第十話 守りたいもの
ついに第十話まで来ました!
「突撃!!」
「「うおおおおおお!!」」
地を揺らすような雄叫びと共に、親衛隊が一斉に洞窟へなだれ込んだ。
「な、何だ!?」
「兵だ! 逃げろ!」
突然の襲撃に悪人たちは混乱し、まともな抵抗すら出来ない。
洞窟内には怒号と悲鳴が響き渡り、剣と剣がぶつかる鋭い音が反響する。
だが、ミュゲ王子の命令は徹底されていた。
「働かされている者に手を出すな!」
「逃げる者を追い詰めろ!」
兵士たちは鮮やかな連携で悪人たちを制圧していく。
ものの数分後には、逃げ惑っていた男たちは縄で拘束され、我々の前に跪かされていた。
しかし王子は彼らには目もくれず、真っ先に奴隷として働かされていた民の元へ駆け寄った。
そして、優しい眼差しを向けながら声を張る。
「私はこの国の第三王子、ミュゲです!」
疲弊し切った人々が、ゆっくりと顔を上げる。
「皆さん、今日まで本当によく耐えてくれました。もう安心して下さい。これより皆さんを安全に保護し、必ず家族の元へお返しします!」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間――
わあっ、と歓声と嗚咽が一気に溢れ出した。
泣き崩れる者。
その場に座り込む者。
互いに抱き合い、生存を喜ぶ者。
その光景を見た瞬間、胸の奥が熱くなる。
「あ、お姉さん!」
聞き覚えのある声に振り返る。
次の瞬間、小さな体が勢いよく私へ飛び込んできた。
「サントゥール!」
私はその小さな体を強く抱きしめる。
土埃にまみれた髪。傷だらけの手。震える肩。
サントゥールは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、それでも笑っていた。
「絶対、お姉さんが助けに来てくれるって信じてました!だから僕、ずっと待ってたんです!お姉さんなら、きっとまた助けてくれるって……!」
「ええ……ええ」
私は何度も頷いた。
「約束しましたもの。必ず助けるって」
この小さな命を守れた。
その事実だけで、胸がいっぱいになる。
「もう大丈夫ですわ。もう、安心して下さいまし」
「……うん」
安心したのだろう。
サントゥールは糸が切れたように私へ身を預け、そのまま静かに眠ってしまった。
「……本当に、頑張ったのですね」
まだ幼い子供だ。
たった数日でも、彼にとっては永遠のような時間だったのだろう。
私は眠る彼をそっと抱き直した。
すると、こちらへ歩いてきたミュゲ王子と目が合う。
「ミュゲ王子。私はこの子を連れて先に戻ってもよろしいですか?」
王子は穏やかに微笑み、頷いた。
「もちろんです。僕は捕らえた者たちを連行した後、戻ります。ベルフルール嬢はサントゥール君たちをお願いします」
「感謝いたしますわ」
だがその時の私は、救出された男たちの中の一人が、じっとこちらを見つめていたことに気付いていなかった。
その瞳に宿っていた感情が、憧れだったのか、それとも別の何かだったのか。
この時の私は、まだ知らない。
こうして――
私たちは、一つの大きな事件を解決した。
◇◇◇
サントゥールは無事家族の元へ帰った。
他の被害者たちも王宮で治療を受けた後、それぞれ元の生活へ戻っていったという。
「とりあえず、一件落着ですわね」
私はベッドへ寝転がりながら、新聞を広げた。
そこには大きくこう書かれている。
『第三王子、不法労働者を奇跡の救出!』
「奇跡……ですか」
思わず小さく笑う。
けれど、確かに………今回の件を解決できたのは、ミュゲ王子の力があったからだ。
民を守ろうとする優しさ。
決して誰も見捨てない強さ。
あの背中を見た瞬間、私の中にあった迷いは確信へと変わっていた。
後日。
この騒動が落ち着いたら、きちんと私の気持ちを伝えよう。
そう決意した、その時だった。
コンコンコン。
控えめなノック音と共に、扉が開く。
「ベル、いる?」
「お母様?」
入ってきたのはお母様だった。
「どうかなさったのですか?」
「お父様が呼んでいるの。体調も回復したから、あなたに聞きたい事があるそうよ」
「私に?」
「ええ。とても深刻そうな顔をしていたわ」
その瞬間───
私はハッと息を呑んだ。
――口づけの件ですわ!!
完全に忘れていましたわ!
最近いろいろありすぎて、グリシーヌ王子のことなど頭から吹き飛んでいましたのに!
「とにかく。お父様のお部屋へ行って差し上げて」
「は、はい……」
足取りが重い。
胃が痛い。
これはもう絶対に叱られますわ。
いえ、最悪の場合――勘当かもしれません。
修道院送りという可能性も……!
コンコンコン。
「ベルか?」
扉越しに聞こえてきたお父様の声は、どこか弱々しかった。
「……はい、お父様」
「入りなさい」
恐る恐る扉を開ける。
すると、ベッドへ腰掛けたお父様が、真剣な顔でこちらを見つめていた。
ひぃ……怖いですわ……
「あ、あの……ご用とは……?」
「ああ。実はお前に聞きたい事があってな。この前のグリシーヌ王子の件なのだが……」
来ましたわ……!
終わりました。
私の人生、ここで終幕です。
「あ、あの件でしたら……」
「私は一体、グリシーヌ王子と何を話していたのだったか?」
「…………え?」
思わず間抜けな声が漏れる。
「そ、それはどういう意味でしょう……?」
「いや、それがな。頭を強く打ったせいか、あの日の記憶が曖昧なんだ。グリシーヌ王子が来た後、何を話したのか思い出せなくてな」
――そんな奇跡みたいな事、ありますの!?
いえ、お父様が怪我をなさったのですから、喜ぶのは不謹慎ですけれど!
「ああ、その事でしたのね」
私は平静を装いながら咳払いをした。
「グリシーヌ王子は、『結婚してくれたら嬉しいなぁ』と仰っておりましたわ」
「そ、それだけか?何かもっと重要な話をしていた気が……」
「いえ!他には何も!」
私は食い気味に否定した。
「決して!本当に!何もございませんでしたわ!」
「そ、そうか……?」
お父様は首を傾げながらも、なぜか納得してしまった。
……た、助かりましたわーーーー!!
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!




