第八話 王子、失恋!
第八話です!よろしくお願いいたします!
「ベルフルール嬢は……大丈夫だろうか」
屋敷の外で待機していたミュゲ王子は、不安げにため息をついた。
その背後では、護衛役のジャスマンが静かに腕を組んでいる。
「大丈夫ですよ。ベルフルール様なら、きっと上手くやります」
「そうだな。たとえ色仕掛けが上手くいかなかったとしても、ベルフルール嬢なら……」
そこまで言いかけた瞬間───
ふと、先ほどの彼女の顔が脳裏をよぎった。
潤んだ瞳。
じっと見つめてくる熱っぽい眼差し。
まるで、心の奥まで見透かされてしまいそうな――あの顔。
「っ……!」
ミュゲ王子は慌てて俯き、熱くなった顔を隠した。
「どうかなさいましたか?」
ジャスマンが怪訝そうに尋ねる。
「い、いや……何でもない」
王子は必死に平静を装った。
だが耳まで赤く染まっている。
全く誤魔化せていなかった。
「それにしても、本当に良かったのですか?」
「何がだ?」
ジャスマンは呆れたように肩をすくめる。
「ベルフルール様に色仕掛け役なんてさせて」
「……どういう意味だ」
「だって普通、想い人のそういう顔って、他の男に見せたくないものでしょう?」
――想い人。
その単語に、ミュゲ王子の肩がぴくりと揺れる。
「なのに王子は、自分から“他の男を誘惑してください”って送り出したんですよ?あとで絶対後悔しますって」
「好きな人の……そういう顔……」
王子はぽつりと呟いた。
……確かに。
あの視線を。
あの小首を傾げる仕草を。
あの、胸が苦しくなるような表情を。
今、別の男が見ているのだと思うと――。
「それに、相手は女慣れしている男でしょう?」
ジャスマンはさらに追撃する。
「きっと当たり前みたいにベルフルール様へ触れてますよ。肩とか腰とか、べたべたと」
触れる……?
ベルフルール嬢に……?
しかも、べたべた……?
「な、何だとおおおおっ!?」
ミュゲ王子が叫んだ。
「ちょ、声が大きいですよ!」
ジャスマンは慌てて周囲を見回す。
幸い、人影はない。
だが王子はそれどころではなかった。
「ベルフルール嬢が、あの男にあんな顔を見せているだと!?しかも触られているのか!?」
「だから止めれば良かったんですよ!」
「そこまで考えていなかったんだ!あの時はサントゥール君を助けることで頭がいっぱいで……!」
「他人の子供を助けるために、自分の想い人を差し出したんですか、王子は!」
「うっ……!」
痛い。
言葉が胸に刺さる。
「だ、だが今からでも遅くない! 僕がベルフルール嬢を助け出す!」
そう叫ぶなり、ミュゲ王子は塀へ足をかけた。
「だからダメですって!」
ジャスマンが慌てて腰へしがみつく。
「今突撃したら全部台無しです!」
「そんなこと関係ない! 別の方法を考えればいいだろう!彼女が他の男へあんな視線を向けていると思ったら、腹が立って仕方ないんだ!」
「だからそれを嫉妬って言うんですよ!」
「とにかく離せ、ジャスマン!」
――その時だった。
ガチャッ。
屋敷の扉が開く音が響く。
二人は反射的に塀の陰へ身を隠した。
「……あれは」
ジャスマンが目を細める。
出てきたのは――ベルフルールと、ジョンキーユだった。
「なっ……!?」
ミュゲ王子が息を呑む。
二人はまるで恋人同士のように、ぴったり肩を寄せ合っていた。
しかもベルフルールは、両腕でしっかりとジョンキーユの腕を抱えている。
「あーあ。だから言ったんですよ」
ジャスマンが遠い目をした。
「後悔しますよって」
「べ、ベルフルール嬢……」
胸の奥から、何かがすうっと抜け落ちていく。
これが失恋というものなのだろうか。
『ジョンキーユ様、今日はお会いできて嬉しかったですわ。今度ぜひ、秘密の場所へ連れて行ってくださいまし』
『ああ、もちろんだよ。ベルルン』
「「ベルルン!?」」
二人は同時に叫び、慌てて口を押さえた。
幸い、向こうには聞こえていないようだ。
「ベルフルール嬢を……ベルルンと……?」
ミュゲ王子の顔色がみるみる失われていく。
「いやあ、これはかなりマズいですね」
ジャスマンは容赦なく追撃した。
「向こうの方が一歩リードというか。そもそも王子、ベルフルール様に格好いいところを全然見せられてませんし」
グサッ!
アネモネの剣で刺された傷口へ、さらに別の剣が突き刺さった気分だった。
「ジャスマン……」
ミュゲ王子は力なく肩を落とす。
「僕を慰めてくれ……」
「無理ですね」
「何故!?」
「色仕掛けを提案したの、王子自身ですから。完全に自業自得です」
「うぅ……」
ミュゲ王子は頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
「ベルフルール嬢ぉ……!」
いかがだったでしょうか。可愛いミュゲ王子を少しでも好きになってくれたら嬉しいです。




