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第十二話 ベルフルール、即退場!?

第十二話です。どうぞお読み下さい!

「それでは皆様、準備はよろしいですね? これよりテストを始めます」



ゴクリ――。



ついに、この時が来てしまった。



徹夜のせいで瞼が重い。あくびが漏れそうになるのを、私は必死で押し殺した。


「テストは口頭で行います。私の質問に正しくお答えください」


ガルデニア先生は静かにそう告げると、一人ずつ名前を呼び始めた。



「では、マデラー様。食事中に席を外す際、ナプキンはどこへ置くのが正解でしょう?」



静まり返った部屋。

響くのは先生の凛とした声と、緊張で荒くなった呼吸音だけ。



名前を呼ばれた令嬢は、青ざめながら口を開いた。


「え、えっと……テーブルの上、です!」


「いいえ。不正解です」


先生は一切表情を変えない。


「食事中に席を外す際は椅子の上へ。食事終了後はテーブルの上へ置く。それが正解です」


「そ、そんな……!」


「これは比較的簡単な問題でした。それすら答えられないようでは話になりません」


先生は淡々と言い放つ。



「明日からは来なくて結構です。お帰りください」



「ま、待ってください!」



令嬢は泣きながら頭を下げた。


「他の問題なら答えられます! お願いします、追い出さないで……!」


本気だったのだろう。

王子の妃になりたいという気持ちだけは、本物だった。


だが先生は冷たい視線を向けるだけだった。


「それほど悔しいのであれば、昨夜、その倍の涙を流しながら勉強をするべきでしたね」


「っ……!」


反論できないまま、彼女は使用人に連れられて部屋を後にした。



「次、ピエデラ様」


それからも同じだった。



呼ばれる。


答えられない。


追い出される。



まるで作業のように、令嬢たちは次々と脱落していく。


いつ自分が呼ばれるのか。


その恐怖で、心臓が嫌な音を立てていた。



「次、マーガレット様」



「はい!」



マーガレットは堂々と前へ進み出た。


さすがに自信があるのか、その顔に迷いはない。


「実践問題です。食事をこちらへ」


使用人が小さな机を運んでくる。


皿の上にはパン。

横にはナイフとフォーク。


「このパンを、正しい作法で召し上がってください」


マーガレットは迷わなかった。


パンを小さく手でちぎり、上品に口へ運ぶ。


何度か同じ動作を繰り返した後、先生は静かに頷いた。


「合格です、マーガレット様」


「パンはナイフで切らず、小さくちぎっていただく。それが正式な作法です。よくできました」


「ありがとうございます」


マーガレットは当然と言わんばかりに微笑み、こちらへちらりと視線を寄越した。



……性格は最悪ですが、努力家なのは認めざるを得ませんわね。



「最後、ベルフルール様」



――来ましたわ。



「はい!」



私はマーガレットに負けないくらい大きな声で返事をし、胸を張って前へ出た。


私はミュゲ王子の婚約者。

マルグリット・ド・ベルフルールですわ。



誰にも負けるものですか。



「それではベルフルール様。質問を始めます」



大丈夫。


昨夜、二人と必死に勉強した。

覚えていないことなんてない。


そう言い切れるくらいには頑張ったのだ。


「晩餐会でスープを飲む際、手前からすくうのが正しいとされています。さて、それは何故でしょう?」



……え?



頭が真っ白になった。



分からないのではない。


問題そのものがおかしいのだ。


確か――この国ではスープは“奥から手前へ”すくうのが正しいはず。

外側へこぼさないために。



確かに手前からすくう国もあるが、それは他国の話である。



なのに何故……?



「ベルフルール様?」



先生の声で我に返る。



私が間違えて覚えた?



……いいえ、そんなはずはない。


昨夜、あれほど確認し合ったではないか。



「分からないのですか?」



指摘するべきか。

それとも私の勘違いなのか。



いや、でも先生が間違えるはずが――



「答えられないのであれば、お帰りください」



その瞬間。



私は決めた。


二人と過ごした時間を、信じる。


あの二人が、私のために睡眠まで削ってくれたのだ。

絶対に無駄になどしない。


「何をしているのです。早くベルフルール様を――」


「恐れながら、その問題には答えられませんわ」



「…………!?」



空気が凍った。


先生の目が細くなる。


「今、何と?」


「答えられません、と申し上げました」


「分からないのであれば――」


「いいえ。この問題が間違っているのです」


ざわっ、と部屋が揺れた。

先生の表情が険しくなる。


「……まさか、教育係長である私が間違っていると?」


「はい。その通りですわ」


周囲の使用人たちが息を呑む。


横目で見ると、マーガレットは信じられないものを見る顔をしていた。



……そう。



確かに先生が本当に間違えるはずはない。


だからこそ、考えられる答えは一つ。



「わざと、ですわね? 先生」



その瞬間、先生の眉が僅かに動いた。


私は続ける。


「この問題は、単なる知識問題ではありません」


「違和感を覚えながらも、“相手が教師だから”と黙って従うのか。それとも、自分の知識を信じ、間違いを指摘する勇気があるのか」


「つまりこれは、知識と発言力、両方を試す問題だったのです」


そう。


先生が間違えるはずはない。


ならば意図的に誤答を提示したと考えるのが自然だ。



よく言い切りましたわ、マルグリット・ド・ベルフルール!



今すぐ自分を褒め称えたいですわ!



……心臓は破裂しそうですけれど。



すると先生の表情が、わずかに和らいだ。



彼女は静かにこちらへ歩み寄り、私を真っ直ぐ見つめる。


「……見事ですわ、ベルフルール様」


「ここまで見抜けるとは思いませんでした。流石、第三王子の婚約者です」


思わぬ称賛に、一瞬言葉を失う。


「あなたには、他の方より難易度の高い問題を出しました」


「本当に王子の妃に相応しい人物か、見極めるためです。申し訳ありませんでした」


先生は深々と頭を下げた。


その姿さえ美しい。


私は胸を張る。


「いいえ」


私は首を横に振った。



「王子の妃が、この程度の試練も乗り越えられず、どうして国を支えていけるでしょう?」



まるで自分の言葉のように、堂々と言ってみせた。



「先生のおかげで、大切なことを学ばせていただきました。感謝いたしますわ」



申し訳ございません。ほんの少しだけ先生の言葉を引用しました………ほんの少しだけ、ですわよ。



「ベルフルール様。あなたは文句なしの合格です」



先生は静かに頷いた。


「そして、他の合格者の皆様も。大変な努力をされたことでしょう」


「これほど多くの方が合格されたこと、嬉しく思います」



良かったですわ……!

たくさん残ったのですね!



私は安心しながら後ろを振り向いた。



そして――固まった。



「……え?」



部屋に残っている令嬢。



マーガレット。


そして私。




――以上。




……え、二人!?



たった二人しか残ってませんわよ!?

それのどこが“たくさん”なんですの!?


「では皆様。明日から本格的な教育へ入ります」


先生はさらりと言った。


「こちらの本を、明日までに読んでおいてください」


差し出された本を見た瞬間。


私は絶望した。


昨日の倍はある。

もうこれは本ではない。


鈍器…………ですわ。



も、もう婚約破棄してくださいましぃいいいいいい!!


お読みいただきありがとうございました。次回も楽しみにして下さい!

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