」


彼は続けた。


「君は再びスリジエになる」


「……そうよ」


「本当に?」


「え?」


「君はもう五年間、ベルフルールとして生きている」


彼は静かに言った。


「本当に元へ戻れると思うか?」


その言葉に息が止まった。


戻りたい。

戻らなければならない。


そう思っている。


なのに。

心のどこかで。

ほんの少しだけ。


離したくないと思っている自分がいる。


「君は優しい」


グリシーヌは笑った。


「だからベルフルールを優先する」


「当たり前でしょ」


「だが君自身はどうなんだ」


その言葉が突き刺さる。


「君は何を望んでいる?」


私は答えられなかった。


グリシーヌは扉へ向かいながら言った。


「君が自分の本当の気持ちを認めるまで」


「本当の気持ちなんて分かってるわ」


私は思わず声を上げた。


「私はスリジエに戻る。ベルフルール様を探す。それだけよ」


「そうか」


グリシーヌは振り返らない。


「では聞こう」


「君がスリジエに戻ったとして」


静かな声だった。


だが、その一言で背筋が冷える。


「ミュゲは誰と婚約していた?」


「っ……」


「ベルフルールだ」


答えられない。


「ミュゲが愛したのは誰だ?」


「それは……」


「ベルフルールだ」


胸が痛む。


「彼は知らない」


グリシーヌは続けた。


「婚約者が別人だったことも」


「違う!」


思わず叫んだ。


「私は別人じゃない!」


「そうだな」


グリシーヌはあっさり頷いた。


「私もそう思う」


その言葉に一瞬だけ救われる。

だが次の言葉で突き落とされた。



「だが、ミュゲはどうかな」



呼吸が止まった。



「彼は君がスリジエだと知った時、今と同じように君を見るだろうか」



やめて。



「今と同じように婚約者として扱うだろうか」



やめて。



「王族としての責任を捨ててまで君を選ぶだろうか」



やめて。



それ以上言わないで…………!



「君は本当に、自信があるのか?」



私は何も答えられなかった。


ミュゲ王子は優しい。

誰よりも優しい。


だからきっと責めたりはしない。


だが。

婚約者が貴族の娘ではなく、素性の分からない庶民の娘だったと知った時。


王家はどう動く?

国民は?

貴族たちは?


そして何より───

ミュゲ王子自身は。


本当に私を選んでくれるのだろうか。



「私は君を選ぶ」


グリシーヌは静かに言った。


「君がベルフルールでも、スリジエでも」


「…………」


「どちらでも構わない」


そして扉に手を掛ける。


「だが、ミュゲはどうだろうな」


扉が閉まる。


部屋に残された私は、ただ寝間着を握りしめることしかできなかった。



「……ミュゲ王子」



初めて。

本当に初めて。



『もし受け入れてもらえなかったら』



その可能性が、現実味を持って胸にのしかかってきた。


次回もよろしくお願いいたします!

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