第六話 色仕掛けとは
第六話です!どうぞよろしくお願いいたします!
「これはこれは、ベルフルール嬢。この俺に何か御用ですか?」
「ええ。一度あなた様にお会いしてみたかったのですわ、ジョンキーユ様」
今、私が向かい合っているのは――キラーズの後ろ盾となっているラヴァーンド伯爵家の次男、ジョンキーユだ。
どうしてこんな状況になったのかと言えば、少し前に遡る。
◇◇◇
「それで、その伯爵家というのは誰なのです?」
私が尋ねると、お父様は周囲を気にするように声を潜めた。
「ラヴァーンド伯爵家の次男、ジョンキーユ様です」
「ラヴァーンド伯爵家……」
どこかで聞いた覚えがある。けれど、どこだっただろう。
私は腕を組み、しばらく考え込んだ。
――ああ!
「思い出しましたわ!」
「どうかなさいましたか、ベルフルール嬢」
「ラヴァーンド伯爵家の次男と言えば、かなりの女好きで有名な愚か者ですわよね」
「お、愚か者……」
しまった。
思わず本音が口から飛び出してしまった。
私は慌てて口元を押さえる。ミュゲ王子の前だというのに、つい言葉が乱暴になってしまった。
「と、とにかく! 友人から彼の噂を聞いたことがありますの。まさか、あの男がキラーズの後ろ盾だったなんて……」
「ええ。僕も女好きだという話は耳にしていましたが、まさかそこまでとは」
ミュゲ王子は険しい表情で腕を組む。
「どうにかしてサントゥールの居場所を聞き出せないでしょうか。屋敷へ押し入って、無理やり吐かせるとか」
「それは危険です」
王子はすぐに首を横へ振った。
「追い詰めれば、相手は子供を人質に取るかもしれない。そうなれば、サントゥール君の命が危ない」
「ですよね……」
私は肩を落とした。
せめて居場所さえ分かれば良いのに。
「ミュゲ王子、何か良い方法はありませんの?」
「あるにはあるのですが……」
「あるんですの!? でしたら早く教えてくださいまし!」
勢いよく立ち上がると、王子は露骨に困った顔をした。
「そ、その方法は、ベルフルール嬢の協力が必要不可欠なんです」
「まあ、私の?」
「ですが、できれば危険な真似はしてほしくないというか……」
「もったいぶらずに仰ってくださいな」
王子はちらりと両親の方を見る。
そして、なぜか弟妹たちを二階へ行かせると、改めてこちらへ向き直った。
その顔は、耳まで真っ赤になっている。
「そ、その……色仕掛けです」
「……色仕掛け?」
聞き慣れない単語に、私は首を傾げた。
色仕掛けとは何だろう。
絵の具か何かを使うのだろうか。
「えっと……顔に色を塗るんですの?」
「ち、違いますよ!」
ミュゲ王子が慌てて否定する。
「色仕掛け、です!」
「ですから、その色仕掛けとは何なのです?」
「ほ、本当にご存じないのですか!?」
王子は信じられないものを見るような顔をした。
「知らないことくらい、誰にでもありますでしょう? あなたにだって一つや二つはありますわよね?」
「そ、それはそうですが……!」
「でしたら、博識な王子様が分かりやすく教えてくだされば良いではありませんか」
「うっ……」
王子は完全に言葉に詰まった。
助けを求めるように両親へ視線を送るが、二人とも気まずそうにそっぽを向いている。
「ちょっと、見捨てないでくださいよぉ……!」
とうとう王子は涙目になった。
「ミュゲ王子。その“仕掛け”とやらを教えていただかないと、私も協力できませんわよ?」
「うぅ……」
観念したように、王子は小さく息を吐いた。
そして一拍置いてから、真っ赤な顔のまま叫ぶように言った。
「い、色仕掛けというのは! 男に熱い視線を向けたり、意味深な仕草をしたりして、相手の気を引くことです!」
シーン……………
部屋の空気が静まり返る。
お父様とお母様は、「よく言った」とでも言いたげに深く頷いていた。
「あはは。そんなことでしたの?」
「え?」
私は安心して椅子へ座り直す。
「でしたら簡単ですわ! その役目、私にお任せくださいまし!」
そう言って、自信満々に胸を叩いた。
しかし、ミュゲ王子はなぜか不安そうな顔をしている。
「ええと……ベルフルール嬢。本当に意味を理解していますか?」
「もちろんですわ! 熱い視線を送って、いい感じの仕草をすれば良いのでしょう?」
「ま、まあ……間違ってはいませんが……」
「そんなこと、昔から何度もやっていますもの」
「えっ」
「特にお父様には」
「マルグリット公爵に!?」
ミュゲ王子が目を見開いた。
「ええ。怒られた時などにやると、案外すぐ許してくださるのですよ」
「……ど、どうやって?」
「こう、じーっと見つめながら、少し首を傾げたり?」
私は実演しながら小首を傾げる。
するとミュゲ王子は、なぜか勢いよく顔を逸らした。
耳が真っ赤だ。
「と、とにかく! ですから大丈夫ですわ! 慣れていますもの!」
「いえ、ベルフルール嬢……あなたは少し勘違いをしているようです。やはりこの作戦は中止に――」
「いいえ、できますわ!」
私は力強く王子の肩を叩いた。
「必ず成功させてみせます!」
その瞬間、ミュゲ王子は深々とため息をつく。
なぜか、お父様とお母様まで同じタイミングでため息をついた。
「……心配だあ」
王子がぽつりと漏らしたその呟きに、私は最後まで気づかなかった。
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