表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使徒がドジすぎて、巻き込まれた高校生が、破壊神と交渉してきます  作者: 松本正樹
第9章「風の歌を奏でん」
81/132

第7節「千射弓」


 養子縁組の余韻も束の間。現実が待っていた。


「次の世界に行くには、ゲートの鍵が必要だ」


 ゼファーのテントに集まった三人。エリカが切り出した。


 テントの中は薄暗い。入口から差し込む光だけが頼り。地面に敷かれた毛皮の上に座り、俺たちは輪になっていた。


「カイトの勾玉は最初の転移で使った。もう鍵としては機能しない。つまり------新しい鍵がいる」


「どこにあるんだ?」


「わからない」


 わからないのか。


『ここまで来て、行き方がわからないって------』


 俺は勾玉を握った。首から下げたまま、いつも身につけている。あの日、「放牧民の国」と唱えて光に包まれた。あれが最初で最後の転移だった。


エリカが腕を組んだ。眉間に皺を寄せて考え込んでいる。分析モードだ。


「覚醒具が星の遺跡にあったんだから、ゲートの鍵もこの国のどこかにあると思うんだけど------」


「ある」


 ゼファーが立ち上がった。


テントの奥に歩いていく。布に包まれた長いものを持って戻ってきた。床に置く。布を開く。


 古びた弓だった。


 木製。弦は切れている。柄には亀裂が入り、先端は欠けていた。どう見ても使い物にならない。博物館行きだ。


だが------不思議な存在感があった。古いだけじゃない。何かを宿している感じ。勾玉を初めて見た時に似ている。


「『静寂の弓』------先祖代々伝わる弓だ」


 ゼファーが弓を見下ろした。


「もう使えないほど古いが、捨てられずに保管されていた。なぜ捨てられなかったのか------昨日までわからなかった」


 覚醒して、わかったのだ。この弓がただの弓ではないことを。


「覚醒の時に、見えたのか?」


「はっきりとではない。だが------この弓が次の道に繋がると、確信がある」


 エリカがすでにめがねに手をかけていた。目が輝いている。新しい謎。新しい古代文字。この子にとっては最高のご馳走だ。


「見せてください」


 エリカが弓を手に取った。丁寧に。壊れそうなほど古い。両手で支えて、ゆっくりと回す。


「......美しい弓だったんでしょうね、これ。曲線が綺麗。材質は------何だろう、見たことのない木だわ」


「柄に文字がある......」


 エリカが弓の柄を指でなぞった。確かに、何か刻まれている。肉眼では風化して読めないが、模様の痕跡は残っていた。


「めがねで読める?」


「たぶん。でも------」


 エリカが俺たちを見た。


「後ろを向いて」


「知ってた」


 俺とゼファーは背を向けた。もう手慣れたものだ。ゼファーも二回目なので渋らない。


背後で、あの恥ずかしい呪文が小さく聞こえた。



「読めた」


 振り返る。エリカがめがねをかけたまま、弓の柄を凝視していた。


「転移の言葉が刻まれてる」


「なんて書いてある?」


 エリカの頬が赤くなった。


嫌な予感がした。


「......『旅人よ風を切り進め』」


「普通じゃん」


「普通じゃないわよ! これ私が読み上げるんでしょ!? 『旅人よ風を切り進め』って------なんかこう------恥ずかしくない!?」


「いや、俺のは『世界で一番愛してる』だったぞ。それに比べたらマシだろ」


「それはそうだけど!」


 エリカが弓を抱えたまま唸った。顔が真っ赤だ。


「なんでこう......恥ずかしい言葉ばっかりなの......」


「アマルの趣味だろ」


「神様の趣味にしては悪趣味すぎない!?」


 ゼファーが腕を組んで黙って聞いていた。口元がわずかに緩んでいる。笑いを堪えている。覚醒して一日で、もうこの二人の掛け合いに慣れたらしい。


「それでだ」


 俺はエリカに言った。


「お前がめがねで調べるから、お前が言うことになるんだよな。毎回」


 エリカが固まった。


「......たしかに」


「ゼファーに教えて、ゼファーが言えばいいんじゃないか?」


「あ」


 エリカが目を丸くした。そこに気づいていなかったらしい。


「そ、そうよね! 転移の言葉を唱えるのは、鍵の持ち主でいいはずだし------」


 ゼファーが頷いた。


「わしが言おう。弓はわしのものだ」


 エリカの肩から力が抜けた。ほっとした顔。今回ばかりは心底安堵しているらしい。


「じゃあ------この弓がゲートの鍵ね。ゼファーさんが『旅人よ風を切り進め』と唱えれば、次の世界に行ける」


 エリカがめがねを外した。弓をゼファーに返す。


ゼファーが弓を受け取った。古びた木に触れる。先祖が残した道。


「静寂の弓か......」


 ゼファーが呟いた。


「お前も------長い眠りから覚める時が来たな」


 弓に語りかけるゼファーの横顔は、穏やかだった。


エリカが立ち上がり、テントの入口から外を覗いた。


「天気もいいし------明日には出発できるわね」


「早いな」


「のんびりしてる暇はないでしょ。覚醒してない末裔が、まだたくさんいるんだから」


 そうだった。ゼファーが覚醒した時に見えた------他の世界に、まだ仲間がいる。


ゲートの鍵は見つかった。転移の言葉もわかった。


あとは------旅立つだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ