第1節「星の遺跡へ」
翌朝、俺たちは野営地を出た。
ゼファー、タクファー、エリカ、そして俺。四人で星の遺跡を目指す。
草原は相変わらず広い。見渡す限りの緑。風が草を撫でるたびに、銀色の波が走る。半年も暮らしたのに、この景色には飽きなかった。
「遠いのか?」
「半日ほどだ」
ゼファーが短く答えた。いつもより口数が少ない。
『まあ、そりゃそうか』
今日は普通の散歩じゃない。自分が末裔かどうか------運命を確かめに行くのだ。緊張して当然だろう。
隣を歩くエリカが、ちらりとゼファーを見た。何か言いたげだったが、黙って前を向き直す。珍しく空気を読んだな。
タクファーが水袋を差し出してきた。
「飲むか?」
「ありがとう」
ぬるい水だったが、草原の匂いがした。この国の水はどこで飲んでも草の香りがする。最初は違和感があったが、今は好きだ。
半日歩いた。
俺は涼しい顔だった。無限の体力。もう慣れた。人間やめてるとか言わないでくれ。
一方、エリカは------
「......はぁ......はぁ......なんで、こんな......元気なの......」
「だから馬に乗れって言ったのに」
「乗れないもの......」
半年経ってもエリカは馬に乗れない。乗ると落ちる。三回に一回は落ちる。もはや才能だ。
「見えたぞ」
ゼファーが足を止めた。
草原の向こうに、灰色の岩山がそびえていた。ごつごつした岩肌が空を削るように突き上げている。草原の柔らかさとは対照的な、荒々しい山だ。
その麓に、ぽっかりと穴が開いていた。
洞窟の入口。
「ここが星の遺跡だ」
ゼファーの声に、わずかな震えがあった。
近づくと、入口の上に何か刻まれている。風化して読めないが、文字だとわかった。洞窟の中から湿った風が吹いてくる。岩と土と------かすかに甘い匂い。何の匂いだろう。
タクファーが松明に火をつけた。パチン、と火花が散る。炎が洞窟の闇を舐めた。
「いくつか洞窟があるが、初代が掘った一番奥を目指す」
ゼファーが先頭に立った。俺たちはその背中に続く。
壁が近い。天井が低い。松明の灯りが揺れるたびに、影が生き物みたいにうねる。足元は乾いた岩。靴底がざりっと擦れる音が反響する。
エリカが小声で呟いた。
「ちょっとした探検みたいね」
「探検だろ、どう見ても」
「そうだけど......なんか、わくわくしない?」
する。めちゃくちゃする。でも認めると負けな気がした。
しばらく進むと、壁に紋様が現れ始めた。丸と線を組み合わせた幾何学模様。見たことのないものだが、どこか規則性を感じる。
エリカの足が止まった。
「カイト」
声のトーンが変わっていた。いつもの好奇心まっしぐらモード。
「この紋様......」
エリカが壁に顔を近づけた。松明の光で紋様が浮かび上がる。
『この紋様......「アマルの世界」に載っていたものと似ている......』
エリカの目が輝いていた。暗い洞窟の中で、その目だけがやけに明るい。
「似てるのか?」
「うん。完全に同じじゃないけど------基本構造が同じ。これ、古代語の一種だと思う」
古代語。この洞窟の壁に刻まれた紋様が、あの本に載っていた記号と繋がっている。
偶然じゃない。
「先に進もう」
ゼファーが促した。
エリカは名残惜しそうに壁から離れた。
『帰りにじっくり見るんだろうな、この子は』
紋様は奥に進むほど密になっていく。壁を埋め尽くすように、びっしりと。まるで誰かが必死に何かを伝えようとしているみたいだ。
洞窟が少しずつ広がっていく。天井が高くなり、松明の光が届かなくなった。
暗闇の中を歩く。足元だけが照らされている。
やがて------空気が変わった。
冷たさの質が違う。閉じた空間から、開けた空間へ。
「着いた」
ゼファーが立ち止まった。
松明を掲げる。
その先に広がっていたのは------




