表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/132

第10節「復路の逆転」


翌朝。復路のスタートだ。


到着順に時間差で出発する。俺が一番。三時間半後にようやく二番手が出る。圧倒的なアドバンテージだ。


アルガンに跨った。黒い毛並み。額の白い星。昨日会ったときと変わらない------はずだった。


「よし、行くぞアルガン」


手綱を引いた。アルガンが動き出す。



『あれ......?』


いつもの爆発的な加速がない。アルガンはのろのろと歩き出した。脚の運びが重い。まるで泥の中を歩いているみたいだ。


「アルガン? どうした」


鞭を入れた。アルガンは走ろうとした。でも------いつもの半分も出ない。


『何かおかしい。昨日まではこんなじゃなかった』


体が重そうだ。筋肉は動いている。でも何か見えない重りを背負っているような走り方。息が荒い。苦しそうだ。


原因が分からない。怪我ではない。脚は引きずっていない。食欲はあった。朝の水もちゃんと飲んだ。なのに------走れない。


蹄の音が鈍い。地面にめり込むような踏み方だ。まるでアルガンの体そのものが重くなったかのような------。


『馬鹿な。体重が変わるわけがない。何かの病気か? それとも------』


エリカがいれば分かるかもしれない。あのめがねで見れば、アルガンに何が起きているか一目瞭然だ。でもエリカはここにいない。


『くそ。考えている場合じゃない。とにかく前に進むしかない』


アルガンを励ましながら走った。無理はさせたくない。でも止まるわけにもいかない。


草原を抜けた。山道に入る。ここからが本番だ。復路は騎馬で山を越えてゴールに向かう。道は狭く、勾配がきつい。


アルガンの脚がさらに鈍った。上り坂が堪えている。普段なら駆け上がれる斜面で、何度も立ち止まった。


『三時間半のアドバンテージ。エリカは3時間あれば十分だと言っていた。でもこのペースじゃ------』


一時間が経った。普段なら二十キロは進めるはずだ。半分も来ていない。


二時間。


後ろを振り向くと遠くに粉塵が見えた。


『嘘だろ......もう追いついてきたのか』


『エリカの作戦が......崩れていく』


拳を握った。手綱を持つ手に力がこもる。アルガンは必死に走っている。苦しいはずだ。それでも止まらない。この馬は根性がある。


気性が荒いだけじゃない。アルガンは強い馬だ。


         * * *


最初の競技者が後方に見えた。豆粒のような影。でも確実に近づいている。アルガンとの速度差は歴然だった。


昼前。山腹の開けた場所に差し掛かった。


後ろから聞き慣れた声が飛んできた。


「カイト!」


振り返った。タクファーだ。風のメドルに跨り、猛スピードで迫ってくる。


「よくここまで持たせた!」


タクファーは笑顔だった。俺の横に並ぶ。風のメドルの脚が力強く地面を蹴っている。放牧民最速の馬は健在だ。


「アルガンの様子がおかしい。昨日から------」


「分かっている。見れば分かる」


タクファーの目が鋭くなった。アルガンの走りを一瞥しただけで、何かを察したようだ。


「原因は後で調べる。今は------走れ。お前のペースでいい」


「でも------」


「お前が止まったら、血の約定は負けだ。お前はゴールしろ。俺が先に行って道を切り開く」


タクファーは拳を突き出した。俺もそれに応えた。拳が当たる。硬い音がした。


「必ずゴールで待ってるからな」


風のメドルが加速した。砂埃が舞う。あっという間にタクファーの背中が小さくなっていく。


放牧民最速。伊達じゃない。


風のメドルの脚は圧倒的だった。タクファーが馬と一体になって駆ける姿は------美しかった。


『頼む、タクファー------』


その背中を見送った直後------。


別の蹄の音が迫った。


「よう、異世界人」


ボルカだ。鉄の牙の精鋭馬に跨っている。不敵な笑みを浮かべていた。


俺のアルガンの状態を見て------全て分かっているような顔だった。


『こいつ------何か知ってるのか?』


「その馬じゃ無理だな。諦めろ」


ボルカは鼻で笑った。減速すらしない。俺の横を風のように通り抜けていく。


「待てよ------!」


叫んだ。でも追えない。アルガンにはもう、あの速度は出せない。


ボルカの背中が遠ざかる。タクファーを追うように、山道の先へ消えていった。


一番手がタクファー。二番手がボルカ。


俺は------三番手。


いや、三番手ですらない。このペースでは後続にもまた抜かれる。


『くそっ......!』


拳を握った。歯を食いしばった。


でも------走るしかない。止まったら終わりだ。


『頼む、アルガン。もう少しだけ------』


山頂が近づいてきた。風が強くなる。道幅が狭い。片側は岩壁。もう片側は断崖。


崖道に入った。


遠くから------風に乗って、馬のいななきが聞こえた気がした。


 嫌な予感がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ