第四話 危険な集団
第四話です。ここからは少しだけ家族愛、兄弟愛などの色々な形の愛をテーマに書き進めていきます。
「待っていて、今行きますわ!」
私が叫ぶと、ミュゲ王子もすぐ後ろから駆けてくる。
「ベルフルール嬢、一体何が起こっているのですか!」
「分かりません。ですが、急がねば!」
胸を焦がすような不安を抱えながら、私たちは正門へと走った。
「お姉ちゃん!」
こちらへ駆け寄ってきたのは、三人兄妹の弟と妹だった。
だが――兄の姿だけがない。
「一体、どうしたのですか?」
泣きじゃくる二人を抱きしめる。小さな身体は恐怖で震えていた。
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが……!」
「落ち着いて。お兄ちゃんがどうしたのです?」
優しく頭を撫でると、二人は少しずつ呼吸を整えた。
「お兄ちゃんが、怖い人たちに連れていかれたの……」
「何ですって!?」
怖い人たち――?
一体、何者なのだろう。
いや、それよりも今は、連れ去られたという事実の方が問題だ。
「あなたたち、お名前は?」
「私はアネモヌ。こっちはポアお兄ちゃん」
「うん。それで、連れていかれたのがサントゥール兄ちゃん」
「分かりましたわ、アネモヌ、ポア。心配しないで下さいまし。私が必ず、サントゥールを助け出してみせますわ」
そう告げると、二人の顔にようやく安堵の色が浮かんだ。
「ベルフルール嬢」
後ろから、ミュゲ王子が静かに声をかけてくる。
「……何でしょう?」
「僕がいることを、お忘れですか?」
「…………ミュゲ王子」
彼は困ったように笑った。
「もちろん、僕も協力します。これは国の問題でもありますからね」
「本当ですの!? 感謝いたしますわ!」
思わず彼に抱きつきそうになるのを、私は慌てて堪えた。
そうして私たちは、二人の家へ向かうことになった。
「お父さん、お母さん! お姉ちゃんたちを連れて来たよ!」
アネモヌが勢いよく扉を開ける。
すると、中にいた細身の男女が慌てて立ち上がった。
二人とも顔色が悪く、その表情には深い疲労と不安が滲んでいる。
「あなた様が、ベルフルール様でございますか」
「ええ、そうですわ」
「子供たちを気遣っていただき、本当にありがとうございます」
そう言って、二人は深々と頭を下げた。
本来ならもう少し丁重に称賛を受けたいところだが、今はそんな場合ではない。
「今は礼など気にしている時ではありませんわ。サントゥールを助けに行かねば」
すると父親は、苦しげに顔を伏せた。
「その件なのですが……流石にこれ以上、お二人を巻き込む訳にはいきません」
「どういうことですの?」
「相手は、ただのごろつきではありません。背後には、ある伯爵家のご子息がいるのです」
「つまり、後ろ盾を利用して好き勝手している、ということですわね」
「……はい」
父親は悔しそうに拳を握り締めた。
「もし目を付けられれば、私たち庶民には何もできません。少しでも逆らえば、今度はこの子たちまで危険な目に遭うでしょう……」
そう言って、アネモヌとポアを見る。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「金も権力もない庶民には、息子一人すら助けることができないのです」
「…………」
私は言葉を失った。
子を助けたいのに助けられない。
その無力感と絶望は、きっと私には想像もできないほど重い。
「ですから、どうかお気になさらず……息子一人のために、お二人まで危険に晒すわけには――」
「「それはできません」」
まるで示し合わせたかのように、私とミュゲ王子の声が重なった。
ミュゲ王子は一歩前へ出る。
「この国で起きている問題を、黙って見過ごすわけにはいきません。どうか、僕にも手伝わせてください」
「え、ええと……あなた様は、一体……?」
両親も、アネモヌたちも、不思議そうに彼を見つめる。
――そういえば、まだ紹介していなかった。
私はゆっくりと微笑んだ。
「ご安心ください。このお方は私の婚約者であり――」
そして、誇らしく告げる。
「この国の第三王子、ミュゲ王子ですわ!」
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!




