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第十六話 今夜の主役

第十六話です!

「はい、そこまで」


先生の合図を受けて、動きを止めた。


「お二人とも、今日までよく頑張りましたね。社交教育は今日で終わりです」


その言葉に私たちは顔を見合わせた。


「それは、どういうことですか?」


「お二人にお教えできることはもうありません。デビュタントに向けての教育でしたが、二人とも今までよく頑張ってきましたので、予定よりも早くレッスンが終わったのです」


デビュタントというのは、社交界に初めて正式に登場する若い女性と、そのデビューを祝うための舞踏会のことだ。令嬢であれば誰でも参加しなければならない。


「ということは、この地獄からようやく解放されるのですね!」


確か私たちのデビュタントは数日後の舞踏会だったはずだ。予定よりも早いと言っても、たったの数日だが、それでも嬉しい。


「ベルフルール様、地獄とは何です?」


「あ、いえ…………何でもないです」


思わず心の声が出てしまい、目を逸らす。


「まあとにかく、お二人とは今日でお別れです。短い間でしたが、お二人と過ごせてよかったです」


「え、これからはもう会えないのですか?」


マーガレットが寂しそうに聞いた。


「ええ、お二人にとっても嬉しいことでしょう?ようやく私という鬼から解放されるのですから」



「「……………………」」



私たちは黙り込んだ。きっと思っていることは同じだろう。



「先生!私、レッスンは嫌でしたが、先生のことは好きです!」



先に沈黙を破ったのはマーガレットだった。


「マーガレット様…………」


「先生!私も同じですわ。先生と会えなくなるのはとても寂しいですの。レッスンが終わっても、どこかでお会いできませんの?」


「ベルフルール様…………」


私たちの反応が意外だったのか、先生はとても驚いていた。


「今まで、そんなことを言われたことはありませんでした。そう言っていただけるだけで感無量です」


先生の表情が少し和らいだ。


「心配しなくても、きっとすぐに会えますよ」


「本当ですか?」


「ええ、嘘はつきません」


「是非お茶会にお誘いくださいね!約束ですよ!」


「分かりました。お約束いたします」



そうは言ったものの、まさかこんなに早く再会できるとは思いもしなかった。



デビュタント当日。



私は動きにくいドレスを身にまとい、たくさんのアクセサリーをつけながら、馬車を降りた。

もちろん私のお気に入りのブローチも胸にしっかりと輝いている。


「ベル、そんな古いブローチをつけるのか?新しいものを買ってやるといつも言っているのに」


お父様がブローチを見て言った。


「いいえ、これは私のお守りですの。決して捨てませんわ」


「まあ、王宮で落とした時、わざわざ取りに帰ったくらいだからな」


そう、王子の性格を知ることになった原因でもあるこのブローチは、その後王子の部屋で無事見つけることができたのだ。


「ではいこうか」


「はい、お父様」


私はお父様の腕に手をかけながら、舞踏会が行われている王宮へ向かった。


「まあ、あれがベルフルール様?」


「ご覧になって、あの優雅な立ち振る舞い」


先生の指導のおかげで、細部までの私の動きは完璧と言えるほどであった。

質問に答えられず、レッスンすらも受けさせてもらえなかった令嬢たちもいたが、その振る舞いは言うまでもないだろう。


「あちらも見て。マーガレット様よ」


少し離れたところで注目を集めているのはマーガレットだった。


今夜ばかりは彼女も少しは緊張しているように見えたが、こちらに気が付くといつものツンとした笑顔に戻った。


「よかったですわ。楽しそうで」


彼女にしたらこの舞踏会は今までの努力の成果を存分に見せつけられる場なのだろう。

あの日の泣いていた彼女の姿はどこにもなかった。


その時、会場の明かりが消え、階段上の扉にライトが当たった。



「ご来場の皆様、お待たせいたしました。国王陛下と王妃陛下のおなりです」



司会者らしき男が合図をすると、扉が開き、豪華な服装のお二方がいらっしゃった。


「王様だわ!」


「王妃様よ!」


会場が大いにざわめいた。私も初めて拝見するそのお顔に心が躍る。

確かにお二方とも綺麗なお顔立ちをされている。特に王妃様は噂通り、いやそれ以上かもしれない。


お二方が並ぶと、それはもうお似合いで…………もちろん、ミュゲ王子のお母様が悪いとは言っておりませんわ。まだどんな方か存じ上げておりませんので。


お二人が階段を降りると、その周りには一気に人が集まった。


伯爵や男爵たちが、こぞって娘を紹介している。

皆、王子方の妃候補として名を売り込みたいのだろう。


だが、どの名高き令嬢でも、その振る舞いはマーガレットの足元にも及ばない。



「あら、何を考えておられるのです?ベルフルール様」



急に耳元で声を掛けられ、思わず体が跳ねた。




「マ、マーガレット様!?」




「ふふふっ。心ここにあらず、のご様子でしたので、声をかけさせていただきました」



流石はマーガレット。彼女の仕草はすべてが貴婦人のようだ。言葉、身振り、そして視線までも───


「やはり、マーガレット様が一番貴婦人らしいですわ」


「何をいまさら。そんなこと、初めから分かっていたでしょうに」


ここでもまだ多少の自慢が入るが、そこも彼女らしい。前まであんなに嫌いだったのに、今ではその言葉を待っている自分がいる。


「自信を持つのです。今夜の主役はあなたなのですから」


「ええ、このマーガレット。今夜こそあの第一王子を振り向かせてやりますわ」



「まだ振り向かせようと?」



「もちろんです。この私を振ったことを後悔させてやりますの!」


あの憎き王子に堂々と立ち向かおうとする彼女がかっこいい。

第一王子との婚姻は祝福できるものではありませんが、もし彼女が次期王妃になったら、この国はしばらく安泰ですわね。


私たちが楽しく話をしていると、再び階段上の扉が開いた。




「王太后様のおなりです」




「王太后様ですって?」


「滅多に公の場にはお出にならないのに、どうして…………」


私たちが視線を向けると、扉から見覚えのある貴婦人が歩いてきた。




「「せ、先生!?」」




そう、その人物とは、私たちの大好きなガルデニア・アドニス先生だったのだ。


お読みいただきありがとうございました。先生が王太后であったことに気が付かれた方はいらっしゃいましたか?

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