第十九話 嫉妬溢れるファーストキス
第十八話です!ドキドキハラハラになっています!
「ま、待って…………」
私は焦ってグリシーヌの手を振り払おうとしたが、私の動きを読んでいるようで、腕を強く握られる。
「痛いですわよ、グリシーヌ王子!」
必死に抵抗しようとするが、彼は離すどころか私の腰に手を回すと、顔を近づけた。
「おや、どうしたのですか?ベルフルール嬢。この私が、あなたの初めてのダンスの相手になって差し上げているのですよ?」
「それが不満だと申し上げているのです!」
初めてのダンスは深い意味を持つ。その相手は自分の一番大切な人、親、または気になっている人を選ぶのが習わしだ。
「それなのに、初めて会った、しかもこんな嫌な性格の男と…………!」
「口に出ていますよ、ベルフルール嬢」
「くっ………いっそのこと全部口に出してやりますわ!その丁寧な言い方も腹が立ちますし、その呼び方も鳥肌が立ってたまりませんわ!」
「なるほど、では親しみを込めてベルフルールと呼ぶとしよう」
「なっ………………!」
こんな男と踊っている姿を見られては、他のご令嬢方、そしてマーガレットやミュゲ王子にまで誤解されてしまいますわ!
早く、早く抜け出さなければ…………
「もう、離してください!」
私は腕を振り払おうとした。だが、後ろへ下がろうとしても、腰に回された手がそれを許さない。
「おや、どうしたのですか?ベルフルール。せっかくこの私が踊って差し上げているのに」
「それが嫌だと申し上げているのです!」
「ふふっ、随分と素直だ」
「あなたと踊っているところを見られたら、誤解されてしまいますわ!」
「誰に?」
「そ、それは…………」
言葉に詰まった、その瞬間だった。
グリシーヌがふと視線を横へ向ける。つられるように私もそちらを見た。
「っ……………………!」
柱の陰に立つミュゲ王子と、目が合った。
誰とも踊らず、ただ静かにこちらを見つめている。
その瞳は苦しそうで、どこか傷ついたようにも見えた。
「ミュゲ王子…………違うのです、これは…………」
必死に訴えたかった。けれど、どれだけ口を動かしても、音楽にかき消されて届かない。
「こら、他の男を見ながら踊るなんて、失礼ですよ」
「っ……!」
そう言うと、グリシーヌは私の顎にそっと指を添え、無理やり自分の方へ向かせた。
「や、やめ…………」
逃げようとした時には、もう遅かった。
ぐい、と頭を引き寄せられる。
「……………………!?」
次の瞬間、唇に温かく柔らかな感触が重なった。
それがグリシーヌの唇だと理解するまでに、そう時間はかからなかった。
誰もがダンスに夢中な中、その光景を見たのは不幸なことに、ミュゲ王子ただ一人だった。
ゆっくりと唇が離れていく。
──その途端、ダンスの終わりを告げるように音楽が止まった。
「あ…………あなた……………………」
上手く声が出ない。あまりにも唐突で、そしてショックで…………
「どうしたのですか、ベルフルール。何か問題でも?」
「……………………」
唇を押さえたまま、私は固まった。
思考が全く働かない。頭から血の気が引いていく。
何が起きた…………?
何故、私は……………………
「ミュゲとはまだしていないのだろう?あいつはそんなことが出来るような勇気の持ち主ではない。それに、その反応からして、君のファーストキスの相手はこの私だったようだね」
まだ唇に、あの感触が残っている。
どうしても消えてくれない。
「君はもっと喜ぶべきだ。私にとってもキスは初めてだったのだから。ミュゲより先に、私が奪ったのだから…………」
「い…………いやああああああああああああああ!!!」
私はとうとう耐えられずに奇声を上げた。
次の瞬間、シャンデリアのガラスがパリッと割れる。
会場の明かりが一斉に消え、辺りは真っ暗になった。
「誰か明かりを持ってこさせろ!」
「何なんだ今の叫び声は!」
「何も見えないわ!早く明るくしてよ!」
突然の暗闇に、会場全体が大騒ぎになる。
私のせいでこんなことに…………。
この日のためにどれほど努力してきたことだろう。マーガレットにも、先生にも申し訳ない。
その時だった───誰かに腕を掴まれたのは。
「誰…………!」
「私です、ベルフルール嬢」
「っ……その声は…………!」
間違いない。この声はミュゲ王子…………!
どうして間違えることができようか。
「どうして…………」
「話はあとです。……今は、ここから離れましょう」
そう言って、ミュゲ王子は私の手を引いた。
私たちはそのまま会場を抜け出し、外にある庭園へと向かった。
いかがだったでしょうか。次回もどうぞお楽しみに!




