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第十八話 危険な香り

第十八話です!どうぞお読み下さい。

「えっと…………」



どこかで会ったことがあるようなないような。だが、会ったことがあれば確実に覚えている顔なのだが…………


「申し訳ございません、どちらのご子息でしょうか」


無礼を承知で聞くことにした。どこかで会っていたら申し訳ないが、会ったこともないのに、知っている素振りを見せる方がよほど失礼に違いない。



「おや、私の顔を知らないとは…………」



その男は不思議そうな眼差しで私を見てくる。こちらとしては申し訳なさでいっぱいだ。


「ではグリシーヌと名乗ればお分かりいただけますね?」



グリシーヌ、グリシーヌ…………



どなたかしら。聞いたことがあるような気はするが、全く思い出せない。



「あ、ああ。思い出しましたわ。いつも父がお世話になっております」



全く思い出せないが、とりあえずは父の知り合いだろう。こう言っておけば大丈夫なはずだ。知らないと言えば、相手の気を損ねる。ここは多少の嘘も必要だろう。


「思い出してくれましたか」


「ええもちろんですわ。あなたのようなお方を忘れるわけがございませんもの。私も久しぶりに侯爵様にお会いしたいですわ」



「…………侯爵、とは?」



し、しまった!間違えたみたいですわ!身なりからして伯爵家のご長男か何かかと推測しましたが、もしかしたら公爵家の方だったのかもしれません!


「あ、いえ。伯爵様、でしたね…………私ったらすぐに忘れてしまって…………ははは」


「伯爵…………?」


段々彼の顔が曇り始めた。



まずいですわ、伯爵でもありませんの?ですが、王宮に呼ばれる貴族の多くは公爵、侯爵、伯爵のはずですのに…………




「も、申し訳ございません!思い出していなかったのに、思い出したと嘘をついてしまいましたわ」




私は潔く謝った。

今度から貴族リストを念入りに覚えておかなければいけませんわね。



「ふっははは!」



「え…………?」



「やはり、君は面白い。ははは」


急に笑い出した彼に、私は思わずポカンとした。



「すまない。まさか私のことを知らない令嬢がいるなんて思わなかったのだ」


「は、はあ」



「改めて名乗らせてもらおう。私はこの国の第一王子、グリシーヌだ」




「だ、第一王子!?」




はっ!




思わず心の声が口に出てしまいましたわ。これは上品さに欠ける行い………またいつもの私に戻りつつありますわ。ちゃんとしなさい、ベルフルール!



「も、申し訳ございません。取り乱してしまって」


「構わない。むしろ君を気に入ったよ」


「へ?」


「弟から聞いたよ。君が、私に花束を贈る提案をしたらしいね。花言葉を使って」


そうでしたわ!第一王子といえば、つい先日花言葉で仕返しをしてやった男でしたわ。

まさか、それを根に持って…………



「申し訳ございません。あれは全て私の責任でございますわ。マーガレットは何一つ悪くありませんの」



「ほう、全て君の責任だと?」


「はい。マーガレット様からお話を聞いて、それで…………」


そう、元と言えばあなたが悪いのよ。あなたがマーガレットに酷いことを言うから…………


「おや、私があの女に何か言ったかな?」



はあ!?ちょちょちょ、何を言っているのかしら!



まさかの無自覚ですの…………?ほんと最低ですわよ!

あんなにも女性を傷つけておいて…………



「マ、マーガレット様は…………泣いていらしたのですよ?あなたが美しくないだなんておっしゃるから…………」



「ほう、それで?」



「それで?ではありませんわ!無自覚過ぎるのもほどがありますわよ!女というものは、顔を悪く言われるのが一番傷つくのですわ!しかも、マーガレット様は完璧な貴婦人になろうと努力していましたのに…………」



「…………どうやら、君は勘違いをしているみたいだ」



「…………え?」



私は一瞬言葉を失ったが、すぐに反論した。



「何が勘違いですって?理由がどうであれ、あなたが人の心を傷つけたことに変わりありませんわ!」


「確かにそれは、私も言葉が足りなかったと思っている。私が言いたかったのは、あの女は自分を偽り、私に取り入るために猫を被っていた。そういう女が何よりも嫌いなのだと伝えようとしたんだ」


「そ、それは…………」


「直接そう言ってしまっては、あの女は今よりもずっと傷つくはずだ。だから言葉を濁して伝えようとしたのだが、どちらにしても結局傷つけることになってしまったようだ。女というものは、実に扱いが難しい生き物だ」



「…………」



「どうした、何か言いたい事でも?」


「あの女という呼び方はおやめください。彼女にはマーガレットと言う立派な名前があります」


「ほう、確かにそうだ。だが、私は彼女だけでなく、他の女のこともそう呼んでいる。私は女が嫌いだからな。特別な関係にない限り、滅多に名前を呼ぶことはない」


何もおかしくはない、と言った顔で私を見てくる。イケメンな王子相手とは言え、少し腹立たしい。


「なるほど、ではその性格はお直しになった方がよろしいかと」


「何故だ?私はこのままでもいいと思っているが」


「あなたが嫌われてしまいますわよ?第一王子がこんな男だと知られれば、王位継承権が危ういのでは?」


「それはないだろう。少なくともミュゲよりは、私の方が優れている」


そこで彼は薄く笑った。


「性格も、顔も、な」



「………な!」



「君だって残念に思っているんだろう?婚約者の顔があれでは」


私の怒りは頂点に達した。母親違いだとは言え、実の弟を馬鹿にするなんて…………!




「あなたは弟を何だと思っていますの!」




その瞬間、グリシーヌの表情が陰った。



「私にとって、兄弟とは邪魔な存在でしかない。王位を狙い始めたら、弟ではなく、私の敵になるのだから」



「っ…………!」



まさか、この男…………ミュゲ王子の命を狙って…………




「…………なんてな」



「え………?」



急に王子の顔がパッと明るくなり、先ほどの笑顔に戻った。


「冗談だ。私は第一王子であり、次期国王はこの私以外ありえない。だから弟を殺して王になろうなどとは一切考えていない。そもそも、その必要がないからな」


「………そ、そうなのですね」


私は引きつった笑顔を見せる。彼の笑顔が嘘っぽく見えたのだ。



「…………確かに今までミュゲと対立したことはなかったが、今回ばかりは避けられそうにない」



「え…………?」



「いや、急にあいつが羨ましくなったのだ。あいつはこの世で一番美しい宝を持っている」


「宝?第一王子であるあなたが持っていないものをミュゲ王子が持っているなんて………」



「今は、な。だがそのうち、それは私のものになるだろう」



「それはどういう………」



それを聞く前に、グリシーヌは私の手を取って広いホールの真ん中まで連れて行った。


すぐにゆったりとしたクラシックが演奏され、ダンスが始まったのだと気が付いた。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

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