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第九話 彼こそが、この国の王子ですわ

第九話です!どうぞよろしくお願いいたします!


「あ、ミュゲ王子! そしてジャスマン様!」


私は任務を無事終えたことを伝えるべく、満面の笑みで二人の元へ駆け寄った。


「サントゥールの居場所が分かりました…………って、あれ?」


しかし次の瞬間、私は違和感に気づく。


ジャスマンの後ろで、ミュゲ王子がまるで捨てられた子犬のように肩を落としていたのだ。


「えっと、ミュゲ王子はどうかなさったのですか?」


「王子は只今、失恋中です」


「し、失恋中!?」


予想外の言葉に、思わず声が裏返る。


「ジャスマン!誤解を招くような発言は控えてくれ!」


「お言葉ですが、誤解ではありません。事実です」


「ジャスマン!」


王子が真っ赤になって叫ぶと、ジャスマンは涼しい顔のまま一礼した。


「それでは私はこの辺で」


そう言い残し、さっと木陰へ逃げ込んでしまう。



「あの……失恋とは一体……」


「き、気にしないで下さい、ベルフルール嬢!ジャスマンは時々ああいう妙なことを言うのですよ、ははは……!」


乾いた笑みがあまりにも不自然だ。

だが、これ以上踏み込まれる前にと思ったのか、王子は慌てて話題を変えた。


「そ、そうだ!サントゥール君の居場所は突き止められましたか?」


「ええ。ですが、どうやらただの誘拐事件ではないようです」


「……どういうことです?」


私はジョンキーユから聞いた話を説明した。


すると、王子の表情がみるみる険しくなっていく。


「それはつまり……行方不明になっていた人々が、そこで強制的に働かされているということですか?」


「ええ、恐らく。そしてあの男は近いうちに大量の鉱石を手に入れるでしょう。急がなければなりません」


王子は静かに頷いた。


「分かりました。すぐに向かいましょう」




◇◇◇


翌日。


私は寝込んでいるお父様には内緒で、お母様から許可を頂き、ミュゲ王子たちと共に小さな村――ピッサンリへ向かった。


ピッサンリは、美しい山々に囲まれた穏やかな村だった。

人口こそ少ないが土地は豊かで、畑には青々とした作物が実っている。帝都よりも、ずっと平和な空気が流れている。


「しかし、こんな美しい村に本当に鉱山などあるのでしょうか」


日よけ帽子を押さえながら、ジャスマンが馬車を降りる。


「こういう場所だからこそ、人目につかず採掘できるのだろう」


ミュゲ王子も続いて馬車を降りると、自然な動作で私へ手を差し出した。


「どうぞ」


「感謝いたしますわ」


その手を借りて地面へ降り立つ。


爽やかな風が頬を撫でた。



「絶対にサントゥールを……そして皆さんを助け出しますわ!」



そう意気込む私の服装は、いつものドレスではない。

動きやすい粗布の作業着。つまり、農民風の変装である。


「しかしベルフルール嬢。本当に同行なさる必要があったのですか?今からでも我々に――」


「いいえ」


私はきっぱりと言い切った。


「私はサントゥールのご家族に約束しました。必ず助けると。ここまで来て、他人任せにはできませんわ」


王子は少し困ったように笑う。


「……分かりました。では、共に行きましょう」




◇◇◇



私たちは兵たちと共に山道を登り始めた。

崖沿いの道は険しく、足場も悪い。


先頭を行く兵士たちの鎧が、がしゃり、がしゃりと重い音を立てる。


「はぁ……はぁ……」


真っ先に息を切らしたのはミュゲ王子だった。

額から流れた汗が服を張り付かせている。


「もう!だらしないですわね!これでも王子なのですから、しっかりなさって下さいまし!」


「ベルフルール様!王子に向かって何という口の利き方を!」


すかさずジャスマンが噛みついてくる。

だが、その間に入るのはいつもミュゲ王子だ。


「ま、待って下さい二人とも……!」


そんなやり取りを何度繰り返しただろう。

私も、ジャスマンも、兵士たちでさえ疲労の色を浮かべ始めていた。


それでも山道は終わらない。

まるで天へ続いているかのように、どこまでも続いていた。


「本当にここで合っているのですか!」


「ええ……恐らくは……」


だが、内心では不安が膨らんでいた。


もしかすると、あの男に騙されたのではないか。


鉱山など最初から存在せず、全て作り話だったのでは――



そう思い始めたその時だった。



「コラァ!さっさと働け!止まるんじゃねえぞ!」



怒号が山に響き渡る。


一瞬、全員の動きが止まった。


「今のは……!」


「ええ、間違いありませんわ!」


私は声が聞こえた方向を指差す。


「行きましょう!」


私たちは一気に駆け出した。




◇◇◇



「あ、あれは……!」


木々の陰から覗いた先に広がっていたのは、まさに地獄だった。


崖の中腹にぽっかりと空いた巨大な洞窟。


粗末な木組みの足場は今にも崩れそうに軋み、その上を、大量の石を担いだ男たちがふらつきながら歩かされている。


怒号。鎖の音。石がぶつかる鈍い音。


空気には土埃が舞い、人々の疲弊した息遣いが重く淀んでいた。


「ミュゲ王子!あそこです!」


私が指差した先───


そこには、小さな体で必死に石を運ぶサントゥールの姿があった。



「なんて酷い……」



王子が息を呑む。


「ご両親を連れてこなかったのは正解でしたね。でなければ今頃、飛び出していたでしょうから」


ジャスマンの声も低い。



「急がねば。親衛隊、準備は良いか!」


「「はっ!」」


王子が声を上げると、兵士たちが一斉に武器を構える。


その時、一人の隊長が王子の前へ跪いた。



「準備が整いました。いつでも襲撃可能です」



「そうか」


王子は深く息を吸う。


そして、兵全体へ向かって声を張り上げた。



「命令を下す!これより突入を開始する!」



風が吹く。


桃色の上着が大きく揺れた。



「だが決して、誰も殺してはならない!彼らは敵ではない!救うべき我が国の民だ!」



兵たちの表情が変わる。



「特に働かされている者たちには、花よりも丁重に接しろ!良いな!」



「「はっ!!」」



その瞬間だった。


兵たちの士気が、一気に燃え上がる。



「す、すごい……」



私は息を呑んだ。


いつもの優しく頼りない王子ではない。


民を守るために立つ、一国の王子の姿だった。


するとジャスマンが、どこか誇らしげに呟く。


「当然です。ミュゲ王子は民のためとなれば、誰よりも強くなれるお方です。私は、そんなお方に忠義を捧げているのですよ」


再び風が吹いた。

きっとこれは、ミュゲ王子が呼んだ風だ。


優しく、それでいて決して折れない強い意志が、天にまで届いたのだろう。



あなたこそ、国民が望む理想の王子です。


そして――


あなたこそ、私が愛する、たった一人の王子様なのです。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました!次回もお楽しみに!

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