第二話 まさか───
第二話です。どうぞお読み下さい!
屋敷へ戻ると、私はすぐにお父様の部屋へ呼び出された。
「どうかなさいましたの、お父様」
部屋へ入ると、お父様は難しい顔で額を押さえていた。
机の上には、王家の紋章が刻まれた封書。
……嫌な予感がする。
「ベル」
お父様は重たく息を吐いた。
「お前とミュゲ王子の婚約が、破棄されそうなのだ」
「…………え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
婚約破棄。
その言葉だけが頭の中で何度も響く。
「ど、どういうことですの……?」
私が問い返すと、お父様はさらに深く眉を寄せた。
「王様のご意向だ。こちらが承諾すれば、この婚約は正式に解消される」
「王様が……?」
何故、急に。
脳裏に浮かんだのは、あの男の顔だった。
「ですが、お父様。こちらが断れば問題はありませんのでしょう?」
「それが難しいのだ」
お父様は苦々しく口を開く。
「表向きは“こちらの意思で承諾する”という形になる。だが実際は……断れるような空気ではない。暗に、早く承諾せよと迫られている」
「そんな……」
「ここで逆らえば、王家への忠誠を疑われかねん。ベル……ミュゲ王子には気の毒だが……」
「な、何をおっしゃっているのですか!」
気付けば、私は声を荒げていた。
「婚約破棄など、絶対に認めませんわ!」
お父様は驚いたように目を見開く。
「……何故だ? お前は、あれほどこの婚約を嫌がっていたではないか」
「それは…………」
言葉に詰まる。
私にとって、ミュゲ王子とは何なのだろう。
優柔不断で。
少し頼りなくて。
泣き虫で。
でも、誰より優しくて。
誰より真っ直ぐで。
「……分かりません」
私は唇を噛んだ。
こんな時ですら、自分の気持ちを綺麗に言葉にできない。
そんな自分が情けなかった。
「ですが……私は、婚約破棄したくありません」
「ベル。今は一度引くしかないのかもしれん。時が来れば、その時にまた───」
「一度失ったら、もう戻りませんわ!」
私は思わず叫んでいた。
分かっている。
これは偶然なんかではない。
グリシーヌ王子が仕組んだことだ。
私とミュゲ王子の婚約を破棄させ、堂々と自分の婚約者にするつもりなのだろう。
しかも王様まで味方につけて。
どうせ、
“ベルフルールは第一王子の妃に相応しい”
“ミュゲには釣り合わない”
そんなことでも吹き込んだに違いない。
絶対に嫌。
どれほど顔が良くても、あんな恐ろしい男のものになるなんて。
「私は……ミュゲ王子以外と婚約する気にはなれませんわ!」
その言葉は、屋敷中へ響き渡った。
お父様が目を丸くする。
「ベル……」
「お父様」
私はまっすぐ顔を上げた。
「王宮へ行って参ります」
「お、王宮!?」
「グリシーヌ王子と、お話をしなければなりません」
「第一王子と? 何故だ。お前に接点など……」
「……あるのです」
そう。
接点だけではない。
接吻も……………………
「何だと?」
お父様は困惑したように眉をひそめた。
「ベル、一体何が起きているのだ。この父にも話してくれないか? 私は、お前を守りたいのだ」
お父様の優しさが胸に痛い。
だが、流石にあの夜のことを話すわけにはいかなかった。
「舞踏会で、グリシーヌ王子と少しお話をしたのです」
「舞踏会で……?」
「はい。そして、その時に気に入られてしまったようで……」
私は深いため息をつく。
「あのお方、どうやら私を妻に迎えたいらしいのです」
「なっ……!?」
お父様の顔色が変わった。
「そ、それは本当なのか!?」
「恐らくは。ですが、私への想いが本物とは思えませんわ。どうせ他の女性にも同じようなことをしているのでしょう。何せ、ご自身の顔に相当な自信をお持ちのようですから」
「なんということだ……」
お父様は頭を抱えた。
「そんな男の元へ、お前を嫁がせるわけには……だが、どうすれば……」
「ご安心ください、お父様」
私は静かに微笑む。
「私がお話をして参ります。ですから、外出の許可を───」
その時だった。
「旦那様。グリシーヌ王子がお越しです」
「「っ……!?」」
空気が凍り付く。
次の瞬間。
ゆっくりと、部屋の扉が開いた。
規則正しい足音。
まるで、この屋敷の主が自分であるかのように、堂々とした歩み。
鼓動が嫌になるほど早くなる。
そして現れたグリシーヌ王子は、優雅な動作で帽子を取ると、小さく礼をした。
「お初にお目にかかります、マルグリット公爵」
その美しい顔に、柔らかな笑みを浮かべながら。
「私、グリシーヌ王子と申します」
ストーリーの雰囲気が少しずつ変わっていきますが、コメディ要素もまだまだ入れていく予定です。




